Act28:謎の残骸

 土台を登りきった瞬間に再びルクスによって落とされたティキは、土台に手を伸ばし落下を防ごうとしていた。だが、腕の疲労と手がボロボロになっているのも含め、ティキには土台を掴むだけの力が残っておらず、減速しただけで再び月のカケラの粒子が漂う場所を通り1番下……地上アンクレストまで落ちていった。




 激しい衝撃に少しの間意識を失っていたティキは、しばらくして意識を取り戻す。


「ぐ……いて。くそっ……」


 ティキが起き上がろうと手で自分の体を支えようとした時、ティキは手になにかが当たった感覚に襲われた。ティキはその場所に視線をやる。


 そこには、黒こげになった謎の金属片が落ちていた。ティキはそれを手に取ると金属片をよく見渡した。


「なんだコレ? どっかで見たことあるような、ないような……」


 ティキはソレがなにかまでは分からなかったが、どこかで見た事があるモノだという認識を持ったようだ。ティキはそれがなんなのか調べたいと思い、それをポケットにしまった。そして、再び土台に手をやる。


「なんにしても、またコレを登らないとなんにもならないな」


 ティキはルクスに落とされたことを思い出していた。


「あー! 思い出したらムカついてきた。絶対また登りきってやる」




 ティキは土台に手で掴まり、足を引っ掛けると、再び土台を登り始めた。




 ティキが再び土台を登り始めて18時間――。




 ティキは、ルクスへの恨みかそれとも自身の根性か。早くも登頂を成功させようとしていた。


「お、もうゴールが見えてきた。まだ一日経ってねぇのに。一回目の時よりも遥かに早く登ってこれたな。……これが修行の成果ってやつか。けど、それとルクスに対しての怒りとは別の話だけど」


 登りきった瞬間にまた落とされないように、今度はサガルマータの地表にゆっくりと手をかけ、ゆっくりと顔を上げ、辺りを伺う。左を見て、右を見て念のため上を見て気配を探って人が周りにいないことをしっかり確認すると、ティキはサガルマータの地面に這い上がる。そして、早足で立ち入り禁止区域から離れる。


「ふぅ。ここまで来れれば安心だ。さぁて、じゃあルクスに恨みをぶつけにいくか……ふふふ」


 そう言い、ティキは胸の前で手を鳴らしていた。




 その瞬間ティキのお腹がまるで緊張の糸が解けたように鳴った。当然と言えば当然である。ティキはこの三日なにひとつ食べていないのだから。ルクスへ恨みをぶつける前にまずは腹ごしらえと判断したティキは、一度ルティーに戻ることにした。




 一ヶ月以上開けてしまったルティー。しかもなんの告知もせず、突然である。当然その間は営業もしていない。その間一体何人の客が訪れたのかティキは当然知るよりも無いが、ただ激しく収入減が減ったということだけは直感で感じとっていた。




 そんな中、久々にルティーに着いたティキはおもむろにドアを開ける。


「いらっしゃいませー!」


 その声にティキは驚き、唖然として口をぽっかりと開ける。それもそのはずである。そこにはいるはずのない人物がいたのだから。


「あれ? なんだティキさんですか、てっきりお客さんかと思っちゃいましたよ」


「いや、なにしてんのルクス」


 そこにいたのは、ルクスであった。ルクスはきっちりとした身なりで立っていた。


「ははっ……見て分かりませんか? ティキさんがいない間、僕がこのルティーを経営してたんですよ。ティキさんは突然入院して、お客さんはそんなこと知りませんからね。ほっておいたらお客さんに迷惑がかかると思いまして、僕がティキさんの代わりにここでお客さんの相手をしてたんですよ」


「ははっ……笑い事じゃねぇよ。なに勝手に人の店で働いてんだ」


 その時、ティキのお腹が再び鳴り出した。住んでいる場所に戻ってきて余計緊張が解けた所為だと思われる。


「あーダメだ。腹が減りすぎて、怒る気にもならねぇ。とにかくなんか食おう」


 とりあえずティキは冷蔵庫の中から適当に物色して口の中に放り込んでいった。それを傍で見ていたルクスの感想は……。


「まるで犬ですね」


 だった。




 ティキの食事(食事?)も終わり、腹が大きく膨れたティキは一言。


「あー食った食った。ひっさびさの飯だったからなぁ」


 ティキの食事の一部始終を見ていたルクスは、それが食事終了の合図と察するとティキに話しかけた。


「ティキさん、無事帰還おめでとうです」


 その言葉にお腹が膨れて満足感で満たされていたティキの、忘れていた感情が蘇った。


「あー! そうだ。てめぇ、よくも落としやがったな! 死ぬとこだったんだぞ」


「生きてるじゃないですか。それにお腹が一杯になって忘れられるほどのことなら、たいしたことありません」


「おー。よくもまぁそんなぬけぬけと、そういう言葉が出てくるもんだ」


 ティキは再び胸の前で手を組み骨を鳴らした。


「無事帰還したんだから問題ないはずです。それよりもティキさんがいない間、さすがに僕が依頼をこなすことまではやるわけにはいかなかったので、すぐじゃなくても大丈夫な依頼だけ預かっておきました。まずはそれらをこなしたほうがいいですね」


