いきさつ

 なぜ、こんな動画がにゅーちゅーぶで流されているのかと申しますと、ちょっと前にカラスの元に、あの落選したオーディション会社から連絡がありました。


「真桜さまは、あのCMのイメージには残念ながらイメージが合いませんでした。しかし、彼女には、なにかこう、他の方とはちがった、得体のしれないパワーを感じます」

 

 面接官も務めた社長から来たメールは、ざっくりいうとそのような内容でした。


「その得体のしれないものがなにかはわからないのですが、ご本人とお父さまのお気持ちさえおありでしたら、当社としてはチャレンジしてみたいと考えています」


 なるほど。魔王がただの子どもではないということを、面接官たちはかぎとったようです。


 しかし、宝石の原石なのか、石っころなのか、はたまた猛毒の塊なのか、なにものなのかは判断できず、迷っている模様です。


 果たして、「真桜」とはなにものなのか……?


 会議を重ねた結果、リスクをとってでも、迷っているくらいなら、一歩踏み出そうということになったのでしょう。


 こうして仮名・真桜と烏丸九郎は、株式会社カラントに、籍を置くタレントとなりました。


「お父さまもご一緒に」そう言われて、カラスは大変いやがりました。

 カラスとて、古代大ガラス族としての己の姿には誇りを持っています。頭の形もくちばしの大きさも、羽のつやだって悪くないと。

 

 ですが、いまの人間の姿のどこがよいのか、さっぱりわからなかったのです。

 人間なんて、ひょろひょろと手と足が長くて、頭にしか毛が無くて、器量に恵まれない気の毒な生き物だと思っていました。


 が、会社の人が「お父さまもぜひ」「それが真桜さまと契約する条件です」と引かなかったので、押し切られました。


 人間に変化した魔族はみな美形ですから、仕方がありません。人化したカラスの容姿により、女性ファンを獲得できると踏んだのでしょう。

 カラスとしても、スーパーのバイトだけでは生活が苦しいこともあり、出演料には心ひかれました。貧乏は、つらいです。


 そして、魔王は「お仕事の案件」をもらえることになりました。

 公爵家のふたごとはちがい、テレビではなく、にゅーちゅーぶでのお仕事でした。テレビに出すには、個性の強すぎる魔王は危険だと判断されたのかもしれません。

 

 まずは、はじめての仕事として、自分のにゅーちゅーぶちゃんねるで、とある商品を宣伝しました。

 それが「くろねこぷりん」です。


 同時に、会社の持つ人気チャンネルにも出演することになりました。

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