Act40:狙われた男

「なんか懐かしいなぁ」


 リディアに送ってもらったティキは、久々にルティーに戻ってきた。久々とはいっても1週間も離れていたわけではないが。それでも、ティキはこのルティーに、どこか懐かしさを感じずには入られなかった。




 ティキは、見た目なにも変わらない外観から目を離し、ドアに目を向ける。そして、ドアを開け中に入る。と、そこでティキの動きは止まる。


「な、なんだ。コレ……」


 ティキが驚くのも無理はない。なぜなら、一見なにもない外観に比べ、その中は実に、ボロボロに荒らされていたのだから。まるで廃墟のごとく。


「一体、なにがあったんだ?」


 ティキはボロボロになったルティーを見渡す。すると、倒れた机の上に黒髪で短髪、そして左目の位置に奇妙な刺青をした一人の男が座っていた。


「よーやく、帰ってきやがったのか」


 男は、リンゴを齧りながらティキに話かける。


「お前が、コレをやったのか?」


「あぁ、暇だったんで。それに、もう必要ないと思ってよ」


 男の言葉に、ティキは耳を傾ける。


「ティキってのはアンタだろ? 一緒に来いよ」


 男は、手を差し伸べる。


「いきなり何、言ってやがる。人ん家をこんなんにしといて、一緒に来いだぁ? だいたいお前は誰なんだ?」


「……俺の言葉は難しかったか? 俺は、お前に提案してるんじゃない。”命令”してるんだ」


 座っていた男は机から降りて、立ち上がる。


「断るなら、無理やりにでも連れて行くだけだぜ」


「やれるもんなら、やってみろ」


 ティキの言葉に間髪入れず、男は走りだす。そして手に持っていたリンゴの芯を、ティキに向けて投げる。ティキはリンゴの芯を弾くと、そのすぐ後ろから迫ってきている男の拳をも交わす。ティキはそのまま、反転し、ルティーの壁に足をつける。そして、足に力を入れると男に向かって、拳を突き立てる。男はその拳を、弾き、身体を捻り、肘鉄をティキに食らわす。




 肘鉄を食らったティキは、そのまま床に叩きつけられるが、すぐに立ち上がると構える。その時すでに男は迫ってきていた。そして、フェイントも絡ましながらティキに拳を繰り出す。ティキはその拳を全て受け止めると、腰を低くし、相手の足目掛けて、蹴りを繰り出す。




 ティキに足蹴りされた男は、身体を斜めにさせながらも、床に転がっていた木の破片を掴むと、そのまま側転し、体勢を立て直す。そして、足に力を入れ、再びティキに迫る。そして、そのままティキを飛び越し、ティキの背後に回ると、手に取った木の破片で、ティキを刺そうとする。




 だが、ティキは伏せ、その体勢のまま足を後ろに出し、男の胸に蹴りを入れる。ティキは、床を転がり体勢を立て直すと、男に迫っていく。男はティキの蹴りの衝撃で、ふら付いている。ティキは男の顔面目掛けて、拳を繰り出すが、男はそれを後ろに倒れる体勢で避ける。そして、そのまま両手を床に着き、ティキに両足で蹴り吹き飛ばす。ティキは回転しながらも、すぐに反撃できる体勢で、着地した。


「はっ、こんなもんかい。聞いた話では、もっと強いって聞いてたんだがなぁ」


「一体誰から聞いた話だよ? 噂は当てにはなんねぇぜ」


 お互いに、不適な笑みを浮かべる。




 そして、再び男がティキの元へと迫る。だが、ティキの元へと到達する前に男は吹き飛ばされる。吹き飛ばされた男は、机にぶち当たって、机をバラバラにした。




 そして、ティキの前には拳を構える男が一人。


「ル、ルクス」


 ティキはその男の名前を呼んだ。


「ティキさん、無事ですか」


「どうして、ここに?」


「僕だけじゃありません」


 そう言うと、ルクスは後ろを指差す。そこには、リディアも来ていた。


「ティキ、一緒に来てほしいの」


「ティキさん、ここは僕に任せて行ってください」


「けど……」


「ティキさん、あなたは狙われているんです。詳細を知りたければリディアさんと一緒に行ってください」


 ティキとルクスが話している間に、吹き飛ばされた男が起き上がってくる。


「早く!」


 ティキは、ルクスの声に促されてリディアの元へと行く。リディアはすぐにリバティーを用意すると、ティキは、それにまたがった。そして、振り向きルクスのほうを見る。


「ルクス、大丈夫なんだろうな?」


「当たり前です。少なくとも体力が戻っていない、へなちょこティキさんよりは確率が高いです」


「言ってくれるじゃねぇか、じゃあ頼んだぜ」


 リディアは、リバティーのスロットルを回し、急加速でその場から離脱した。




「まったく、逃がしてくれちゃって……」


 男は立ちあがると、服に着いた汚れを手で払いのける。


「アンタ、見たことある顔だなぁ。同じ穴のムジナじゃないのか?」


「ええ、そうですね。似たようなものかも知れませんね」


「で……アンタが俺の相手をするって訳? 俺に勝てるとでも?」


 ルクスはうっすらと笑みを浮かべる。


「そんなことはやってみないと分かりませんよ。……と言いたいとこですが、今の僕ではあなたに勝つことは無理でしょうね」


「それが、分かってて残るってのは利口とは言えないんじゃないか?」


「いいえ、確かに戦闘に置いて勝ち目はないでしょうけど、逃げるだけなら絶対に僕に利があると思ってますから。それに……」


「それに?」


「彼といて分かりましたが、時には馬鹿が、利口を上回るときもあります」


「なるほど。なら……やってみろ!」


 男は、ルクスに向かって走り出した。








「おい、リディア。どこに向かってるんだ?」


 リバティーを運転するリディアに、ティキが問いかける。


「着いたら分かるわよ」


 リディアは、リバティーを街中の裏路地に沿って、走らせる。明らかに人気の無い方向に向かっているのが分かる。ティキは、この街に長く住んでいる。そのため、リディアの向かう先に何があるのか知っていた。そこは、町の中にある小高い丘のある公園。リームベルト国公立公園。かつて、ティキとルクスが出会い、戦った場所でもある。




 リディアは公園に着くと、その中でも人気の無い木に囲まれた広場というには、少し狭い小高い丘に出る。そして、そこにリバティーを着地させた。


「ティキ、着いたわよ」


「こんな、とこに連れて来て何があるってんだ?」


 ティキは、リバティーから降りると、辺りを見渡す。そして、リディアがここに連れて来た意味を知った。


「久しぶりだな。ティキ」


 ティキはその声に聞き覚えがあった。それは、ティキがもっとも嫌っている人物で、現在この国リシュレシア国大統領であるプレシデントであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る