詭弁問答

江東せとら

詭弁問答



「わたしはね、あれが至極不快なの」


「えぇそうですか」


「それも腹切って死ぬほどよ」


「そうですか」


「関係者各位を皆殺ししたいほどよ」


「そうですか」


「過剰な拒絶反応で、全裸になってのたうちまわるほどよ」


「そうですか」


「………ふーん。じゃあ単刀直入に言うわね。

あしたの体育祭を中止なさい」


「それはできません」


「あらなぜかしら?」


「みんな体育祭に向けて準備を進めてきたので、その努力を水の泡にはできませんから」


「あなた馬鹿?

体育祭を決行すれば水の泡どころか真っ赤な血が流れるのよ!」


「ちょっとよくわかりませんが」


「ほんと馬鹿ね、死人が出るって言ってるのよ!」


「でないとおもいますよ」


「楽観的すぎるその思考がこんな行事をつくってしまったんだわ!」


「そんなこと僕に言われても」


「ほんとなんなの!これでも体育祭実行委員の端くれかしら?」


「僕は一年なので。

会を取り仕切ってるのは実行委員長です」


「実行委員長?」


「桐山先輩です」


「桐山君?

彼なら、話が通じなかったからさっき蹴り殺してきたわ」


「もう死人が出てるじゃないですか」


「言葉の綾よ」


「そうですか。

では副委員長は?」


「廣野君のことね、

彼なら話が通じなかったからさっき股間を蹴りあげて再起不能にしたわ」


「……どっちが再起不能になったんですか」


「股間の方だけど」


「…………」


「なによ、黙っちゃって」


「いえ、僕以外の実行委員は今何らかの形で動けない可能性が高いな、と」


「あら、そう。

ということはもうあなたしか残っていないということね」


「かといって中止する権限が僕に委託されるわけでもないでしょう」


「じゃあ、あたしが委託してあげるわ。

はい、どうぞ!これからは世のため人のためにこれを使うのよ」


「いや、いただけませんよ」


「なに遠慮してるの」


「拒絶です」


「まさか!全裸でのたうちまわる気ね!」


「それはあなただけです」


「なーんか、さっきから可愛くないわね。ほら『にゃん』って言ってみなさいな」


「僕に何を期待しているんですか」


「あ、そうだ!

体育祭のことだったわね、つい目的を見失ってたわ」


「これから先が思いやられますよ」


「そうそう死人が出るってとこからだったわね」


「そうですね」


「どうせ納得しないでしょうから根拠を示すわ!」


「それはありがたいですね」


「これからは論理の時代なのよ、おちびちゃん」


「一番破綻してる人が何言ってるんですか」


「まずは、そう……綱引きね!」


「綱引きですか。何か問題が?」


「大問題よ!

あんなもの握ったら摩擦で手が焼けちぎれるでしょう!?」


「多少の痛みも競技のうちですよ」


「やったことがないからそんなことが言えるのよ!」


「やったことあるんですか」


「はっ、やっぱり馬鹿 ね。やってたら死んでるに決まってるじゃない!」


「…………」


「どうしたの?また黙っちゃって」


「いえ、どうしてこうも無茶苦茶なのに妙に説得力があるのか思案していただけです」


「え……ん、ほ、誉めたって何もでないんだから!!」


「誉めた覚えはないです」


「まぁいいわ。

じゃあ次、悪しき組体操ね」


「悪しきって」


「だってあれ危ないでしょ」


「危険な技は事前にこちらからストップをかけましたよ」


「甘いわ。

まず、はだしでやることがだめなのよ。ゲンに謝りなさい」


「あなたが謝ってください」


「呆れた。謝って済むと思ってるのね?」


「あなたが言い出したんでしょうに」


「ま、わたし組体操はでないのだけどね」


「出ないならいいでしょう」


「にんじんを愛せって習わなかったのかしら?」


「隣人です」


「この学校の生徒はみんな家族なのよ、怪我をさせるわけにはいかないわ!」


「数分前に蹴り殺してたじゃないですか家族」


「とにかく!はだしは摩擦で足の裏が焼けちぎれるから、だめよ」


「摩擦を何だと思ってるんですかあなたは」


「じゃあ最後、リレーね」


「学級対抗リレーのことですね」


「そうね」


「リレーのどこがいけないんですか?」


「あたしね、人類は恒久の平和を願うべきだと思うの。

だから争い事はだめよ」


「いまさらっと体育祭すべてを否定しましたよね」


「そうよ、だから最初にそう言ったでしょ

中止なさいって」


「そうでしたね」


「はい!

じゃあ決まりね!

体育祭は中止!!やったぁ!」


「それはできません」


「どうして!どうしてそこまで意固地になるの!」


「僕の台詞です」


「なんでそこまで体育祭やりたいのよ!」


「実行委員だからです」


「あぁ、もうこんなやり取り馬鹿らしいわ!」


「それも僕の台詞です」


「よし、決めたわ……

あなたをここで蹴り殺すことにする」


「とうとうですか」


「短い間だったけどとても楽しかったわ。あなたとのおしゃべり。

体育祭なんかがなければもっと違う出会い方もあったでしょうに」


「あくまで体育祭を責めるんですね」


「だいじょうぶよ、痛くしないから。すぐに楽にしてあげる」


「そうですか」


「安心して一瞬よ」


「そうですか」


「痛くないからね」


「そうですか」


「はい、ちくっとするわね〜」


「予防接種かなにかですか」


「……茶番はここまでよ」


「自覚あったんですね」


「言い残したことはないわね」


「そうですね」


「じゃあ本当にさよならね、ありがとう実行委員の端く———」


「あ」


「 あ?」


「ちょっと一言だけいいですか」


「なに?いいところなのに」


「テレビ見てる小学生じゃないんですから」


「なにって聞いてるのよ」


「あしたの体育祭はこのぶんだと———雨で中止です」


「え、いまなんて?」


「体育祭は中止だと言ったんです」


「え?」


「はい」


「え??」


「はい」


「 …………じ、じゃあいいわ」


「えぇ」


「そうだ!そうだ!いいじゃない!

よくやったわ!下っ端くん!」


「今、全裸でのたうちまわるのだけは勘弁してくださいよ」


「誰がそんなことするのよ」


「あなたですよ」


「何言ってるのよ。

そんなことしないわ。

そうね、代わりににんじんでも食べましょうか?」


「愛しませんよ」


「隣人の方がよかったかしら」


「そもそも隣人は食べ物じゃないんですよ」


「 つまんない子ね。


……………はぁ」


「どうしました」


「いや、ね。

まるであたしの努力が水の泡だとおもって」


「まぁ真っ赤な血が流れるよりはましですよ」




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