Act24:新たなる敵

 リクの右手に巻かれた布と共に握られている紅い銃が、目の前にいるウォルスという青髪の男に向けられている。ウォルスはリクの持つ月の産物アルタイルの攻撃を受け、身体がまったく言う事をきかなくなっていた。それは動きにくいとかそういうことではなく、完全に脳と神経が切り離されているからに他ならない。


 リクは銃をウォルスに向けたまま話す。


「お前はさっき月のカケラの特異な性質について説明していたな。無論俺もそんなことは知っている。この月の産物アルタイルもそうやって産まれた。俺の意志……お前達星の導きへの”恨み”の意志だ」


 ウォルスはなんとか身体を動かそうとしているがまったく動かない。まるで見えない鎖で身体を固定されているかのように金縛りにでもあっているかのようにまったく動かないのだ。それでも立っていられるのは身体が硬直している所為であろう。


「俺の持つ月の産物アルタイルは六つの能力と装填数六発の弾丸を有する飛び道具だ。六発打ち尽くすと二十四時間はリロードに必要だが、六発の弾にどの能力を付加するかは撃つ直前に俺の意志で決めることが出来る。今お前に撃ち込んだ弾の能力は”ザリチュ”という能力。俺はザリと呼んでいるが……。その能力は”拘束”。お前の身体の自由を奪う能力だ」


「それでか。俺の身体がまったく動かせないのは」


 リクはウォルスをその眼光で睨みつける。


「あの事件についてお前の知っていることを全て話せ。あの二人はいまどこにいる? どうしてあの施設が襲われなければならなかった? なぜ全員殺す必要があった? 答えろっ!」


 ウォルスは睨みつけてくるリクの目から視線を離さず笑顔を見せる。


「ふん、俺から話せることはなにもねぇよ」


「……そうか。ならばこれを見ろ」


 そう言うとリクは銃をなにもない壁のほうへと向けた。ウォルスも言われるがままその方向を見る。


「アエシュマっ!」


 その言葉と共に放たれたのは激しい閃光と計り知れない巨大なエネルギーだった。それは目の前の壁をことごとく破壊していき、目の前にあった壁は外の景色が完全に見渡せるまでに破壊されていた。


「これも能力の一つだ。破壊のみを目的とした能力アエシュマ。次はこれをお前に喰らわせる。俺の質問に答えれば命だけは助けてやる。あの日のことでお前の知ってることがあれば全て話せ」


 その破壊力と光景を見ていたウォルスは突然大声で笑い飛ばした。


「はーはっはっはっはっは。おもしれぇ、おもしれぇよお前。久しぶりに見たぜこれほどまでに月のカケラの力を引き出してる奴は」


 突然のウォルスの笑い声をリクは変わらずの眼光で冷静に見ている。


「気でも触れたか……」


「いいぜ。それで俺を殺せるなら撃てよ」


 笑うのを止めたウォルスはリクのほうを見ると言い放つ。その言葉にリクは反応する。


「さぁどうした? 怖いのか?」


 身体を動かすことが出来ないウォルスは顔だけでその表情を創る。その表情はとても追い詰められている人間の表情ではない。まだ勝機を持っているのか自信に満ち溢れた表情をしている。




 リクは再び銃をウォルスのほうへと向ける。


「……いいだろう。ならば望みどおり楽にしてやる」


 そう言うとリクは腕に力を込める。それはリクの覚悟が銃を握り締める手に力となって現れたのかもしれない。リクはゆっくりと口を開き能力の名前を口にする。


「アエシュマっ!」


 その瞬間銃口から凄まじいまでエネルギーがウォルスに向け放たれる。




 その刹那、目にも止まらぬ速さで地面が盛り上がる。銃より放たれた弾はその地面より盛り上がった土によって阻まれた。その厚みと硬さによりアエシュマというリクの最大レベルの攻撃力を誇る攻撃でさえ、貫通するに至ることなく途中で完全に停止した。そのため弾がウォルスにまで届くことはなかった。


