こころ

真っ暗な中でそこしか見えなくなる。

スポットライトそこに照らし出された彼女はとても美しい、白い肌のせいもあり暗闇で光っている様に見える。

そしてなんだか脆く儚く見える。

はっきり見えているはずなのに何故だか輪郭がぼやけてるような幻想的な存在。

幕が上がると一瞬で空気が変わる。

まだ現れただけなのに、なんだか目を離せなくなる。


「あなたは自殺した事がある?

私はある。毎日ある!!

馬鹿みたいな世の中に毎日自分殺しながら生きている。

毎日!毎日!毎日!毎日!私は自殺しているの!!」


迫真の演技。美しさ故にそのセリフが寄り際立って人の醜さを強調させる。

朧げだった輪郭がはっきりと彼女の形にもどる。

客席に漂う緊張感。


そんな中もう1人の女の子にスポットライトがあたる。にこーっ!!って擬音が飛び出て来そうな笑顔。先程までの客席が冬だったとしたら、彼女は春の訪れだ。


「僕はないなぁー!自分殺すなんてこわくてできないよ!そんなことよりさ、こぉーこぉー、なんて言うんだろ、思わず踊りたくなっちゃうような楽しいこと考えようよ!」


ショートカットでボクっ娘。わかりやすいアイコンのお陰でポップな雰囲気になっていく。


「あなたはだれ?」


「僕は僕!君は?」


「わたし?わたしは、誰?」


「君は君、僕は僕。でもー?」


「僕はわたし」


2人が声を揃えたところで。テーマ曲が流れ、目まぐるしく動くライト。その中を2人は目まぐるしく走り回る。わんぱくに。楽しそうに。ふしぎそうに。かなしそうに。



大道具もこの時に設置され、舞台は本編に入る。


本編前のこの部分が自分で作っておきながら大好きだ。もぉ練習で何度も見たが、舞台で観るとまるで別物。

そして、三流の登場。


ここから歯車が狂い始める。

アイドルの舞台だろ?を見返してやったのに、徐々にまた開演前の空気に戻ってゆく。


会場を出て行く人達の声は

セイカちゃんちょー綺麗だったね!

二葉ちゃんのボクっ娘最強じゃね?

等の、アイドルの見た目の話ししかしていない。


初日こそ、彼女らが所属するグループのファンのお陰で蓋を開けてみれば二位、三位を行ったり来たり。初日の喜びなんて一瞬のものだった。


今日こそはと思い、三流を呑みに誘おうかと思ったが春に鉢合わせる。

「今日はおれがこの大物役者様とデートなんだから、お前はあっちのブス2人でも相手にしてな。この日を楽しみに待ってたんだから」

「春!任せていいんだな?」

「今日はエイプリルフールか?」

「は?」

「違うなら大丈夫!」

右手でオッケーサインを作りそのおれに背を向け見えないおれにその手を広げ、ばいばいと振る。


どこまで人を操っているのかその広がった指先から人形を操る糸でも出てるんじゃないかと目を凝らすが、何も見えなかった。


「まかせた!」


誰もいない廊下に響く声。

さて、おれはおれの仕事。ブスと言ったら逆に皮肉になってしまうがブス達の楽屋のドアをノックし入る。

「おつかれさま。明日もこの調子で頑張ろう」


「おつかれさまです」

「はい、おつかれさまです」


糸が切れた人形のようにぐったりとして生気を感じない返事。疲れ切って本当にぶすっとした顔になっている。あのtheアイドルでさえも。


努力が必ず報われるわけなんてないのだけれど、日々与えられる順位と彼女達の出来、成長を考えると3位と言う最下位の数字はメンタル的に応えるのだろう。まだまだ子供なのだから。


「いつも2人は家に帰ったあと何してるの?」


「私はセリフ復習したりひたすら舞台の事で頭がいっぱいで他のことなんてなにもできるわけありません!!」

「僕も。」


嘘言ってないのが、舞台を見ていればわかるのに、つい咄嗟に

「ほんとに?」

なんて言葉が出てしまった。


「私たちを疑ってるの!?私たちの努力が足りないって言うの!?」

「いくらやったって足りないよ。満足できることなんてないと僕は思うよ」

「また二葉ちゃんはそうやって!」


「あぁまた一位取りたいなぁ。完璧じゃないのなんかわかってる。わかってるよ、でもね、完璧にしたいの!僕、私ね、わりとなんでも器用にできちゃうタイプだしね、目立つのが嫌だったからこんなにがむしゃらに何かを頑張った事なくて。でも、なんかお稽古してるうちにどんどんお芝居楽しくなってきちゃって、お芝居の事ばっか考えてる。なのに、でもね、これじゃあお芝居嫌いになっちゃうよ。好きなのに。」


「二葉ちゃん、泣かないで。私も、私も…」


それ以上は言葉は出なかった。この子たちに一位を取らせてあげたい。報われない努力は努力すればしただけ自分の心に鋭利に突き刺さる。

このままではおれは若い才能を2人潰して殺してしまう。まずはこのメンタルだけでもなんとか、ケアしてあげたい。


「そうだ!流星風流のライブDVDみんなでみない?舞台使って大画面大音量で!」


2人とも最初こそ乗り気じゃなかったが、ペンライトを渡すと、2人ともカバンの奥から自分の推しの名前が入ったタオルを取り出し乗り気になった。


大画面に映像が流れ出し、音楽がかかるとオタク顔負けの掛け声やら雄叫びをあげた。

「私この時この辺で見てた」

「私このふりつけ大好き!カッコ良い!」

「やばっ!」

きゃっきゃっと若い女の子らしくはしゃいでいる。そうだった、この子達ももともとオタクなのだ。

舞台と並行してダンスレッスンもやっているのだろうか。踊れる曲が流れると2人とも踊り出す。どこにそんな体力残っていたのだろうか。

全国のファンの皆様、ごめんなさい。おれ立場利用してとんでもないSS席でどこでも披露されてない流星風流の新メンバーライブ観てしまった。ごめんなさいと思いつつ


「セイカ!フタバ!セイカ!フタバ!」


思わずオタクが顔を出す。やってしまったと思ったが2人は顔を見合わせて、爆笑している。


どうやら良いリフレッシュになり重い気持ちから解放されたようで笑顔で

「おつかれさまです」

と、送迎車の中に入って行った。車の中からは流星風流の歌が2人の声で聞こえる。まだはしゃいでいるようだ。


春からメールが届いていた。


わりぃ、やりすぎたかも

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る