僕の親友

一通りインストールしてあるアプリにプレゼント目的のログインを終えると駐輪場から奴が飛び出してきた。

「きのう、わりぃな。どーしてもいけない用事できちゃって!どーだった?」


「どーたったじゃねぇよ、ブログとかネットニュースで知ってるんだろ」


こいつの用事がなんだったのかまでは突っ込まない、つっこめない。ストレートに言って来ないって事はこいつなりに事情があるんだろう。


「ちげーよ!生の声が聞きたいの!現場を体感した声が聞きたいの」

「いろんなSNSとかあるじゃん」

「あんなの誰かに見られる前提で綺麗に書いた文じゃん。もっとあらあらしいなまなましい意見が聞きたいの!」


僕自身もSNS用で身元がばれないようなオタクアカウントを持っている。いわゆる裏アカに近かったので今ではそちらが表だ。


だって、裏アカで認識しあっているネットワーク上での人達は皆仲間なんだ。同じものを好きになった人達だけのつながり。嫌になったらいつでも消せる相手。


そこでの僕は現実世界より一層シンプルに人と接している。

さっきそこに呟いた文をネットようの畏まった言葉でなく、自分言葉やつに伝えたが。


「まぁ、そうか。オタアカで発してるわな。さて、昼休みの問診が長くなりそうですね」

と言い残し自分の教室に繋がる廊下の方へニヤニヤしながら歩いて行った。


僕はオタアカ、つまりは裏アカまでやつにばれてるんじゃないかと少し気にしながらも日常に紛れていく。


午前中のほとんどをきのうの事思い出してはニヤニヤして、ニヤニヤを隠すのに問題集に目をやるが、やはり間近で見た我が推し


秋田 憂


の美しさ、可愛らしさ、触れた手の暖かさ。体感的には冷たかったのだが。手の小ささとかを自然と思い出しニヤニヤしてしまった。


握手列には二度並んだ。

一回目はテンパりきょどり気づいたら終わっていた。いわゆる事故だ。


二度目の握手は大成功。

前に握手していた人が僕のSNSでの拡散か、ライブ前の呼びかけを見かけてくれたらしく、


あのペンライトの企画考えたの次に握手する人なんだよ!的な事を言ってくれていたらしい。


いざ僕の番になると、こっちが言葉を発せずとも


「こんなステキなライブ始めてだったよ、ありがとう!ありがとう!一生忘れない」


と泣きながら僕の手を強く強く握ってくれた。

手を握る。それが握手。僕はこの強い握手を忘れない。


昼休み突入のチャイムとほぼ同時に


「河村一流!!さぁ話を聞かせろ!」


と親友は教室にとびこんできた。人の名前をフルネームで呼ぶのはこいつがテンション高い時なので、午前中思い出していた内容を話さざるを得なかった。


「すげーな!いちるの想い伝わってるじゃん!」

「いやこれもこれも全て雪村優様のお陰でございます!」

「それは当たり前なんだけど、こっちの優ちゃんにもそんぐらいの愛情そそいでくれよな!」


そう親友は腹が立つことに、我が推しと同じ発音のユウちゃんなのだ。


「ってか、なんかユウって名前が付きまとう運命なのかな?」


軽く皮肉めいた意地の悪い不意に出たその一言にこっちのユウちゃんは食いついた。

「いちる。お前は運命とか信じる?」


うーん、と唸りながら考えていると、ユウは言葉を続けた


「俺は信じるよ。でも、なんだろう。憂ちゃんがきのうそうゆう気持ちになれたのは、憂ちゃんの運命的なところもあるけど、お前の努力と憂ちゃんの努力の結果。そうゆう星の下に生まれた。とかではない。でも、お前と憂ちゃんがきのう出会ったのは運命だと思う。おれとお前の出会いも」


こいつはたまに恥ずかしくて耳を塞ぎたくなるようなことをサラッと言う。


「そうなる運命だった。の前に努力やそういたる選択をしたのは自分だってのを忘れちゃいけないんだよ、きっと。全部が運命で決められてるわけじゃない。でも、出会いだったり、自分に影響を与える他人の行動は運命。なんだろな、うまく話し纏まらないけど、運命のせいとか、運命で全部終わらせんなよって話だよ!!」


なんとなく伝わったか伝わらなかったの真意を共有できてない感は否めないのだが、なんか熱いものがあった。


「でも、提案して動いてくれたのは結局お前だったんだよ。ありがとう」

「それも河村一流くん!君の日々の憂ちゃんへの愛が優ちゃんが動きたくなる気持ちにさせたってことだ!運命で済ますなよ!お前の気持ちがおれを動かしたんだからな」

そう言いながら両手を腰に当て胸を張る仕草はイベントを無事成功させたプロデューサーのようだ。


昼休み終了のチャイムが鳴る。

おそらく午後の授業は自分なりに

運命論やら、人生論やらを考える事になりそうだ。

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