空へ ver. 3

   一 宏子



 姉が死んだ時わたしは十八歳だった。大学に合格して、姉に連絡したのがほんの数日前のことだなんて、信じられないくらい急な出来事だった。大学の理系学科に合格した、春から東京に引っ越すよ、と言ったわたしに、姉はよく頑張ったわね、お父さんとお母さんもきっと誇らしく思ってるわ、と言った。その嬉しそうな言葉に、やっとこれで普通の生活ができる、早く稼いで姉を幸せにしてあげるんだ、と思ったことを、今でもはっきり思い出す。でも、その後、東京に行ったら案内してね、と言ったわたしに、少し間をおいてからうん、もちろんよ、と言って涙ぐんだ姉の様子が電話越しに伝わってきた時の、小さな違和感は最近になってやっと思い出した。わたしは馬鹿だった。上京して身を粉にして働いた姉に養ってもらいながら、勉学に励んでいつかは姉を幸せにしてあげるんだと、思い上がっていた。

 姉の訃報を受けて新幹線で東京に駆けつけたわたしは、がらんとした病院の地下に案内された。足音がこつこつ響くコンクリートの床。薄明かりの廊下。ひんやりとした空気に漂うエタノール臭。穴蔵のような地下室はとても怖かったけれど、わたしは案内する看護師の後について、ただ、歩を進めるほかなかった。

 安置された姉の身体は、白い棺に入れられて、ドライアイスで囲まれていた。顔には、白い布がかけてある。姉は細面の優しい顔をした美人だった。わたしは医師がその布をとっていいかと目で聞いた時まで、この身体は別人のもので、姉は今もどこかで笑っているのではないか、と思っていた。

 白い布がそっと取り去られ、姉の顔が現れた時、わたしは小さく悲鳴をあげて後ずさりした。その死に顔は、苦痛に歪んでいた。生前あれほどに優しい顔をしていたのに、その表情には死の恐怖が張り付いていた。首元には痛々しい擦り傷があって、どれほど苦しんで姉が死んだのか、わたしにもわかった。

 警察官が進み出て、わたしに説明をした。姉は廃工場で首を吊って自殺したのだと、その時初めて知った。

 別室に移っても、わたしはショックで口がきけない状態だった。その状態のままどのくらいたったかわからない。気がつくと、わたしは警察官と向き合い、遺書を渡されていた。白い封筒に入ったそれを、震える手で開く。そこには短く、銀行口座の引き継ぎ事項と、家の整理は済んでいる旨が事務的に書かれていた。慌てて付け加えたように見える最後の一行を読んで、わたしは姉の女としての無念を感じた。そこにはこう書いてあった。


 私のことは忘れて。宏子ちゃんには、私の笑顔だけを覚えておいて欲しいから。


 呆然として声もないわたしに、警察官が大家の男性を連れてきた。初老のその男は、わたしを端へ引っ張っていった。通り一遍のお悔やみを述べて、部屋はほとんど空っぽで、退去したければすぐできる、と言った後、声を低めてこう言った。

「こんなことは言いたくないんだがね、あんたの姉さん、水商売やってたみたいだよ」

 わたしは考える前にその男をヒステリックに怒鳴りつけていた。

「姉さんはそんな人じゃないわよ!」

 大家は流石に悪いと思ったのだろう、頭を下げて出て行った。その背中を見送りながらも、わたしは自分の中に生まれた疑念を払拭するだけの自信を、持ち合わせていない自分に腹を立てていた。


 下北沢にほど近い姉の部屋には姉のこまごまとした私物と、布団があった。そこにわたしが泊まることまで考えていたのは、几帳面な姉らしいと思った。主人を失った布団は冷たくて、わたしは眠れなかった。アパートの二階にあるワンルームの部屋。外では時々車が走って、微かな音を立てる。輾転反側した挙句、わたしは起き上がって電気を点けた。姉さんは、どんな気分で死んでいったのか。それだけが気になった。なぜ死んだのか、という疑問は湧かなかった。十三歳で母を、十四歳で父を亡くして、五つ上の姉もなくしたわたしは、ただ、死というものが無作為に、理不尽にやってくるものだということだけを知っていた。

 夜の闇に飲まれそうな弱々しい電灯の光で、わたしは姉の銀行通帳を見た。そして初めて知った。毎月かなりの額が入って、その半分が日本学生支援機構の返済に、残り半分のほとんどがわたしに渡り、自分は家賃も入れて月十万円で生きていたことを。収入の口は二つあり、一つは大手ファストフード店のバイト、もう一つは実体のない会社だったということを。

 ネットで調べると、その会社は、裏社会で働く人の給料を支払うダミー会社だった。大手通信会社の顧客センターでオペレータをやっているというのは、嘘だったのだ。わたしは大家の言葉が正しかったことを知った。