「な……に?」


 リクは予想していなかった光景に驚き状況を読み込むことに必死だった。




 やがて土は再び元の場所へと戻っていく。それに伴い土の壁に隠れて一時的に見えなかったウォルスの姿が現れてきた。ウォルスはその顔に笑みを浮かべていた。


「くくく……はーはっはっはっ! ほんとおもしれぇなお前は。自ら自分の力についてベラベラ喋りやがって。この闘いで決着がつくと思ってたのか?」


「どういうことだ?」


 リクは睨みつけてウォルスを見る。


「おーい、姿見せろよ。”ソイル”」


 その言葉にリクはウォルス以外の人間の気配を感じその方向を見る。




 そこには不気味な白い仮面で顔を隠す細身の人間が闇より微かに姿を現していた。リクはその人間がそこにいることにまったく気がついてなかったため、驚きの表情を浮かべていた。


「いつのまに?」


「残念だったな。リクさんよぉ。お前の月の産物に能力ちからそしてその弱点いろいろな情報教えてくれてありがとな。まぁこっちからすれば作戦通りだよ」


「なに?」


 ウォルスは不敵な笑みを浮かべたままリクに説明を始めた。


「俺達七曜は与えられた任務を完璧にこなすために組織された特殊部隊。最初に言っただろう俺達を狙ってる者がいるという垂れ込みがあると。任務を完璧にこなすためには僅かな付加要因であってもあってはならない。だからこそお前をおびき出すためにわざわざ俺達が出向いてやったのさ。お前の存在の確認。目的。そしてその能力。勝手にベラベラ話してくれたおかげでこっちから聞き出す手間が省けたぜ。まぁそういうことで今回は引き分けってことにしといてやるよ」


 リクはそのまま睨みつけウォルスに言う。


「引き分けだと? ふざけんなよ。お前はどのみち動けはしない。俺がこのまま逃がすと思うか?」


「なんだ気がついてなかったのか? 俺はお前の攻撃なんか喰らってないぜ」


 その言葉の後、ウォルスの身体全身が水の塊となった。まるでウォルスの身体全体を水の膜が覆っていたかのように。


「分かったか? 攻撃を喰らったのは俺じゃない。俺の創った水の膜だ。これが月の産物全体の最大の利点であり最大の弱点。月の産物つまり月のカケラの効果は万物に効く。それが例え水だろうが火だろうが関係ない。お前の攻撃は俺の創りだした水の鎧で止まっていたのさ」


 ウォルスはあえて説明を省いたが、攻撃を喰らっていないはずのウォルスがなぜリクの攻撃が身体の自由を奪うことだと気がつくことが出来たかと言うと、攻撃を受けた流動体であるはずの水が完全に静止したためだった。それを肌で感じ取ったウォルスはこの攻撃は貫通技でもなければ直接的な攻撃手段ではないと判断。その上、水の動きから少なくとも動きを止めるなにかであることを悟った。それ故にウォルスはまるで自分がリクの攻撃を喰らい身体の自由が奪われているかのように見せていたのだ。




 ウォルスはそれを誇示するかのように肩をグルグル回す。


「ふぅ、よく動くぜ。爪が甘かったようだな。まぁ安心しな。今日の所はお前の情報を知ることが目的だったからな。殺しはしない。だが、今後は月よりの使者よりもお前を優先して狙ってやるよ覚悟しとけよ。じゃぁな」


 そう言うとウォルスは家に開いた穴から出て行くとすばやい動きで夜の闇へと消えていった。その場にいたソイルという名前の仮面の男もウォルスの後を追って出て行った。


 そこにはただ空しく無力なまま立ち尽くすリクだけが残されていた。




 リクは穴からゆっくりと出てくる。そして月のない静寂な夜の空を眺める。その空はリクの瞳に漆黒の闇を映し出す。まるで、リクの心をそのまま反映したかのような暗く深い漆黒の闇夜を――。

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