気紛れな詩集

鹽夜亮

第1話 ししゅう

 ししゅう。

 言葉は浮遊している。僕は意味を捕まえる。

 湖面の月を掴もうと、溺死した詩人のように夢に揺蕩う。

 

 ししゅう。

 死臭?ああ、それは好ましいね。

 いいだろう、どうせ皆いずれそうなるのだから。

 

 ししゅう。

 刺繍。縫い付ける。刺青のように、消えぬように。

 言葉だって同じようなもんさ、と脳裏で誰かが呟く。


 音律は美しく、それは意味を定めない。

 答えのないことは美しく、意味のあるものは味気ない。

 書き残せば収束する、シュレディンガーは嘲笑っている。

 消えゆくものは美しい、それはなくなってしまうから。

 人だって同じだろうとヴェロナアルの亡霊が笑っている。

 

 

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