壱章 酒と毒は程々に

序話

夢を見た。

いつか死ぬ夢を。

終わることが出来る、という夢を。

叶うはずがない、泡沫の夢。だからこそ、何一つ変わらない夢を、さも当たり前のように見るのだろう。

そして、絶望するのだ。

さあ、見たところでそれは叶う夢なのか。否。

何をどうしたって叶わない夢はあるものだ。

僕の見る夢はまさにそれだ。

とっくの昔に諦めた。生を見出すのをやめた。自分を殺し続けることをやめた。なにもかもやめた。なのに、未だ夢を見続ける。

まるでいつまでも足掻き続けているかのように。羨望を、捨てきれていないかのように。

だから人間と関わるのをやめた。自分の未熟さを突きつけられるような気持ちになるから。


だというのに。


あの馬鹿壬生菖に出逢ってしまった。

押し切られてしまった。

再び人間に関わらざるを得ない日々を送ることになってしまった。

色々あってやる羽目になった探偵業は本当に苦痛で、とても耐えれるようなものではない。さっさと辞めてしまいたいのに、それが出来ないこの状況に腹が立つ。

あの馬鹿壬生菖のせいだ。


でも。


その馬鹿の頼みを断りきれず、ずるずると続けてしまっている僕の方が、もっと愚かで、醜いのだろう。

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