 その夜はまんじりともせずに過ぎた。




   二 繁邦(しげくに)



 ぼくが大学に入ったのは東日本大震災の年だった。地震の時大阪にいたぼくは、東京に来て初めてその被害の大きさを思い知った。余震は毎週のように震度四以上の揺れを起こしていたし、北のほうから来た学生たちの中には、親族を亡くしたものもいた。しかしそれも、後で聞いた話で、ぼくはあまり社交的な方ではなかったから、駒場にある教養学部のキャンパスでも大抵一人で、図書館にこもって勉強することを好んだ。

 学年が進んで本郷の工学部に移ると、実験などで仲良くなった友人たちと話す機会も増えたが、ぼくはやはり一人が良かった。そんな中で、唯一と言っていい親友ができた。栄というその男は鳥取の出身で、同じ学科の学生だった。栄は呑気なところもあるが気のいいやつで、ぼくに向かって、佐々木、しっかりしようぜ、と言うのが口癖だった。ぼくらは名前が近かったから、実験で同じテーブルになったことがきっかけで仲良くなった。栄もぼくも大学院に進んで、物性理論をする隣同士の研究室に入った。

 僕たちには二人とも彼女がいなかったが、栄は駒場時代に付き合っていた女の子がいた。栄はよくぼくにその話をした。小鳥遊(たかなし)というその子は、栄と同じクラスの学生で、自転車の趣味があって付き合いだしたのだとか。思春期の男子にありがちな、どこまで行った、何をした、という話を一通り聞き出すと、ぼくは栄になぜ別れたのかを聞いた。栄はふふん、と鼻で笑って、まぁ、いろいろあるわな、とはぐらかした。

 その頃からぼくは焦り始めた。高校は共学だったが浮いた話は皆無で、大学も女子が少ないことで有名なところだったから、地味で目立たないぼくに女性関係の話が舞い込んでくることなどありえない話だった。ぼくは彼女が欲しい、と思った。女の子を自分のものにする、という感覚はまだなく、ただ神聖なものに憧れるように女性に焦がれた。ぼくは栄に相談したが、いつもの、しっかりしようぜ、が帰ってくるだけで何も進まない。ぼくは愉しまなくなった。

 そんなある日のこと。ぼくは大学院の講義で階段教室にいた。先生は濃い緑色の黒板に向かって数式を書くことに没入し、学生たちは黙ってそれを写し取っていた。ぼくは頬杖をついて、辺りを見渡した。扇型の階段教室の後ろにいるぼくからは、前の方の席の学生がよく観察できた。と、ぼくの右前で何か黒くて美しいものがふわりと揺れた。それは女の子の髪だった。長くて、細くて、つやつやと黒い髪。髪から少しのぞく優しい横顔は、見知らぬ人のものだったが、とても神々しく見えた。その瞬間、ぼくは漱石の『こころ』の一節を思い出した。「先生」が主人公に問う。君は、長い黒い髪で縛られた時の気持ちを知っていますか、と。ぼくはその気持ちを知った。胃袋と心臓の中間が、キリキリと痛んで、肺の中身がすうっと軽くなって……ぼくは恋に落ちた。

 その子は、大学院からこの大学に来た日向(ひゅうが)香織という学生だと、すぐ後で知った。




   三 宏子



 わたしはその春から姉の住んでいたアパートに住んで、駒場の教養学部に通い始めた。子供の頃のあの一件以来一人では満員電車に乗れないわたしは、駒場まで歩いて通える距離に住む必要があったが、姉のアパートはちょうど徒歩圏内だった。わたしは必死に勉強した。毎日遅くまで図書館にこもり、予習と復習をこなし、辞書を引きながら英字新聞を読んで十時過ぎに帰宅する。でも、どれだけ忙しくしていても、怒りに我を忘れそうになった。わたしはあれからずっと、姉の本当の生活を知ろうとした。姉の年齢で月に五十万円稼ぐには、それ相応の学歴がなければ体を売るしかない。地方の弱小私立大学卒の姉が、後ろ暗い会社から毎月のように大金を得ていたということは、そういうことなのだ。わたしは姉が苦しんで苦しみ抜いて稼いだ金で、のうのうと高校生活を送っていた自分を憎んだ。高校時代にできた彼氏に、時々見栄を張って六百円のコーヒーを奢ったりしたその行為を激しく後悔した。その彼氏も大学は東京だったが、上京前に一方的に別れを切り出して縁を切った。わたしは一人で怒りや後悔と向き合い、徐々に自分をすり減らした。

 

