　必死で学校生活を送る運動音痴達にとって、体育の時間は苦難の時と化す。

　彼らにとってボールやラケットといった言葉は拷問器具とほぼ同義であるし、視界に入った体育教師や運動神経に秀でるクラスメイトは冷酷無比な敵手と変換されて脳に届けられる。

　今年最後の体育の単元である卓球の授業は、初っぱなから運動音痴達の阿鼻叫喚が体育室に響き渡る結果となった。

　私が最初に組んで試合をした相手は、穏やかそうなとある男子生徒だった。彼とは過去にバトミントンの授業でダブルスとしてペアを組んだことがあるのだが、その際彼が、コートの中心からほぼ動かないという見事な置物っぷりを発揮したおかげで私は惨敗を喫していた。

　その記憶のせいで私は油断していたのだろう。彼が卓球部であるということも忘れて。

　そして飛んできたのは着地点で直角に曲がる変態サーブだった。

　どういう回転を掛けてどういう風に打てばあんなサーブが飛んでくるのだろうか。ストレート負けへ突き進みながら私は考えた。案の定答えは出なかった。

　次に戦ったのは同じ部活にいた悪友で、小説のネタにしたこともある奴だった。そして私は思い出した。彼が一年だけだが卓球部に所属していたことを。

　そして飛んできたのはジグザクに曲がる変態サーブだった。

　本人曰く「サーブだけはちょっと凝った」らしい。あいつの事だ「ちょっと」なんて大嘘に決まっている。

　やっぱりストレート負けを喫したところで、隣の卓球台の試合が始まった。片方は文武両道、ついでにイケメン彼女持ちのサッカー部。要するにリア充。

　卓球にも持ち前の運動神経で早々に対応し、既に変態サーブを習得していた。

　相対するは、卓球部の男。サーブは彼からだった。

　そして飛んできたのは意外や意外普通のサーブ。余裕の表情でラケットを振りかぶるサッカー部。ボールは勢いよく、

　床に落ちた

　後でわかったことだが、卓球部のサーブは打つ直前くらいに軌道が大きく逸れるという実戦向きのサーブだったらしい。

　気勢を削がれたサッカー部だったが、やられたらやり返すとばかりに習得したての変態サーブで挑み返す。

　ボールは首尾良く予想しにくい軌道を描き、スマッシュとなってサッカー部の元へ帰ってきた。

　サッカー部は完全に戦意喪失し、それを打ち返そうともせず、白球に続いて床に崩れ落ちた。

　さしものサッカー部でもこれは相手が悪かったと言うべきだろう。対戦相手の卓球部、ただの卓球部員ではない。何を隠そう本校卓球部最強の男なのだ。

　クラスメイトが歓声をあげる中、私はこう確信した。

「これはサバトだ。化け物達の宴だ」

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