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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑳′′》
ダメな事だとは分かっていた。今自分がした事は自殺行為だ、と。でも、叫ばずにはいられなかったのは事実。俺は藁(わら)にもすがる思いで、浅井さんの名前を叫んだ。が、当の本人からの返答は無し。車内にも聞こえたかは分からないが、俺は一縷(いちる)の望みに掛けた。しかし外からの反応は無し。それもそのはず、俺が叫んだのと同時にパトカーがサイレンを鳴らして通り過ぎて行ったからだ。車は、再び心地よい振動をし始めた。
「くそっ・・・!」
一通りのやり取りを終えたのか、俺が閉じ込めている車はゆっくりと発進してしまった。だが俺は、今の出来事に少し違和感を感じた。
あれ、浅井さんって刑事課の人だよな・・・。こんな時間に飲酒運転の検問なんてやるか・・・?
俺は考えた。今の出来事が意味したものを。そして長考の末、1つの答えが頭に浮かんだ。
・・・何かの事件で、とある車を探してる・・・か?
できればその車は俺が閉じ込められている物であって欲しいが、そんな都合の良い話はないだろう。俺は落胆しつつも、次の手を考えようとした、その時だ。
『しかし珍しいですね、こんな時間に飲酒運転の検問なんて・・・』
『何かの事件ですかね?』
聞こえたのは、男女の会話だった。外の声とは少し感覚が違った。外からの、鉄板を一枚隔てた声よりも籠っていて、まるで紙コップで口を覆いながら喋っている様な、そんな籠りかた。恐らく閉じ込められている車内からの会話なのだが、赤川や宮城の声とは違う。運転手と助手席に座る人の声だろう。
赤川たち以外にも誰かいたのか。というか、『そこ』に2人は居るのか・・・?
俺は疑った。
『もうじき朝日が差す。急ぎたまえ』
ゆっくりとした口調で、宮城は俺の心の声が聞こえたかの様なタイミングで口を開いた。
居るのかよ。
一体どこに連れて行かれてるのかが分からない以上、迂闊(うかつ)な行動は避けた方が良いかもしれない。さっき思わず叫んだのが聞こえてなくて助かった。もし本当にこれから殺されるんだあれば、赤川にはせめて見せたくない。
『本当にあの場所へ行くんですか・・・?』
居るのかよ・・・。ん、あの場所・・・?どこだ?
俺は不意に訪れようとした非日常よりも、赤川の発言が気になった。不安そうな声に対して、宮城は落ち着いて答えた。
『彼には選択してもらいます。我々と共に生きるか、否か・・・』
不穏な空気を察知し、俺は手足を縛られながらも身構えた。車内の会話は、それを境に聞こえなくなった。俺が耳に聞こえない程小さな声で喋っているのか、それとも喋らなくなったのかは分からない。俺は降ろされたら二者択一を迫られる事を頭に置きながら、どうするべきか、覚悟を決めるべきかと悩みながら、残された限られた時間をトランクで過ごした。
そして、俺が次に光を見たのは、体感にしてかなりの時間が経った後だった。車が止まり、すべてのドアから人が降りる音がし、トランクが開いた時だった。
「おや、起きてましたか」
宮城はニコリと笑った。その顔にムカついたのは、向こうにも伝わったようだ。
「運び出してくれ」
「はい」
俺は、ガタイが良い男に担がれた。飲酒運転の検問の時に聞こえた声とは違う。その男に担がれながら辺りを首だけ動かして見回すと、【双響(そうきょう)の渓谷(けいこく)】の入信者であろう人々が他にも大勢おり、まるで野次馬のようにこちらを見ていた。
・・・こんな注目のされ方は気持ち良くないな。
まだこんな事が考えられる余裕がある事に自分自身驚いたが、気になるのは、これから俺はどこに降されるのか、だ。辺りは森だ。俺を担いでノシノシと歩くガタイの良い男は、車から数十メートル歩き、俺を立たせるように降ろした。ここがどこなのかがハッキリ分かった。
「・・・崖、か・・・」
俺が立たされた後ろは絶壁になっており、この国にこんな所があった事にも驚いたが、何より驚いたのはその高さだった。首を動かし見るだけじゃ下が確認できない程、暗く閉ざされていた。宮城と赤川が歩いてきた。
「・・・さぁ、あなたの言う利用価値という物を見出させてもらいましょうか」
と、宮城は赤川に何かを持たせた。
「構えて」
ん?構えて・・・ってまさか・・・!
赤川はカタカタと震えながら、宮城から持たされた拳銃を構えた。
お前・・・マジか・・・。
《ちゅうに探偵 赤名メイ㉑′′》へ続く。
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