 三ヶ月ほど経ったある夏の夜のこと、わたしはいつものように疲れ切って下北沢の街をとぼとぼと歩いていた。混雑した駅の東口前を抜け、少し落ち着いた雰囲気のある商店街に差し掛かるところだった。ちょうど生理だったし、学校の帰りで授業以外に五時間の自習を済ませたわたしはとても疲れていた。向こうから歩いてくる、いかにも遊び人風の若い男がわたしをじっと見ているのに気づいたが、いつものように冷静な怒気を含んだ目で見返した。こうすれば、大抵の男は怯んで目を背けることを、わたしは知っていた。だが、その男はびっくりしたように目を瞬いて、

「優子? 村岡優子?」

 と姉の名前でわたしを呼んだ。一瞬、何が起きたのかわからなかった。わたしは我を忘れてとっさに尋ねていた。

「姉を知っているんですか?」

「ああ、妹か。道理で似ているわけだ」

 男は少し忌々しげに横を向いたが、わたしを横目で見て

「姉さんはどうしたんだよ、あれからうちに来ねえし」

「死にました」

 男は特に驚きもせずに、肩をすくめて

「あー、やっぱそうか」

 と言った。その無関心がわたしの怒りに火をつけた。

「失礼ですが、姉とはどういう関係ですか?」

 安っぽいスーツを着崩したこんな男に、姉の名前を呼ばれるのは不快だった。

「姉さんが働いてたお店の者だよ」

 男はお店、という言葉に変なアクセントをつけた。

「バイトの?」

 違うと知りながら、わたしはそう聞くほかになかった。

「いいや、夜の仕事の方だ。知ってんだろ?死んだってことは、そういう話もどっかから聞いたはずじゃねえか」

 わたしは黙って男を睨んだ。

「怖い顔すんなよ、お姉さんと似て美人なのによ。いっそ、うちで働くか?一晩で三万は稼げるぞ」

 怒りは感じなかった。ただ、姉が何をしていたのか。どこまでさせられていたのか。わたしはその疑問を解きたかっただけなのだ。でも、そんなことを考えていたということは、やはり怒っていたのかもしれない。

「何をするんですか」

「本番以外全部、変態はなしだがな」

 わたしはまごついた。どういう意味だろう?

「優等生は知らねえか。本番ってのは、挿入(い)れるってことだ。姉さんはそれ以外は全部やってたぜ」

 わたしは血の気が引くのを感じた。あの優しい、きれいな姉が、どうして、どうしてそんな……。

「そんな風にして稼いだ金を、親が死んでいないからって妹にほとんど全部やってたんだってよ、笑っちまうよな。ま、お前のことだけど」

 わたしはその言葉を最後まで聞いていなかった。とっさに手が動いて、男を張り倒していた。鋭い破裂音がして、男がしゃがんで頰を抑えた。

「姉さんは、姉さんは……!」

 荒い息をして男を睨むわたしを、あたりの人がざわめきながら見ている。その人混みから警察官が二人現れて、わたしの前に立った。

「今、この男性を叩きましたね?」

 

 結局、男に頭を下げて慰謝料を払うことでわたしは警察署から出た。それまで三日間わたしは留置所に入れられ、身寄りが全くいないので誰にも会えず、怒りと生理痛に黙って耐えた。

 留置所でもらった生理用品は粗悪で、わたしは国選弁護人に代わりを買うように頼んだ。やってきた弁護士は四十がらみの粗野な男で、わたしはそれを言うのが恥ずかしかった。でも、姉さんはもっと辛かったのだろう、と思って耐えた。わたしはいつも使っている銘柄をいい、弁護士はそれをメモして出て行った。わたしは悔しくて、少し泣いた。

 留置所での最後の夜、わたしは夢を見た。あの頃の夢。父さんも、母さんも、姉さんも笑っている。みんなで奈良公園に行った春の日の夢だ。

「父さん、鹿せんべいって食べられるの?」

「あれは鹿の餌だ。食べられるかもしれないが、まずいよ、きっと」

「宏子は面白い子ね」

 そう言って、母と姉が微笑む。わたしはちょっとむくれてそっぽを向いた。昼下がりの奈良公園には鹿がたくさんいる。そのうち一頭が、のんびり木陰から顔を出した。後ろを向いて母さんと話していた父さんが、鹿にびっくりしてずっこける。

「いててて、なんだ、鹿じゃないか」

私たち女三人は笑いながら父さんを引っ張って立たせた。その後、木陰に座ってみんなでアイスクリームを食べた……。


 朝、涙に濡れた顔を上げて、髪を括った。男に深々と頭を下げて、目玉の飛び出るほど高い慰謝料と治療費を払う旨サインをした。そしてわたしは、ひどく抽象的な復讐の念を胸に、外の世界へ出た。一人でも多く、少しでも残酷に、人を殺したいと思った。




   四 繁邦



 ぼくは日向香織に恋している。好きだ、一緒に居たい。その気持ちはぼくを苦しめた。苦しむがゆえにぼくは不幸で、不幸でありうるがゆえにぼくは幸福だった。ぼくはこのまばゆい世界で探し求めていたものを見つけた気がした。自分が香織と結ばれないことが、世界全体を脅かす大きな瑕疵のように思えた。ぼくは胸に秘めた思いを、栄に打ち明けた。彼は、頑張れよ、とだけ言った。

