第454話、事前準備の為に見送る錬金術師
無理だと告げると王女様は泣き出してしまい、けれど私はオロオロと慌てるしか出来ない。
だって無理だもん。戦争止めろとか、どうやったら止められるのか解んないもん。
リュナドさんも何も言わないし、それなら多分彼にも出来ないんじゃないかな。
もしかしたら、パックが居たら違ったのかもしれない。あの子は王子だし。
けど居ない以上何も答えられない訳で、慰める言葉も出てこない。
「・・・なに、が、何が、足りないの、ですか・・・!」
へ、何が足りないって、そんな事言われても、何に対してなのか解んないんだけど。
王女様が何か焦ってて、色々どうにかしたいって気持ちだけは解るけど、それしか解らない。
私に出来る事なんて何かあるだろうか。あれ、いや、そもそも、私何を頼まれてたんだっけ。
あ、そうだ。忘れてたけど、最初は砂漠を見て欲しいって、頼まれてたん、だよね?
その話はどうなったんだろうと思い、泣いている彼女に恐る恐る訊ねる。
すると彼女はガバッと顔を上げ、忘れていたかのように頼んで来た。
説得はしなくて良いらしいから、私に頼む事は砂漠を見れば良いだけ。
なら私でも何とかなる。絶対にどうにか出来るとは、流石に言えないけど。
その事も付け加えて了承を口にすると、彼女は心から安堵した顔で礼を言って来た。
・・・多分、王女様は、色々混乱して、焦って、何からして良いか解んないんじゃないかな。
私が必死に喋ってる時に、今の彼女の態度が重なる。伝えたいのに伝わらないって。
そうして自分の思いが何とか伝わったから、ホッとした顔で今私を見ているんだと思う。
きっと私なんかと同じにしちゃいけないのは解ってる。彼女はちゃんと話せている。
日常的に上手く行かない私と違って、普段の彼女はきっとちゃんと出来ているんだろう。
そんな人が焦るような状況。泣いて頼むような状況。それは、気合を、入れないといけない。
泣いて縋って、何時も助けて貰った。助けて貰って来て今の私がある。
なら、そんな私なんかに泣いて縋って来た人を、私はちゃんと助けなきゃいけないんだ。
「さて、話は纏まったが事が事だ。日帰りでとはいかないだろうし、遠出の準備をしておきたい。私が居なくなる以上、街の防備に関しての指示も要る。今はフルヴァドさんもアスバも居ないからな。一日・・・いや、二日くれないか。それ以上は待たせない」
ただ私が腰を上げかけた所で、リュナドさんが真剣な顔でそう告げた。
そっか。確かに今回の仕事で日帰りは無理だろう。なら無理は言えない。
むしろ二日でどうにかしてくれるなら、ありがたい話じゃないだろうか。
というか、忙しいから無理、って言われない時点でありがたい事だと思う。
「・・・ん、じゃあ、その間、私も、出来る事を、やっておくね」
「すまない、助かる」
「・・・助かるのは、私、だよ?」
「そうか、ならそういう事にしておこう」
リュナドさんはフッと笑って頷いたけど、そういう事にするも何も何時もそうだよね?
私貴方に助けられた覚えしかないんだけど。基本迷惑かけてるの私なのに。
偶には迷惑をかけられて、私が助ける側になってみたいな、と思うぐらいだもん。
・・・うわ、今自分で考えてびっくりした。私そんな事考えるんだ。この私が。
「では、他に話す事が無ければ、私は準備の為に帰ろうと思う。二人は何か有るか?」
「い、いえ、私は、特には。何かお聞きになりたい事があればお答えしますけど」
「・・・特に、無い、かな」
うん、一応考えてみたけど、今彼女に聞いても何も得る物は無い気がする。
だって彼女は緑を蘇らせようと、色々とやってみたと言っていた。
けれど一切の効果が無かった以上、現地に行って自分で調べた方が早い。
「・・・先ずは、現地に行ってから、かな」
「わ、解りました。どうかお願い致します」
「・・・ん」
まだ彼女と話すのは緊張するけど、彼女のいっぱいいっぱいな様子に少し気合が入る。
そんな風に思っちゃいけないんだろうけど、自分と同じ状態というのが少し気楽だ。
何時もよりいっぱい話せているのは、その辺りの感覚も理由かな?
『『『『『キャー♪』』』』』
精霊達が何故か楽し気に踊り出し、いそいそと旅支度の様な事を始めた。
自分達サイズに鞄を作り出して、態々鞄の外に作った服と帽子を詰めている。
遠出が楽しみなんだろうか。でもその鞄忘れた頃に消えるよね。
リュナドさんはそんな精霊達に呆れた目を向け、溜め息を吐きながら席を立つ。
「さて、それではまた後日会おう、セレス」
「失礼致します、錬金術師様」
「・・・ん、また、今度、ね」
『『『『『キャー!』』』』』
後日って事は、今日は家に来ないのかな。ちょっと残念。
でも私のせいで仕事を増やした以上、我が儘何て言える訳も無い。
精霊達と一緒に手を振って、彼らの姿が見えなくなるまで見送った。
「あ、しまった。普通に見送っちゃった」
緊張が残ってたせいで、彼に抱き付くのを忘れてしまった。失敗した。
忘れたからって、ちゃんと気持ちを伝えられてないとは、思われない、よね?
