⑭′′
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑭′′》
「私は、いつものください」
赤川は席に座るなりマスターに注文をしていた。
いつもの?やっぱり赤川はここの常連なのか。
マスターは彼女の注文を受けると作り始めた。俺と同じタンブラーグラスに、瓶の表記からテキーラを入れたのは分かる。後は何か緑色のリキュールを入れ、ほんのり黄色掛かった液体を入れ、最後にパイナップルジュースを入れていた。
何だ、あのカクテルは・・・?
先程マスターに教えてもらった楽しさから、他のカクテルへの興味が沸いていた。そうこうしているうちに、赤川が注文したカクテルがコースターと共に目の前に出された。次いでお通しのナッツがカラカラと音を立てて置かれ、俺たちは乾杯をした。
『お疲れ様、乾杯』
キンッと甲高い音が店内に響き、俺は再び『エル・ディアブロ』を口に運んだ。
「赤川が注文したのってどんなカクテルなんだ?」
「ん?これは『エバ・グリーン』っていうカクテルよ。私が最初にこのお店に来た時にマスターにお任せで作ってもらってからずっと飲んでるの。美味しいわよ?」
と一口飲んだカクテルを俺に差し出した。俺の喉がゴクリと鳴った。それは赤川が口を付けたグラスだったからか、未知の味のカクテルを勧められたからかは分からないが、俺はタンブラーグラスを受け取った。
俺は中学生か。
とツッコミを入れながらも一口飲む。口の中に広がったのはミントの爽やかさ。パイナップルジュースの酸味と混ざり、何とも心地いい爽快感が鼻を抜けた。
これも美味い。女性が好きそうな清涼感だ。
一口味わい、赤川に返すと、嬉しそうにまたグラスを傾けた。
っと・・・、酒を飲み始めるとトイレが近いな。
俺は尿意に席を立とうとした。
「トイレ?その奥よ」
察してくれたのか、赤川は指を刺した。
「ん」
トイレに入ると、中はモダンな雰囲気が広がっていた。見惚れながらもほろ酔い加減で用を足そうとしていると、1つ思い出した事があった。
「そういえば・・・」
それは、ジャケットの内ポケットに入れられたボイスレコーダー。何か証拠を掴むためにピンクガーデンこと桃園から持たされた物だった。小さく、ボールペンの様な物で、一目見ただけだとそれとは分かりにくい。探偵の必須アイテムらしい。起動の仕方は、ノック式ボールペンみたいに頭のポッチをカチッと一押しするだけ。これで最長15時間の録音が可能だ。単4電池1本で、この小ささでの録音時間は満足できる。
これで良いんだよな?
俺はボイスレコーダーの頭部分を一回カチッと押した。どこかが光る、とか、音がする、とかは全くない。少し不審がりながら、用を足し終えると、再び俺は店内へと戻った。
「おかえり」
「ん〜」
俺は曖昧な返事をしながらも、内心緊張していた。そして切り出す。
「そういえば、俺に話したいことがあったんじゃないのか?」
俺の言葉に表情を暗くする赤川。余程の事なのか、タンブラーグラスを握る手が強くなるのを感じた。彼女は、少し言葉に詰まりながらも答えた。
「・・・ここ2、3日の事だと思うんだけど・・・。誰かに後を尾けられてると思うのよ」
ん?あれ、これって・・・。
「私が家を出た時から、家に帰るまで・・・。これって、ストーカー・・・なのかな・・・?」
ブラックサンダーの事だよなぁ・・・。バレてますよぉ・・・。
俺は落胆混じりに溜め息を吐いた。
昔から勘の良い方では無かったであろう幼馴染からの発言に、俺は探偵の大先輩に対して溜め息を吐いてしまった。
なんと言うべきか・・・。
考えた末に出した答えは、これだった。
「・・・気にしすぎじゃないのか?」
「そうなのかなぁ〜・・・」
赤川は肘をテーブルに乗せて溜め息を吐いた。何か待ってた答えと違ったのか、彼女はあからさまに不満そうな顔をしていた。ブスーッとする赤川を尻目にカクテルを口に運ぶ。相変わらず美味いままだった。
って、アレ・・・?
俺は体に起きた違和感にすぐ気付いた。が、気付いた瞬間には既に遅かった。そして横に座っている赤川を睨み付けた。
「お前・・・な、にを・・・」
強烈な睡魔に襲われ、俺の記憶はそこで途絶えた。
「・・・・・・・・・」
あれから何時間経ったのかは分からない。俺はコンクリートの冷たさで目が覚めた。
「ん・・・。あれ、ここは・・・、どこだ?」
見慣れない場所に、パニックを通り越して冷静になっていた。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑮′′》へ続く。
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