 毎週一回の例の授業で香織の姿を見つめて嘆息するだけでは、ぼくの心は満足しなかった。その隣に座って、その髪の匂いを胸いっぱいに吸い込みたいと思った。ぼくは家に帰って詩を書き、学校では上の空で彼女の面影を追い求めた。歩いている時はそこの角から彼女が不意に現れないかと思い、座っている時は今自分が座っている席が、彼女が座った席だったらいいのにと思った。要するに、ぼくは愚かな、女性に対して免疫のない若者が青年前期に経る荊の道を、喜んで駆け回りながらその棘で自分の肌を切り裂いていたのだ。

 四週間後、ぼくは香織に話しかける機会を得た。それはこんな風だった。

 例の階段教室でのことだ。ぼくは香織のすぐ左後ろに座った。彼女はいつものように、真面目に板書を写している。と、先生が間違った。数式の中で、指数が抜けいている部分がある。ぼくはあれ、と呟いて黒板を見つめた。その時だ。香織がこっちを向いた。長い黒髪がふわりと揺れて、ぼくはその美しい流れるような光沢に目を奪われた。

「あれ? あれで合ってる?」

 ぼくは身体中の毛が逆立つのを感じた。血管がキュッと縮んで、ぼくは幸せだった。ぼくはしかし、冷静に

「指数が抜けていると思うよ」

 と答えた。自分の落ち着いた対応が嬉しくて、ぼくは自分を素敵な人間だと思った。香織はうなづいて、そうだよね、ありがとう、と言った。先生が私語を見咎めてこっちを見た。ぼくは手を挙げて、

「先生、演算子の肩の指数が抜けています」

 と言った。先生は失敬失敬と言って、間違いを正した。香織が再度振り向いて、ぼくと目を合わせるとにっこり微笑んだ。その美しい白皙の顔に刻まれた微笑を、ぼくは一生忘れないだろう。

 授業が終わって、階段教室には学生たちのざわめきがあふれた。そのざわめきが、木でできた教室の暖かい感じが、ぼくを勇気付けた。ぼくは思い切って香織に話しかけた。

「日向さん、だよね。昼ごはん食べた?」

 愚問である。昼休憩はこれからなのだ。しかし香織は変な顔もせず、ぼくに向かって、

「まだ。佐々木くんは?」

 と無邪気に聞いた。その目は長い髪の奥で少し揺れていて、ぼくはその瞳に映る世界に恋をした。改めて向かい合ってみると、香織の体はとても柔らかい曲線で構成されていることがわかった。胸は結構大きく、不思議な安心感があった。赤白のチェックのシャツに、無地の白っぽいスカートを履いて、膝を出していた。靴はスニーカーで、白い靴下が目に優しい。女性の特徴点、つまり顔、胸、脚を素早く見て取ったぼくは、その飾らない服装と大きな胸に好感を抱いた。そして、やっと自分の名前を呼ばれた不思議に思い至った。

「俺の名前、知ってるの?」

「うん、結城研究室の佐々木君でしょ? 私の高校の先輩がそこにいるから。安斎さん、って知ってるよね」

 なるほど。ぼくは彼女に高校時代があったのだと、初めて気づいた。そして、高校では好きな人がいたのだろうか、と思った。不意に、ぼくは今も彼女に好きな人がいる可能性に思い至った。その考えはぼくを不安にした。ぼくは香織が遠くなるような気がして、慌てて言葉を継いだ。

「昼ごはん、一緒に行かない?」




   五 宏子


 

 大学へ行くと、どこから漏れたのか、みんなわたしのことを知っていた。ソーシャルメディアの類をしないわたしは、その噂が実際どういうものか知らなかったし、こっそり聞けるような友人もなかった。わたしは数日間黙って耐えた。どっちにせよ、あと一年して進振りが終われば、今のクラスは関係なくなるから、と思って。

 しかし、三日目のこと、第二外語の教室でぼんやり教科書をめくっていたわたしは、隣の学生たちがささやき声で交わす言葉を聞いてしまった。

「村岡って、逮捕されてたよね」

「大学も甘いよな、お咎めなしだよ。女子だからって贔屓しやがって」

「知ってるか? 村岡の父親、電車で痴漢して捕まって、自殺してんだぞ」

「マジか。親も親だな」

 教科書を繰る手が止まった。顔が引きつるのが、自分でもわかった。わたしはそのまま立ち上がると、うつむいたまま廊下に飛び出した。ちょうど入ってきたフランス人の先生を押しのけて、廊下を走り、トイレに駆け込んで洗面台に手をついた。荒い息はすぐに嗚咽に変わり、わたしは胃の中身を吐いた。吐瀉物は赤くて、わたしは泣き出しそうになった。昼に食べたサンドイッチに入っていたトマトのせいだろうと気づいて、少し落ち着いたのは数分後だ。わたしは、口を拭って鏡を見た。鏡越しに見るわたしの顔は青白くて、姉の死に顔を思い出した。その苦痛に満ちた顔が脳裏に蘇り、わたしは洗面台にもたれたまま、床に崩れた。惨めだった。

