けんぞく

「……はあ」


 眠りつづける魔王を公園のベンチにおろすと、カラスは重いため息をつきました。


 疲れた……。


 もうそろそろ、人間界での陛下のお守り……いや、参謀役を解任していただきたいものだ。


 すやすやと安らかな寝顔を見ていると、どうかいつまでもそのまま眠っていて欲しいと、思わずにはいられません。


 どうにか逃げられないものか……。


 そこで一計を案じて、人間界に暮らしている手下のカラスたちを呼び寄せました。


「魔王陛下のお召しである。この地に暮らす魔の眷属に伝えよ。知恵に自信のある者はすぐに駆けつけるようにと。あと金も多めに用意するように。日本円でな」


 カアッ、と同意してカラスたちは飛んで行きました。


 人間界で暮らす奇特な魔物たちの中には、わがまま魔王のお世話係をかって出る、変わり者もいるかもしれません。


「むにゃ……カラス……」


 びくっとして魔王を見ると、まだ眠っているようです。


 夢にまでカラスが出てくるなんて、なんだかんだ言って、よっぽど頼りにしているのでしょうか。


 自分のことを寝言で呼ぶ魔王を見て、カラスは少しだけ。ほんの少しだけ、逃げようとしていることを申し訳なく思いました。


「……カラスは……からあげにするにゃ……」


 前言撤回です。


 魔王はごろんと寝返りをうちました。

 ベンチから落ちそうになったので、カラスはあわてて受け止めました。


 残念なことに、魔王は目を覚ましました。


「ふあ~……。よくねたにゃ。はらへったにゃあ」


 起きるなり、すっくと立ち上がりました。


「れすとらんにゃ! はやくいくにゃ!」


「ははっ……」


 起き抜けから無駄に元気な魔王のうしろを、カラスはしおしおとついていきました。

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