ごろごろ

「よいレストランだったにゃあ。にんげんかいもいいもんだにゃ」


 まんぷくの魔王はすっかりごきげんです。

 食事を終えたふたりは、猫とカラスの姿に戻って、夜の小道をぽてぽて歩いていました。


 魔王の小さなおなかは、食べすぎたためにまんまるです。


「そろそろねるにゃ。やどはどこにゃ?」


(来た……)


 カラスは、縮こまりながら発言しました。


「それが……先ほどのレストランにて所持金を使いすぎまして、もはや宿をとる余裕はなくなってしまいました……」


 案の定、魔王は火のごとく怒りました。


「にゃんと。カラスはあほにゃ!」


 思い通りにならないことがあれば、すなわちカラスのせい。


 でも、実はカラスは言っていたのです。

「そんなに注文なさってはこのあとの宿代がなくなりますよ?」と。


 しかし、メニューのきらびやかな料理の写真たちに、すっかり気をとられていた魔王は、「なくなってもいいにゃ」と、食べたいものを頼みまくったのでした。


「おそれながら、本日は公園で野宿ということでよろしいでしょうか。あっ、いたっ」


 そう言う部下を、魔王は小さな手(前足?)でポカポカ殴りました。


「いいわけないにゃ! ワシはベッドでねるのにゃ」


「お許しください、陛下……。あの、陛下、とりあえずいまは魔界に戻りましょう」


「いやにゃ。もっとうまいものくうのにゃ」


「それでしたら、またじっくりと準備を整えてから、改めておいでになれば良いかと」


「やだにゃ! あしたもくうのにゃ。あさってもくうにゃ」


 おいしいものを我慢するなんて、魔王には難しいことでした。


 魔王の見た目は四歳児程度ですが、知能も四歳児並みで、情緒は二歳児なのです。


「カラスがわるいにゃ! なんとかするにゃ!」


 彼の辞書に、自業自得の文字はないのです。


 夜闇の町で、小さな黒猫がカラスに飛びかかって、しがみついて転んでゴロゴロゴロ。


 そんな暗黒のメルヘンを、空の上から目ざとく見つけた者がありました。


「ああ、魔王様、魔王様。お慕わしゅうございますわ」

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