 冷たいタイルの床に膝をついてわたしは泣いた。父さんは悪くない、冤罪ではめられて、何日間も警察署に入れられて、責められ怒鳴られて。父さんは強い人じゃなかった。父さんは優しくて、優しすぎて、若い頃に精神を病んでいた。なのに、やっと釈放された時、わたしは父さんに優しくできなかった。心のどこかで腹を立てていた。父子家庭なのにしっかりしていない父を、恨んでいた。父さんは私たちにただ、ごめんね、と言った。そして、次の日、父さんは琵琶湖に飛び込んで死んだ。父さんを訴えた女はお咎めなしで野放しになっているのに、父さんは深い冷たい水の中で絶望に溺れて死んだのだ。その時だ。私が初めて心から人を殺したいと思ったのは。その女の忌まわしい茶髪を、若者っぽい馬鹿げたファッションを、薄っぺらい表情を、そして何より、父さんが死んだと知っても眉一つ動かさないその腐り切った精神を私は憎んだ。最後に女と会った時、私は警察署で泣き叫んで父さんを返せと繰り返した。その叫びは、半ば自分自身に向けられていたがゆえに深く痛切だったのだと、今になって思う。

 わたしは一人だった。母さんは奈良公園に行った次の年に癌で死んでいた。父さんも、姉さんももういない。全部わたしのせいだ、と思った。自分さえ死ねば、この世界に悲しむ人間はいない、と思った。涙に濡れた髪がわたしの頬に張り付いている。わたしはその黒い髪のように、どす黒い絶望に浸った。わたしは、もう死ぬしかない。この世界は驚くほど不安定で、一度小さな悪意で軌道をそれると、そのまま悲惨な死に至るまでどこからも救いはないのだと、わたしは泣き疲れた頭で考えた。

 そのまま起き上がれずにいると、黒川が入ってきた。東京の有名女子校からきた彼女はいつも縫製のいい服を着て、薄く上品な化粧をしていた。首元で光る細い金のネックレスも、落ち着いた色の口紅も、わたしは持っていなかった。わたしはただ、田舎の高校生のように髪を束ねて、ショッピングセンターで買ったほつれやすい安物の服を着ていた。同じ人間なのに。

 黒川はわたしを見てびっくりしたようだった。

「村岡さん、大丈夫?」

「大丈夫よ、ちょっと気分が悪かったけど、もう平気」

 自分にはゆっくり泣ける場所もないのだと、その時わたしは悟った。姉の死んだ理由がわかったら、わたしは自殺するんだ。そう心に決めて、わたしはトイレを後にした。




   六 繁邦



 ぼくと香織は中央食堂へ行った。女の子を連れて食堂へ行くなんて野暮ったい、という意識がまるで欠けたぼくは、普段のように学食で何か食べようと思ったのだ。混雑する食堂でやっと席を見つけてぼくらは向かい合って座った。ぼくは幸せだった。彼女をこんなに近く、こんなにゆっくりと見られるなんて、いや、それどころか話ができるなんて、夢のようだと思った。ぼくはその幸せに酔って、正気を失っていた。香織はうどんを、ぼくはラーメンを食べた。

「日向さんは」

 ぼくはさりげなく声をかけた。そのさりげなさを装うのに必死で、ぼく話の内容を考えていなかった。香りがもの問いたげな眼差しを送ってくるので、ぼくは慌てた。

「彼氏とか、いるの?」

「……いないよ」

 香織は黙り込んだ。気まずくなった空気は、しかし、ぼくを止められなかった。ぼくは、香織にとってぼくがほとんど初対面だということを忘れていた。自分が何週間も思い続けてきたのと同じだけの想いを、彼女が持って当然だと思い上がっていた。

「今度さ、夕食行かない? 俺、おごるから」

 ここに至って香織ははっきり嫌そうな顔をした。

「わたし、忙しいから」

「……でも、付き合ってる人いないんでしょ」

「だからと言って、なんで佐々木くんと食事に行かないといけないの?」

 ぼくは喉元を締め上げられるような苦痛を感じた。

「だって……」

「佐々木くん、悪いけど、気持ち悪いよ」

「……俺、日向さんのことが。その」

「私たち今日話したばっかりだよね? それに佐々木くんさ、わたしの好みじゃないし」

「……」

「好みじゃない人に好きって言われてもね、迷惑なの。もう話しかけないで。じゃ」

 そう言うと、香織はお盆を持って、湯気を立てるうどんを乗せたまま席を立った。ぼくは声もなくただ、その後ろ姿を見送った。惨めだった。香織の美しい顔が、不快に歪むのを見てしまった今、食欲などなかった。