・・・不安だし、次会った時はちゃんとしよう。うん。
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使者が王女と名乗った時はどうなるかと思ったが、どうやらセレスは承知の上だった。
特に動じる事も無く彼女を迎え、焦る彼女から聞きたい事を引き出した。
多分何時も通り知ってたんだろうが、俺に理解させる為に彼女の口から言わせる形で。
ぶっちゃけた事を言うと、関わらない方が良い、っていうのが素直な気持ちだ。
聞いた所そこそこ離れてる国だし、戦火がここまで伸びる事は無いだろう。
勿論可能性が絶対にないとは言わないが、下手に関わる方が面倒だ。
国を救いたい王女には申し訳ないが、それが俺の、今の俺の考えだった。
自分でも冷たい答えだと思う。それでも俺は、自分が守れるもので手一杯なんだよ。
セレスが受けると言わなければ、判断を俺にゆだねられていたら、俺は確実に断っていた。
だってそうだろう。聞いた話を精査すれば、彼女が口にしていない事実に気が付く。
「使者殿・・・いや、王女殿下」
「は、はい、何でしょうか、精霊公様」
小道を出て、待たせていた車に乗り込み、扉が締められた所で声をかけた。
彼女はまだ緊張を引きずっているのだろう。手が少し震えているのが解る。
それでも何処か表情に安堵が見られるのは、救いの糸を手繰り寄せた確信が有るからだろう。
けれど俺は、そんな気楽には考えられない。何せあの森は普通じゃないんだからな。
セレスは精霊達に無理をさせたくないと、アイツ等の為に涙を流して後悔した。
である以上今回は同じ手段をとらないだろうし、取らせるつもりもない。
まあ、山にあるあの岩で行ける、ってならやらせるかもしれないが。
それもこれも先ずは現地を見てから。そう、現地を見てからと、彼女は言った。
今何をどうする等と、そんな事を言える状況じゃないと。
「貴女は、まだ話していない事がありませんか?」
「話していない、事、ですか?」
「国には鉱山があると貴女は仰った。ならば戦争に出るよりも良い手があるはず。その議論は無かったのですか?」
「え、そ、れは・・・あり、ました。ありましたが、何時の間にか、消えました」
「・・・そうですか」
やっぱりな。もうほぼ終わっている。どう足掻いても立ち行かない所まで来ている。
だから戦争なんだ。もう戦争ぐらいしか、生き残る手段が残っていないんだ。
「貴女の国の鉱山資源は、尽きかけているのでは?」
「っ、そんなはずは、そんな事、父は・・・!」
「成程。どうやら貴女にはその事を伝えていなかったのでしょう。おかしいと思いませんでしたか。食料が自給出来なくなり、けれど鉱山資源がある。ならばまだ国としての形を保てたはず。確かに食糧難は国にとって困難になるが、それでも戦争を避ける気ならどうとでもなる」
「そ、そんな、そんな・・・!」
鉱山資源があるなら、周囲の国に支援を求める事も出来るはずだ。
資源の種類によっては、むしろ強気に出る事すら出来る。
それが出来ないという時点で、資源の種類が悪いか、資源の産出自体が落ちている。
だから戦争なんだ。だから侵略戦争なんだ。勝てば起死回生の一手として。
負けた時の保険をかけちゃいるが、本気で生き残る為に戦争をするつもりなんだ。
終わってしまった国を捨て、新たな領土を手に入れて生きる為に。
「・・・本音を言えば、私は貴女への協力に乗り気ではありません」
「っ、そう、ですか。いえ、そうでしょうね。普通はそうだと思います」
「ええ。ですが錬金術師が、セレスが受けると決めた。なら私はその判断に従い、全力で仕事を致しましょう。それだけはお約束します」
セレスが決めたなら仕方ない。アイツがやるというなら、俺は粛々と準備を進めよう。
アイツの隣に立つ精霊公として、存分に自分の仕事をしてやろう。
それが俺に出来る数少ないアイツへの恩返しだ。この街を守ってくれる対価だ。
「だから、貴女も覚悟を決めてください」
「覚悟、ですか?」
「ええ。貴方に必要な、国を救う為に必要な覚悟を」
「それ、は、一体、何の・・・」
なんの覚悟か。決まっている。終わっている国が、終わらない為に足掻いているんだ。
王女以外の上層部は、国を捨てる判断を下していて、彼女はそれに逆らおうとしている。
なら彼女には覚悟が足りていない。国に逆らう覚悟が。反逆者の覚悟が。
「父と兄を下し、女王になる事も視野に入れる、覚悟です」
「――――――っ」
セレスを国の大事に巻き込んだんだ。ただ頼み込むだけを許すつもりは、無い。
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