しろんのさくりゃく

 ちょっと前に、公爵家のもふもふ金狼のほうことシロンが、姉の失礼な発言を魔王にわびにやってきました。

 ごうまんな姉とちがって、怖がりで、知恵の働く彼は、魔王を敵にまわしてもなにもいいことはないと思っていました。そのため、こびをうるための対策をねってきたのです。


 姉に言えば反対されるでしょうから、ひとりでこっそり来ました。シロンにとって、魔王より姉の方がさらに怖いのです。


「お姉ちゃんが失礼で申し訳ありません。偉大な魔王様。どうか仕返しなんてしないでくださいね。尊敬する魔王様に、ささやかですが貢ぎ物をもってきました」


 そして、人間の姿で貢ぎ物をいろいろと携えてきた彼は、うやうやしくパンケーキの皿を差し出しながら、魔王にこう進言したのです。


「これはもちろん陛下がお食べになってもいいんですけど、できればお付きのカラス卿にさしあげてください。きっと聡明な魔王様にはいうまでもないことと思いますが、彼の忠誠心は使えます」


 つづけて、シロンはこうもいいました。


「時には「ありがとう」「かんしゃしている」などとねぎらいの言葉をかけるほうが、魔王陛下のご威光を高めてくれると思います。彼は真面目で有能です。できるかぎり好印象を与えておけば、魔王様がまた人間界に行かれるときに、進んで協力をしてくれることと思うんです」


 シロンはパンケーキ以外にも、人間界から持ちこんだチョコレートやクッキーやマーマレードも魔王に差し出しました。

 単純な魔王は「しろはいいやつにゃ!」と、ころっと心を許してしまいました。


「僕は魔王様を尊敬しております。この知能を魔王様のために使いたいのです。オルディアレス公爵家は魔王様の従順な臣下です」


「わかったにゃ。こしゃくは、ちゅうじつなぶかにゃ」


 魔王は気分よくこたえました。


 そんないきさつをカラスは知りません。

 人間界でのにゅーちゅーぶ活動をつうじて、陛下がこんなにもご成長あそばしたのかと、ぼろぼろと感涙しています。


「また、はやくにんげんかいにいきたいにゃ。にんげんが、ワシをまっているのにゃ」


「はい、もちろんでございます」


 シロンの言ったとおり、懐柔されたカラスは魔王の人間界行きに、協力的になりました。


 カラスは魔界の魔術研究者たちに号令をかけて、「人間の姿の魔王を少しずつ成長させる薬」を全力で開発しています。魔王陛下の強いご要望だと聞いて、みんなはりきっています。

 これが完成したならば、魔王はまた人間界で、にゅーちゅーばーとして活躍ができるでしょう。





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