祀りモノ

蒼井 碧斗

序章

暖かい風が、少年の頬を優しく撫でて吹き抜けていく。


 その村は、深い山奥にポツンと存在していた。都会まで出ようものなら片道最低でも1時間半はかかる。

 山奥というだけあって住んでる住人は都会に比べるとその差は歴然としているが、それでも生活に苦労しない程度の規模で発展している村であった。

 その歴史は深く、伝承によれば、この村の始まりは平安時代にまでさかのぼるという。


 「それでは、ただ今より決選投票を行います」


 そんな歴史の長い村には、ある『おきて』のようなものがあった。

 これについて起源は一切不明。また、誰が始めたのかも当然。ただ100年ほど前に書かれた記録書にこのような1文が書かれていた。

 『いにしえからの代理人に逆らうな。さもなくば災いが訪れる』

 どこにでもありそうな注意文。これがこの村で唯一の、村で起きた出来事を掴む手掛かりとなっている。

 ただ1つ、確実なことがある。

 ──村に、何者かが現れた、ということだ。

 記録書にも書かれている通り、『代理人』と呼ばれる存在が突如として姿を現した。そして、その代理人は少なくとも100年ほど前の記録書が書かれた時期よりもさらに前から存在していたかのような文章でもある。


 「投票結果が出ました。当選したのは──」


 そして、肝心の掟の内容であるが⋯⋯それについては今はまだ述べないでおこう。


 ともかく、この小さな名も無き村には奇妙な掟が古くからある。そしてこの村には幼稚園から高校までの教育機関が揃っているということ。そして──


 その奇妙な掟を、高校が継いだということ。


 「千堂せんどう 沙貴さき。獲得票数238。全生徒数です」


 その暖かい風めがけて、少年はふっ、と息を吹きかけた。


 ──再び、暖かい風が吹き抜けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る