第462話、早速調査に行きたい錬金術師

「・・・じゃあ、早速調査、行こうか」

「「え?」」


許可が貰えたなら早速調査へ、と思って声をかけると何故か疑問の声を上げられた。

王女もリュナドさんも予想外だという顔で、私がおかしな事を言っている様子だ。

え、なんで。私何もおかしな事言ってないよね。だってその為に来てるんだし。


「・・・何か、おかしな事、言った?」

「え、いや、えっと、えぇ・・・」


私はまた何か間違えただろうか。訳が解らず恐る恐る問いかけると、王女は狼狽え始めた。

何言ってるのこの人と言わんばかりの行動に、余計に不安になって来る。

解んない。何で私こんな反応されてるの。リュ、リュナドさんなら教えてくれるよね?


「・・・リュナドさん、何か、駄目、だった?」

「あー・・・いや、まあ、駄目ではない、と思うが」


あ、そうなんだ。駄目ではないんだ。良かった。思わず安堵の息を吐く。

でもじゃあ王女の反応は何なんだろう。いったい何であんな困った様子なのか。


いや、困ったというよりも、疑問なのかもしれない。

リュナドさんも声を上げていて、けれど別に駄目な事じゃない。

ならそれはきっと、私の行動が予想外だったんじゃないかな。


あれ、それはそれで私駄目な様な。嫌でも駄目じゃないって言われたし。

うーん、解んない。私は何をしたんだろう。おかしな事はしてないと思うんだけどなぁ。

もしかして何か嫌な気分にさせたのかな。だったら申し訳ないけど・・・。


「・・・何が、気になった、の?」

「ぴっ、い、いえ、と、特に、何も、ないです・・・!」


恐る恐る問いかけると彼女はまた慌てた様子で応え、ただその答えに思わず首を傾げた。

特に何も無いと言いつつ、けれどやけに慌てていて、困っている表情に。

王女の行動は時々ちぐはぐだ。ただその焦りの行動は私に似ている。


もしかして言いたい事は有るけど、言えなくて困ってるんだろうか。


「・・・言いたい事、あるなら、聞くよ」


落ち着くまでちゃんと待つし、言い切れるまでしっかり聞いてあげる。

私がライナに浴して貰った事で、家に来たばかりの頃のメイラにも良くしていた事だ。

ああ、そう思うと何だか王女が可愛く思えて来たかも。懐かしいな、あの頃のメイラ。


「っ・・・いえ。そうですね。すみません、余計な事を申し上げました。参りましょう」


可愛い弟子の事を想い返しながら待っていると、王女は落ちつきを取り戻していた。

そしてしっかりと私にそう告げ、けれど本当に良いのだろうかと少し悩む。

別に余計な事ではないんだけどな。言いたい事あるなら言ってくれて良いんだけど。


私が怒られるとかなら、ちょっと怖いけど、そうじゃないみたいだし。

まあでも本人がそういうなら良いか。言いたくなったらきっと言うだろう。

こういう時に無理に聞き出そうとしても怖いだけだ。私がそうだし。


「・・・じゃあ、行こうか。良いんだよね、リュナドさん」

「ああ。解った。行こうか」


リュナドさんが頷いてくれたので、安心して私は鞄を背に抱えた。

彼の鎧は精霊達に運んで貰い、彼には予備の外套を手渡しておく。

日差し避けに丁度良いだろう。仕込みの魔法石も精霊達が使うだろうし。


『『『『『キャー♪』』』』』

「お前ら、内ポケットに入るのは良いけど、頼むからそこで喧嘩するなよ?」


精霊達はリュナドさんが羽織る外套の内ポケットに入り込み、外套がうねうね動いている。

まるで外套が生きているかの様子に、ちょっとくすっとしてしまった。

ただ彼の傍から常に離れない子は、そこは僕の所なのにと不満そうだったけど。


私の頭の上の子もそうだけど、自分の位置に拘りが在るみたいだ。

とはいえ頭の上の子みたいに蹴り落とす事も無く、ムーっと膨れてるだけだけど。


「・・・ん?」


そこでふと気が付いた。王女が結っている髪の中から、ひょこっと精霊が顔を出したのを。

私と目が合うと嬉しそうに手を振って、また髪の中にヒュッと隠れてしまった。

あれって王女は気が付いてるのかな。流石に気が付いてるよね?


