Act21:闘いに備えて
ティキは気がつくと一気に目を開け、身体を起こそうとする。しかし身体は思ったように動かずティキは痛みを感じて思わず声に出てしまった。
「痛っ」
ティキは目覚めた身体を、今度はゆっくりと起こし辺りを見渡す。白が抽象的な壁が見える。機械類が静かに音を奏でている。ティキは自分の身体を探る。いたる所に包帯が巻かれている。特に頭は、幾重にも巻かれていて傷の大きさを物語っている。
「ここは、病院か?」
ティキが今の状況を理解しようと考え込もうとした時、ドアが開く音がしてその方向を見る。
「あ、ティキ。目が覚めたんだ」
「リディア?」
入ってきたのはリディアだった。ティキはリディアに今の状況を説明してもらおうと聞こうとした。その時リディアの後ろにもう一人、人がいることに気がついた。ティキはその人物に見覚えがあったので驚く。
「あっ! お、お前は!」
「やぁ、ティキさん。気が付かれたんですね。よかったです」
それは、公園でティキと闘いティキに大怪我を負わせた男だった。
「てめぇ、俺の命を狙いに来たのか?」
「嫌だなぁ。そんな敵意満々に警戒しないでくださいよ。リディアさんに連絡してあなたを迎えにきてもらったのは僕なんですから」
ティキと男の話に割って入るようにリディアが話に入ってくる。
「ちょっと待ってティキ。あたしから説明するから」
その言葉に、男もティキもリディアのほうを見る。
「この人の名前はルクスさん。この間話した共同討伐依頼を受けてディールス国からやってきたのよ。あなたの相棒としてね」
「相棒?」
ティキは顔をしかめる。
「うん、共同討伐以来は危険な任務でしょ? だから、出来る限りなら二人一組で動くように言われてるの」
「……ってことはプレシデントが絡んでるってことか」
ティキの不満そうな顔つきを見てルクスはフォローも踏まえてなのか話に割って入る。
「そこは僕が説明します。確かにこの件に彼は絡んでいます。しかし、あなたを試したのは僕の意思です。任務を共にする相棒ですから。どんな人なのか実力を含めて知っておきたかったので。その結果ですが……ティキさん。あなたは合格です」
その言葉にティキが話に割って入ろうとした。しかし、ルクスがまだ続きを言おうとしている気配を感じティキは話すのを辞めた。
「けど、僕はあなたの相棒を辞退します。確かにあなたは実力的にも人間的にも合格です。だからこそ分かりました。ティキさん、あなたの相棒に相応しいのは僕じゃない。それが、辞退する理由です」
「それでいいぜ。プレシデントの言いなりになんてなりたくねぇし、相棒なんて俺の柄じゃねぇしな」
「あなたならそう言うと思いました。とにかくあなたの相棒は辞退します。ですが、代わりとと言ってはなんですが、他の役をやらせてもらいます」
「他の役?」
ルクスはそう言うと手に持っていた紙袋を机の上に乗せた。
「一つ言わせてもらいます。ティキさん確かにあなたは強い。それは認めます。しかしそれはあくまで潜在能力ポテンシャルの話です。残念ながらあなたの今の実力は大したことはありません」
「あ?」
その言葉にティキは少し機嫌を損ねたようだ。
「あなたは非常に運がいいのですよ。今回僕は、あなたを試すつもりだけで殺すつもりはなかった。だからこそ大怪我こそすれ命を落としはしなかった」
その言葉にティキもリディアも沈黙する。
「でも、今もし僕と同等かそれ以上の実力を持った敵に出会ってしまったらあなたは確実に殺されます」
ティキは、その言葉に返すことができなかった。確かに、もしルクスが敵で殺すつもりで襲ってきていたら確実に死んでいた。そう思うほかないほど実力に確かな差があったのだ。
「ですが、あなたの潜在能力は僕も認めています。その実力は僕なんか足元にも及ばないほどなはずです。だからこそあなたを強くしたい」
「それはどういう意味だ?」
ティキは感じた疑問を素直にぶつけた。
「僕があなたを鍛え上げます。あなたの潜在能力を引き出しあなたを今よりも遥かに強くして見せます。そこで一つ聞きます。強くなりたいですか?」
その質問にティキは一瞬黙り込む。当然、ティキも強くなれるなら強くなりたいと思ってるだろう。だが、目の前にいる男に強くなりたいと答えるということは、自ら自分が強くないということを示すことになる。それを躊躇わすのはティキのプライドだった。
だが、それと同じくらいの気持ちでティキを動かすもの。それは、今のままの実力では命を失うことになりかねないということ。死ねば自らの目的も果たせなくなってしまう。生きるためには中途半端な力では駄目だということ。目的を果たすためにはより強い力がいる。
「強くなりたい」
たった一言しか発していないこの言葉にはどれほどの覚悟があるのか。それは、すぐそばで聞いていたリディアもルクスも理解していた。そして、ルクスは笑みを見せる。
「良い答えです」
そういうとルクスは、先ほど机に置いた紙袋の中から箱を取り出した。それは二つの箱だった。そのうちの一つをリディアに渡す。もう一方はティキに渡す。
「これは?」
「開けてみてください」
ティキもリディアもその箱を開ける。中には、一つの絵を分解したピースがいくつも入っていた。
「これは、ジクソウパズル?」
「そうです。それは500ピースのジクソウパズルです。ティキさんあなたは全治一ヶ月の怪我らしいです。この一ヶ月はこの病院で入院してなければなりません。その間なにもしないのは実にもったいない。ですから、一ヶ月間でそのパズルを完成させてください」
ティキは、パズルのほうを一瞬見ると再び目線をルクスに移した。
「いくらなんでも500ピースくらいのパズルの完成に一ヶ月もかからねぇだろ」
「そうですか? ただ条件があります」
「条件?」
「ええ、開始から完成まで3分で完成させてください」
「はぁっ!?」
ティキもリディアも予想を超えたルクスの言葉に驚きの声を上げる。
「3分ってことは、1秒で約3つずつ置いてかなきゃいけないってことよね?」
「そういうことになりますね」
ルクスは当たり前のことのように答える。
「もし、一ヶ月でこれが出来なければあなたはそこまでの男ということです。頑張ってくださいね。また一ヶ月後に来ます」
ルクスはそう言うと、笑顔で部屋から出て行った。
部屋に取り残されたティキとリディアはパズルを眺める。
「3分……。ってかリディアにも渡していったってことはリディアも一緒にやれってことか?」
「うん、たぶん」
ティキはルクスとの闘いとさっき言われた言葉を思い出していた。
確かに、自分は弱い。どれだけ虚勢を張ろうがそれは変わらない。目的を達成するためには今よりも遥かに強い力がいる。その力に一歩でも近づくために出来ること。それが目の前にあるのならそれを全力で成し遂げよう。
「よし、やってやるか」
ティキは自身の胸に確かな覚悟と、懐かしさを秘めパズルのピースに手を伸ばした。
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