第5話 1-1-4
ラーメン屋から一番近い方陣の起点、朱雀門に来た。なんてことないボロっちい小屋なんだけど、これが街を守る方陣の一部なんだから恐れ入る。
中も本当にただのボロい小屋。だが、この床下かなり深くに朱雀門の起点足り得る陰陽術を施した球体が埋まっている。この球体も一流の陰陽師作りだした霊気の塊なんだけど、いつかは限界が来る。
ラーメン屋でやったことと同じ要領で、祐介が探知の術式を発動させる。
「急急如律令!」
結果が出るまでに俺の方も準備をする。呪符を五枚置いて、霊気でその五枚を繋ぐ五芒星を描いていく。この線、正確には霊(れい)糸(し)とか霊(れい)痕(こん)とか言うらしいけど詳しくは知らん。いつの間にかできるようになってたし、プロの陰陽師なら普通にやってるし。
『明。今回は何も視えないのか?』
「ゴンもわかってるだろ?俺の過去視もそこまで万能じゃないの。いきなり視えることもあれば、夢に出てくることもある。そんでもって自分の意志じゃほぼ視えない。過去視っていうより、その場に残った怨念とかを無意識に降霊させてるっていう方がしっくり来るんだよな」
『その眼を使いこなせるようになるのが当分の課題だな。方法は自分で考えろ』
「投げやりぃ」
五芒星を描いた後、その周りに円を二重で描く。本来なら一重でいいんだけど、今回は場所が場所なため、警戒して安全性第一だ。
「俺の方は結果出たぞ。すぐは崩れそうにねえな。方陣自体も問題ない」
「じゃあ、俺の方もやりますか。ON」
五芒星に更に霊気を送り込んで術を発動させる。今回使ったのは占星術。星を占うということは、その場所にあった出来事を把握すること。星の動きから星に記録された出来事を読み取る事。
過去視となんら変わらない。大きな差異もあるが、それは術式の準備も必要なく、霊気の消費もないということ。勝手に流れてくるのが過去視だ。
今は術式の方に集中する。
脳内に流れてくるイメージ。それはこの場所という〝固定された無機物という生き物゛から霊気の流れを読み取り、実際にあった出来事を再現させたもの。どんな人物が訪れ、不可解なことをしていないかなど、捜索にはもってこいの術式だ。
かれこれ一年くらい遡ってみても、精々プロの人間が調整に来ている程度。そこで怪しい動きをしていた人間もいなければ、何かを仕掛けている人間もいない。霊気の乱れもない。
要するに、何もなかったってことだ。
「外れだな。一年以上前に何かしていたならゴンが気付かないわけないし。せめて方陣の外なのか内なのかだけでも分かれば捜査範囲は狭くていいんだが」
『オレが感じたのは悪意だけだ。それが内外どちらかなんてわかるか。……逆に言えばそれだけ巨大な乱れってことだ』
「先生が今日まで気付かなかったのは何でさ?」
『夜中にコソコソ準備していたんだろうさ。夜なら大体のことは魑魅魍魎どものせいで、悪いことをしていても奴らの霊気で誤魔化せる。ただ今回は昼に溢れ出ていた。昨日の隠蔽が杜撰だったのか、隠す必要がなくなったのか、何か漏れ出る外的要因があったのか。理由まではわからんが、何かがある』
「そこまで言うってことは自然現象じゃなくて策謀ってことだな?」
ゴンはうなずく。小屋の外まで出ていって辺りを見回していたが、それでも首を傾げていた。
『方陣の境界線に来ても曖昧なままだというのは妙だ……。内か外くらいならはっきりすると思ったが、まさかまるでわからないなんてな』
「もしかして方陣に干渉してる?」
『そう考えるのが妥当だ。ただ起点はここじゃない。どこかの門から介入して誤魔化している。……面倒だぞ、これは』
ゴンをして面倒というのは本当に厄介な案件ということだ。親父には言わなくても察するだろうから放っておいて、市の方には匿名の触れ込みか何かしておこうと思う。
呪符の裏に霊糸で「何者カノ暗躍アリ」とだけ書いて、簡易鳩を式神にして市役所へ送る。これは伝達用の即席式で、場所についたら呪符に戻る簡単な物。途中で撃墜などされて目的地に辿り着かなかった場合自動で焼却される。
簡易式って便利。
「東の青竜門にも行くか。夜を考えると、今日の調査は二つで終わっておいた方が良い」
「だな。霊気使いすぎたら夜ヘマするし」
術を行使する霊気も無限ではない。名家の当主になればその土地そのものの霊脈とアクセスしてほぼ無制限に術を行使できるが、俺はまだ当主の座を正式には引き継いでいない。
それに体内の霊気がなくなったらシャレでもなく、その場に倒れ込む。あと帰る時に乗る式神に送る霊気も残しておかないと帰りが徒歩になってしまう。今日から見回りをする範囲を増やそうとしているので、なおさら霊気を温存しなければならない。
雑魚妖怪なら霊気もそこまで消費しないからいいけど、大物に当たったら大技も使うから余力は残しておきたい。
ひとまず、烏の式神を出して、青竜門の起点へ向かう。
そこでも何の結果も出ず、ただただ無駄骨だった。
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