「・・・髪の中に居るの、気が付いてる?」

「あ、は、はい。承知しております。ありがとうございます!」

「・・・そう、なら、良いん、だけど」


少し気になって訊ねると、やっぱり気が付いてはいるみたいだ。

けど何故か勢いよく礼を言われて、少し驚いて言葉に詰まってしまった。

王女はあれかな。慌てると声が大きくなっちゃう時があるのかな。


もしそうなら、仮面が無かったら私と王女って会話成立してなかっただろうなぁ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王女の許可報告の後、当然王族との会談も有るだろう。

詳しい話を聞きたいと顔に書いていたし、限られた人間のみの場を設けて。

当然俺はそのつもりだったが、セレスはそんな事はガン無視だった。


「・・・じゃあ、早速調査、行こうか」


何時もの調子で言い出した錬金術師様に、俺も王女も思わず聞き返したけどな。


まあ解ってないんじゃなくて、わざと無視したんだろう。

でなきゃ王女に『何か文句があるのか』と問いかけたりはしない。

ただ俺に確認を取ってくれるようになったのは、少なからず関係の進歩だろうか。


いやまあ、それも『良いよね? 返事は聞いてない』って感じだったが。


王女も最終的にセレスの判断に従い、色々と諦めをつけた様だ。

まあ『文句があるなら言え』と、あんなドスの効いた声で言われても困るけど。

絶対聞く気ないよなそれ。そういう所は本当に変わらないよなお前。


ただまあ、王女の身の安全には気を配っているみたいだが。

王女の髪の中に精霊が潜んでいた。外からは見えない所だ。

勝手に潜んだ訳じゃないのは、王女の反応を見て居れば解る。


無理を通させる為にも、キチンと護衛を付けたって事なんだろう。


出発が決まった所で鎧を着直そうと思ったが、セレスにローブの予備を渡された。

鎧は止めておけという事らしい。正直助かる。流石に暑いんだよ。

羽織ると何が楽しいのか精霊達が内側に入り込み、何時もポケットの精霊が不満そうに膨れた。


『キャー・・・』

「どうせこれ着てる間だけだ。そんなにむくれるなよ」


肩に乗る相棒の頭をポンポンと叩き、取り敢えず納得させて荷車へ向かう事に。

王女も外出用の外套を侍女に用意させ、更に侍女も付いて来るつもりらしい。

まあ足運びから察するに、侍女っていうか護衛だと思うけどな。


「鎧は荷車の中に置いておきたいんだが・・・セレス、良いか?」

「・・・ん、そうだね・・・その方が、良いね」


置いておいて良いではなく、置いておいた方が良いか。

その言葉に王女が少し険しい顔をみせ、けれど頭を振って表情を消した。

彼女にしてみたら不穏な言葉だ。今のは『城内に敵がいる』と言っている様な物だしな。


だが国の現状を考えれば、セレスの言葉は何もおかしくはない。

多分この場で誰よりも危険なのは彼女、錬金術師の身の安全が一番の問題だ。

あの竜を、そして俺を使うには、セレスを人質にするのが一番簡単だと思う筈。


もしくはセレスを引き抜くかだが・・・謁見の態度を考えるとその可能性もあるかもな。


「・・・まあ、そんな事した時点でそいつ終わるけどな」


セレスに勝てる奴なんざそう居ない。そもそも頭の上の精霊一体にも勝てるかどうか。

それでも俺に警戒を促すって事は、不測の事態はあり得ると思っているからだろう。

黒塊の時の様に、竜神の時の様に、予測を超えた事態が。勘弁してほしい。


「・・・皆、乗ったね、行くよ?」

『『『『『キャー♪』』』』』


セレスの声に応えて精霊が荷車を飛ばし、あっという間に上空へとたどり着く。

ふと砂漠へ目を向けると、竜が丸まって眠っていた。起きる気配はない。


「・・・竜は、置いて行った方が、良いかな」

「そうだな・・・」


隣のセレスの呟きに応える。俺もその方が良いと思っていた。

竜をあの場においておけば、早々簡単に暴走はしないだろうと。


先ず王女の助力に来たという時点で、俺たちは戦争反対派と言った様なものだ。

ならもし戦争をしたい連中が暴走した時、あの竜で制圧されると想像する。

実際は手を出すと色々面倒だからしないけど、彼等からすれば解らない事だろう。


何よりも竜が突然暴れるような事態になった時、戦力が無いという事態も避けたい。

あの竜相手に何が出来るかは解らないが、武力が残っているという事が大事なんだ。

人間ってのは実際に出来るかどうかよりも、心の拠り所を求める節があるからな。


「じゃあ、そのままにしておくか」

「・・・ん」


俺とセレスが結論を下し、王女はそれを苦し気な表情で見ていた。

色々と納得したくない事も多いだろうが、納得して貰わないと困る。


「・・・王女殿下。国を救いたいのだろう。行くぞ」

「っ・・・はい」


民を脅し、家族を脅し、たとえ恨まれる事になっても、国と民を救う為に。

その覚悟を王女は改めて胸に抱き、王族の顔で頷いていた。

・・・セレスの行動は、いちいち彼女の覚悟を試している様にも見えるな。

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