 そういうとルクスは封筒をティキに見せた。どうやらティキに依頼してきた依頼内容の資料が入っているようだ。


「てめぇ、こっちは途中オームに襲われたりして大変だったんだぞ。月の産物はお前に預けたままだし……ってそうだ。月の産物返せよ」


「あー、月の産物は今ここにありません。ある方に預けてあります」


「はぁ!?」


 ティキは驚き、ルクスの両肩に手を置きゆする。


「どういうことだよ!?」


「お……落ち着いてください。大丈夫です。心配しないでください」


 ティキはとりあえず、ルクスの肩から手を離す。


「誰に預けてあるんだよ?」


「まぁいいからいいから。心配しなくても大丈夫です。そっちのほうはとにかく任せてください」




 ティキはふと手がなにかに当たったことに気がつく。ポケットになにか入っている。それはアンクレストで拾った謎の黒こげの金属片だった。ティキはそれをポケットから取り出す。


「そうだ。ルクス、アンクレストでこんなもの見つけたんだけど、なんだと思う?」


 ティキはその金属片をルクスに手渡す。ルクスはその金属片を手に取ると、よく見回す。


「なんですかコレ?」


「よく、わからねぇんだ。でもどっかで見たことあるような気はするんだけどな」


「んー。確かに僕も見たことあるような……。これ、もしかしてリバティーの部品じゃないですか?」


 ティキはルクスから金属片を受け取る。


「リバティーの? そう言われるとそう見えなくはないな。でもリバティーの部品でこんな大きさのってあったけな?」


「じゃあ、ヴィマーナの部品じゃないですか?」


 ヴィマーナ……リバティーと同じく島間(国間)を移動するための大型の飛空船である。かなりの大人数を収容でき、主に物資の運搬、旅行などに使われる。大きさこそ違えど、飛行システム等はリバティーと同じであるが故、部品の形状もほぼ同じである。


「ヴィマーナの……あり得るかもな。でもなんでそんなもんが黒こげになってアンクレストに落ちてんだ?」


「ちょっと待ってください」


 そう言ってルクスは机に置いてあるカバンから、携帯電話よりも少しばかり大きさの機械を出した。


「なんだそれ?」


「あれ? 知らないんですか? ”モバイルネットデバイス”の最新型です」


「モバイル……なんだって?」


「モバイルネットデバイスです。通称MNDエムエヌディー。タッチパネル式の、通信モバイルですよ。携帯よりも多くの情報を、より早く得るために開発されたデバイスです。携帯は基本的に自国内でしか使えませんが、これは対応国は80国以上で対応しているすべての国で使えますし、他国の情報も一般公開されてるのなら見れます」


 ティキはルクスの持つその端末を物珍しそうに見ている。


「今は情報社会ですからね。いろんな情報を集めるなら必須ですよ。ほしいならお安く手に入れてあげますよ」


「うーん、そうだな。まぁそれについてはまた連絡するよ。それで、そのデバイスにはこの黒こげの部品の情報は載ってるのか?」


「ちょっと待ってください」


 ルクスはそのデバイスを手早く操作していった。相当使い慣れているようだ。


「おっ、もしかしてこれじゃないですかね?」


 そう言うと、ルクスはデバイスをティキに手渡した。そこには、確かにこの部品のことであろうことが書かれていた。




 ”イルマシア国でヴィマーナが墜落。原因は不明。死傷者は200人以上。”




「イルマシア国って言ったら東側の隣の隣の国だな。日にち的にも俺がお前にアンクレストに落とされた少し前、場所もここならほぼ一致。ってことはこの部品はここに書かれているヴィマーナの可能性が高いな」


 ティキはルクスにデバイスを返しながら言う。


「まぁ、そのことは私が独自に調べておきましょう。それよりもティキさんは、その依頼をすることが先決でしょう」


「まぁ、確かに」


「それじゃあ、私は帰りますね。後は任せました。ヴィマーナのことが分かったらまた連絡します」




 そう言うと、ルクスはルティーから出て行った。


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