第3話 喜一郎の時
まさかの夢オチだったのか?
やけにリアルではっきりと覚えていて。
ここは自分の部屋。
今は朝。
家着のジャージも寝る前に着たまま。
うん。夢だったのだろう。
そう考えるしかなさそうだ。
というより、これが事実で、これが現実。
やっと目が覚め仕事の準備をする。
朝食はトースト、卵焼き、ベーコン、ほうれん草とコーンのソテー。
男の一人暮らしにしてはしっかりした朝食なのだ。
これを作るのにも訳がある。
飛行機の機内食を真似て作っているのだ。
本当ならサンドイッチがいいのだが、時間の都合でトーストに。
実はこの部屋にはテーブルがない。
どうやってご飯を食べるのかというと、リクライニングソファーに収納式のテーブルを着けて、ファーストクラス風に。
壁掛けのテレビの前にあるリクライニングソファーで食事をする。
気分はファーストクラスである。
おそらくこの光景を第三者がみたらきっと驚くに違いない。
だが、喜一郎にとっては贅沢なひとときなんだろう。
そんな充実した朝のひと時を過ごし、まだ薄明るい朝靄の中駅にむかう。
駅にはまだ酔っ払って転がってる人がいるのも珍しい光景ではない。
始発に乗り20分弱、朝はゆっくり座って行ける。
薄明るい街並みも、オレンジの光に包まれながら朝を迎えていく。
この瞬間の電車からの景色は、飛行機好きの喜一郎も気に入っているのだ。
街が朝を迎えたくらいに空港に着く。
毎日変わらない時間の流れの中、いつも通り仕事がはじまる。
今日も飛行機に囲まれて過ごす。
いつもと同じ業務。
いつもどおりにターミナルに荷物を運んでいる。ターミナルに着くところで出発ロビーの窓に目がいった。
ちょうど止まるところで、目がいった先には見覚えのある女の人が。
すぐに思い出した。今朝の事だから。
夢に出てきた隣客に似ている。
…デジャヴ?まさかな。
他人の空似っていうか、夢の話だし。
そんな事思って心の中で、じゃあな夢の人ってつぶやいた時無意識に手が上がってしまった。
あっ、やっちまった…
知らない人に、しかも仕事中に手なんかあげてしまった。
誰もみてない事を祈りつつ。
…なにやってんだ、自分。
どうかしてるな。今日は。
そんな事を思いながら今日も仕事が終わりいつもの帰り道、電車に揺られながらボーっと景色をながめていた。
朝の景色とは違い、夕日より少し前でまだ明るい。
ざわつく車内、道行く人々。
帰り道はなんだか長く感じる。
今日は駅を降りてすぐのスーパーで買い物をしていく。
買うものもだいたい決まっているので、そんなに時間もかからない。
すぐに買い物も終わり、徒歩5分のアパートへと歩く。
部屋に入ってまた飛行機に囲まれる。
行き帰りの電車以外、一日中飛行機が側にある生活。
本人は結構気に入っている。
シャワーを浴びてまたファーストクラスに座りながらの夕食。
スーパーで食材買うのも、自炊するのもこの時間を過ごすためにやっている。
コンビニのお弁当も好きだが、機内食に近い感じにするためにわざわざ作っているのだ。
ファーストクラスでの至福の時。
今日はビールも飲んで。
幸せなひと時を過ごし、寝る準備。
横になって夢を思い出した。
…ただの夢だっていうのに。
今日の手を振ってしまった自分にそう言い聞かせていた。
明日も早いので横になる。
あっというまに眠気がやってきて、そのまま眠りに…。
…はっ!?
また目が覚めた。
乗務員「お客様お飲み物はいかがですか?」
喜一郎「えっ、あっ、お茶を。」
隣客「あれ?起きたんですか?」
喜一郎「えっ?ここは?」
全然わからない。
また飛行機の中?さっきのが夢?
もうどっちが現実で、どっちが夢だかわからない。
隣客「ふふふっ」
隣客「寝ぼけてるんですか?」
そう寝ぼけてるに違いない。
こっちが現実?
色々考えれるしなー。
あー、わかんないっ。
喜一郎「あっ、あの、はい。」
わかんないなー。
ただこんな綺麗な人と話しできるしこっちが現実って事でいいかな。
そんな事を考えながらも会話が進む。
楽しい。
空や、飛行機すきな共通点。
こんなに自然に人と話す事も今まであっただろうか。
夢ならそれはそれでいい。
今楽しいし。
ミサキ「ホント、凄いですよこれ。」
喜一郎「変わり者のモノ好きですよ。」
なんて楽しいんだろうか。
夢なら覚めないでほしい。
っと、その時。
飛行機の窓の外からすごい光が。
翼に反射した太陽の光だ。
思わず目をつぶる。
眩しい。
内側の扉を閉めようと目を開けた。
…はっ!!
飛行機の模型、コックピット風デスク、この見慣れた風景は…。
こう2日も続くと本当にわからなくなってきたのと同時に、今が現実かどうかも疑問に思えてくる。
イテッ。
よくマンガでみる、ほっぺをつねるってやつをやってみた。
ちょっと痛かった。
こっちが現実かぁ。
ちょっと残念に思えた。
第4話に続く。
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