 のろのろと食事を済ませて、用もないのにトイレに入った。真っ先に、鏡が目に入った。一瞬、誰が映っているのかわからなかった。それが意気消沈した自分だと気づくまでに、数秒かかった。ぼくはそのみっともない姿に唖然とした。猫背気味の背中、への字に曲がった口、傲慢そうな目は不安に揺れて、ただの虚仮威しだとわかる。ぼくは洗面台に両手をついて吐いた。今さっき食べたラーメンが、薄気味悪い粘液とともに排出されて、ぼくは、ああ、このまま死にたい、と思った。


   ***


 それから数週間、ぼくはにこりともせずに学校に通い、授業を受け、研究を進め、論文を読み、時々家で泣いた。自分が惨めで、生きる価値のない人間だと思えた。ぼくは女を憎んだ。憎めば憎むほど、見下せば見下すほど募る想いとむき出しの性欲に苛まれた。栄とも、ほとんど口を利かなくなった。こちらからそうしたのに、ぼくは話しかけてくれない栄を恨んだ。

 そんなある日のこと、ぼくはキャンパスで栄と香織が仲よさそうに歩いているのを見た。二人は手こそ繋いでいなかったが、ほとんど寄り添って、幸せそうに歩いていた。栄はパーカーを着て、ジーンズを履いて、男のぼくから見ても格好良かった。香織の方は、見たくなかった。ぼくは涙が溢れる前に目を背けて、反対方向に走った。女という生き物が、ひどく、ひどく残酷で無情なものに思えた。

 自分も残酷になろう、と思ったのはその時だった。ぼくは初め、出会い系サイトに登録することから始めた。金欠の女を見つけて、金で自分のものにすればいい。ぼくの病んだ脳はそう命じた。ぼくは何万円も課金し、サクラに引っかかり、なにも得ずに自信とお金を失った。ぼくは惨めだった。毎日のように家で泣き、学校ではトイレで嘔吐し、街では道ゆく女に怨嗟の眼差しを向けた。

 最後に、ぼくは直截的な方法に行き着いた。秋も深まったある夜、ぼくは池袋の店で女を買った。買った後、ぼくは研究室で首を吊って自殺するつもりだった。いわゆる、冥途の土産というわけだ。

 やってきた女は長い黒髪の、細面の美人で、ぼくはこんな女を万札三枚で買えるなら、もっと早くしておけば良かったと思った。地味な服を着て、万事低姿勢のこの女は、優香という雅名を持っていた。年の頃はぼくと同じくらい。ぼくは彼女に金を払い、ソファに座って意識的に尊大な人間のふりをした。

「初めての方ですか」

 ぼくは少し、傷ついた。だが、この店は初めて、という意味だと思って、気を取り直した。

「ああ」

 ぼくは優香に横に座るように合図し、そのむせ返るような女の匂いに酔った。ぼくはその腕をとって、指を絡めた。女が目を合わせてくる。ぼくは絡めた手を彼女の豊かな胸に添わせた。薄い緑色のセーターの下で、やや硬い生地のブラジャーが胸の下半分を覆っている。上半分に手を這わせると、セーターとアンダーシャツ越しにもちもちした肌の感触が伝わってきた。ぼくはそのままその乳房を揉んだ。その優しい膨らみを、何度も何度も愛撫した。

 ふと目を上げると、優香がぼくをじっと見ている。その羞恥と欲情のないまぜになった眼差しを見ながら、ぼくは人生初のキスを優香に捧げた。


   ***


 汗ばんだ体を優香の裸体の横に横たえて、ぼくはそっと息を吐いた。左手は、彼女の頭の下で腕枕になっている。ぼくの中から、見栄を張る気持ちは、すでに消えていた。

「俺、初めてなんだ」

 優香が物憂げな目を転じてぼくをみる。

「女の人と寝るの、初めてなんだよ。でも、本当に幸せだ」

「うん。でもね、挿入(い)れたのはお店には内緒よ。本当はいけないの」

 ぼくはそういうものか、としか思わなかった

 快楽の残響はぼくを陽気に、饒舌にした。

「北欧のヴァイキング、って知ってるだろ。連中は死んだら、天国で若い女性と結ばれて好き放題できる、って信じてたんだ。だから、死ぬのが怖くなかった。下世話な話だよな。でも、一理あると思う」

 ぼくは天井を向いていた顔を横にして、優香を見つめた。

「俺は今まで、人生が辛かった。でも、あんた……優香さんと寝て、生きてて良かった、って思った。優しくしてもらって、本当に嬉しかった。俺さ、本当は自殺するつもりだったんだ。今日。人生がうまくいかなくて、毎日トイレで吐いて、すごく苦しかった」

 優香は黙って聞いている。その頰に差す紅色は、さっきの激しい行為のせいとも、そうでないとも思えた。

「こんなこと言ったら可笑しいのはわかってる。でも、俺、優香さんがいてくれて幸せだ。こんな形で出会って、勿体無かった、って思ってる」

 その時、あり得ないようなことが起きた。優香の両の目から、涙が溢れて、二人の愛の行為を黙って受け止めた白いシーツに、二つの清冽な染みを作った。ぼくはそれを見て、我が目を疑った。自分が愛のない愛を買っていることは、ぼくの熱した脳でもわかっていた。わかっているつもりだった。優香は涙声でぼくの名を呼んだ。

「佐々木さん」

「繁邦でいい。さんもいらない」

「しげ……くに、わたし……わたしも、ずっと悲しかった。わたしね、妹がいるの……。その子、すっごくいい子で、でも、両親が死んで、お金がないの。わたし、宏子……妹のためにこんなことをして、でも、誰にも本当のことを言えなくて、ずっと苦しかった。時々すごく嫌な人に嫌なことされて、でも誰にも言えなくて、わたし……」

 ぼくはいま、優香の魂に触れているのだと感じた。優香の中に入っていた時でも感じなかった温かい熱が、ぼくに力を与えた。ぼくは手を伸ばして、優香の髪を撫でた。腕枕していた左手で、その頭を抱えてぼくの胸に抱く。シャンプーの香りがして、ぼくは理屈抜きで、この女が好きだと思った。

「優香。俺と逃げよう」



   七 宏子

 


 わたし宛に葉書が届いたのは、翌週のことだった。差出人欄には佐々木繁邦、と書いてあり、その裏面にはこんな文章があった。



 拝啓 村岡宏子様


 私はお姉さんにお世話になっていた、佐々木というものです。優子さんの件、お悔やみ申し上げます。あなたのことはお姉さんから何度も伺いました。きっと、優しいあなたは気落ちしていることでしょう。私も、優子さんを救えなかった自分を悔いています。追って、また連絡します。


佐々木


 

 わたしは姉さんの名前を見て、この人を信じる気持ちになった。すぐに返事を書き、会って話をしたい、と伝えた。数日後に返事が来て、私たちは本郷キャンパスの中の喫茶店で落ち合うことになった。佐々木さんという人も東大生なのだろうか。

 工学部にある指定された喫茶店で待つこと数分。やや背の高い、眼鏡をかけた若い男性が入ってきた。白っぽいベージュのスラックスに、青っぽいカッターシャツを着ている。彼は少し辺りを見渡すと、わたしを見つけて歩み寄った。

「宏子さん、こんにちは。お姉さんにそっくりだね」

 そう言って目を細める彼は、とても優しい顔をしていた。


 


   八 繁邦



 優香は実の名を村岡優子といった。彼女とぼくは慌ただしく連絡先を交換し、ホテルで別れた。ぼくは彼女の今日最後の客だったから、彼女は事務所へ帰るだけだった。別れ際に、彼女は少し赤い目をしたまま、

「わたしを信じていいの?」

 と訊いた。ぼくはそっと頷いた。

「信じるというか、あんたになら騙されてもいいと思うよ」


   ***

 

 そこから僕たちの戦いが始まった。優香は百万円ほどの蓄えを持っていた。ぼくはぼくで、実家通いだった上に大学から月二十万円の奨励金をもらっていたので、ゆうに二百万円以上の貯金があった。幸い、ぼくはそのことを親に話していなかった。栄が戯れに、有り金は少なく見せるのが正攻法だ、なんて言ったからだが、今となってはこれが助かった。優子は言葉通り店を辞め、バイトに専念した。ぼくは何度も優子と話し合って、ぼくが卒業するまでは二人の貯金を切り崩し、それからはぼくが働くことに決めた。

 博士課程に進学する予定だったぼくが急に就職すると言い出したので、結城先生は驚いた。ぼくは悩んだ末に、研究室の安斎に相談した。安斎は修士一年の同期で、少し太った陽気な人だった。ぼくは優子に同意を取った上で洗いざらい話した。初め、安斎さんは少し不安そうな顔をしていた。最後まで聞き終わって、しかし、安斎さんは少しほっとしたような表情を見せた。

「その方は、素敵な方なんだね」

 その言葉で、ぼくは安斎に話してよかった、と思った。安斎は続けた。

「君は世間的には厳しい状況にある。こんな言葉は嫌だが、世間の人は君を娼婦と駆け落ちして将来を棒に振った男、と見るかもしれない。でもね、もし君が今逃げたら、君はきっとそれを一生後悔するだろう」

 そう言って、安斎さんは一冊の本をぼくに渡した。サマセット・モームの『アシェンデン』だ。

「この中に、同じような人が出てくる。イギリスの大使なんだが、彼は君と違って逃げたのさ」

「その後どうなったの?」

「読んでみるといいよ」




   九 宏子



 佐々木さんは工学系研究科で修士課程に在籍する学生だった。彼は自分のことは繁邦と呼んで欲しい、優子もそう呼んでいたから、と言った。

「繁邦……さん、あの、姉とはどういう関係だったのですか」

 彼は自明な答えを言わずに、ただ、封筒を差し出した。姉の字で宏子へ、と書かれたその封筒には、薄い便箋が数枚入っていた。わたしは繁邦に目を向けた。彼は頷いて、読むように促した。わたしは読んだ。そして、全てを知った。姉が繁邦と出会った経緯から始まったそれには、二人で頑張ったこと、でも、自分に癌が見つかって、どうしようもないことが書き記されていた。もし自分が死んでも、優しいあなたでいてほしい。そう締めくくった姉の字がわたしの目の前で滲んで、わたしは泣いた。

「優子は、癌のことを気に病んでいた。もう手遅れだったんだ。彼女はぼくにもそれを隠していた。ぼくは何故彼女が死んだのか、ずっと知らずに恨んでいた。でも、先週これと、ぼく宛の手紙を見つけたんだ」

 そういう繁邦も、涙をこらえていた。


   ***


 次の日の朝、わたしは井の頭線に乗り、明大前で京王本線に乗り換え、姉の死んだ廃工場へ向かった。そこはがらんとして人気がなく、わたしは草の生えた塀と鉄条網をくぐって中に入った。鉄パイプが天井から吊り下げられている。わたしは錆びたドラム缶を転がしてきて、その上に乗ると、持ってきたロープをパイプに結わえ付けて、その下に輪を作った。急に心細くなって、わたしは辺りを見渡した。蝉の声がする。工場の中は薄暗く、中庭に屋根が落とす影はナイフで切ったように鋭い。わたしは深呼吸をして、輪に頭を入れた。携帯電話を出して、繁邦に掛ける。電話は思ったより早く繋がった。

「もしもし、わたしよ、宏子です」

「ああ、どうした?」

 繁邦の声は呑気で、帰ってわたしは申し訳なくなった。

「あの、昨日はありがとう。手紙を見せてくれて、嬉しかったわ」

「……あんた、死ぬつもりか?」

 わたしはどきりとした。

「……はい」

「何故だ。優子はあんたのことをあんなに」

 繁邦の声が涙声になるのを、わたしは遮った。

「ごめんなさい。さよなら」

 そう言って、わたしはドラム缶を思い切り蹴った。




   十 繁邦と宏子


 わたしは息ができない。息が、息ができない。頭が熱くなって、体が夢中になってもがくのに、息ができない。苦しい。助けて。姉さん、母さん、父さん、助けて。

 ぼくは走った。鉄条網を乗り越え、ドアを探して見つからず、窓を割って工場に入る。

 わたしは息ができない。苦しい、もう駄目だ。

 ぼくは彼女を見つけた。走り寄って、地上三十センチメートルで揺れる足を掴む。

 不意に、首が楽になった。息ができる。空気が、肺に、入って、頭がはっきりしてきた。足を掴まれている、と気づいた。

「持ち上げるぞ、首を抜け」

 わたしは必死に頭をロープの輪から抜いた。

 ぼくは、彼女を抱いて、そっと床に降ろした。

 目を回しているわたしを、繁邦が抱いた。

「馬鹿。姉さんの分も、ちゃんと生きなきゃ駄目じゃないか」

 わたしは彼を見上げた。彼の目からは、涙が溢れている。

 ぼくは涙に揺れる彼女を見つめた。放心したまま、ぼくの抱擁に応えている。

 わたしたちは、そのまま数分そうしていた。

「立てるか?」

「ええ」

「いいか、向こうに庭が見えるだろ。こっちはまだ影だ。死の国だ。苦しいことしかないし、そこに意味はない。でもな、あっちに行ったら、苦しいことはみんな消える。太陽があるからだ。わかるか?」

 わたしは頷いた。

「行くぞ」

 ぼくは彼女の手をとって、

 彼女はぼくの手をとって、

 太陽のもとへと歩いた。

 不意に影が途切れ、空が、大きな空が私たちを包んだ。

「生きるんだ。もう悲しくはない。俺も、お前も、生きてる。それでいいよな」

 ぼくはそう言って、彼女を見やった。その美しい横顔が、光を浴びて輝いている。

 風が吹いて、わたしのスカートを揺らした。その風は草を巻き上げ、わたしの髪をなびかせて、上へ上へと吹いている。太陽の方へ。

 空へ。


おわり

 


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