第394話、弟子の成長がやっぱり寂しい錬金術師

「やっぱりリュナドさんは頼りになるねー」

『キャー♪』


 頭の上の子と話しながら、絨毯を飛ばして家へと向かう。

 その際ご機嫌で思わず鼻歌何て歌い、頭の上からも合わせる様に鳴き声が響く。

 だって何も気にしなくて大丈夫だからね。さっきの気分の重さが嘘のようだもん。


『『『『『キャー♪』』』』』

「ん、ただいまー」


 出迎えてくれた山精霊達に応えつつ、同じく出迎えてくれた家精霊の頭を撫でる。

 ただ家精霊は嬉しそうに手を迎えつつも、何か困った様な顔をしていた。


「・・・何かあったの?」


 気になって訊ねると、家精霊はっとした表情になった後首を横に振った。

 ただその表情はすぐれない。気になるけど、否定されたならそれ以上聞くのも悪いかな。


「そっか。でも言える事なら、何時でも言ってね」


 なら今は聞かなくて良いだろう。家精霊が言わないって事は言いたくないって事だろうし。

 この子が言わなくて良いと判断した事であれば、重大な事でもないと思う。

 もしかしたらまたメイラ絡みかもしれないし、内緒にしてって言われてるのかもだしね。

 言う必要が有る時に言ってくれれば良いと告げ、笑顔で頷く家精霊の頭をまた撫でる。


「二人は作業中?」


 家精霊に訊ねるとコクコクと頷いて返してきた。

 どうやら二人は出かける時に行っていた通り、依頼の薬を作っているらしい。

 なら様子を見に行こうと思い、家精霊の頭をもう一撫でしてから手を放す。


 すると家精霊がスッと前に出て扉を開けてくれたから、お礼を言って中に入る。

 そのまま作業部屋に向かい、邪魔にならない様に静かに扉を開けた。


 中には当然パックとメイラが居て、真剣な様子で調合をしている。

 二人共一瞬私の方に視線を向ける様子があったけれど、すぐに手元に意識を戻した。

 私に声をかける事よりも、手元の作業をきっちりこなす事を優先しているからだろう。


 それで良いと、私は思う。私への挨拶なんかより手元の作業の方が大事だ。

 何より今二人は少しずつ状態を見ながらやる必要のある作業をしている。

 手を止めたらそこまでの作業が台無しだ。二人はその点を良く理解している。


 手際も良い。最近は特にだ。パックは未だ少し怪しい所が有るけど、それでも悪くはない。

 メイラは完璧に近い。むしろモノによっては、下手をすると私より鮮やかな時が有る。

 ただし新しい事になると突然駄目になるのは何でなんだろう。あれ本当に不思議だ。

 後は一度失敗すると焦って更に失敗を重ねちゃう所も課題かもしれない。


『『『『『キャー♪』』』』』


 そして山精霊達は何故か知らないけど、ぐつぐつ煮だしている鍋の周りを踊っていた。

 一体がドンドコドンドコ太鼓を叩き、他の精霊達はリズムに合わせて踊り続けている。

 何かの儀式の様に見えるけど、絶対に意味はない。多分煮てる間が暇だったんだと思う。


 そうして暫く作業を眺め、皆がキリの良い所まで終わった所で顔を私に向けた。

 いや、山精霊は最初から関係無かったんだけど。何でやり切った顔してるんだろう。

 まあ良いか。精霊達の奇行は今更だ。


「お帰りなさい、セレスさん」

「お帰りなさい先生」

『『『『『キャー!』』』』』

「ん、ただいま。二人共手際がかなり良くなったね。もう教えた事に関しては、私が指示しなくても大丈夫そうだし。精霊達は・・・うん、良い踊り、だったんじゃ、ないかな」

『『『『『『キャー♪』』』』』

「あ、ありがとうございます! パック君、手際良いって!」

「ええ、嬉しいですね。先生を目指すならまだまだですが」


 私の言葉にメイラと精霊は素直に喜ぶも、パックは中々自分に厳しい意見だ。

 ただ笑顔になっているから、きっと喜んではくれているんだろう。

 可愛い弟子達の頭を撫でながら、ここからは自分も作業に混ざると告げて奥に行く。


「・・・セレスさん、ご機嫌そう、ですね」

「ですね。良い話が出来た、という事でしょうか」


 二人でコソコソ話してる? 

 何だろう。気になるけど、聞いちゃ駄目なんだと思う。

 私に聞こえない様にって事は、きっと聞かれたくないんだろうし。


 という事とはさっきの家精霊の様子は、内緒話だったのかな。

 黒塊の訓練の事もそうだけど、段々二人共内緒が増えて行くなぁ。

 寂しい、と思うのはやっぱり我が儘なんだろうな。でもやっぱり寂しい。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 セレスさんが凄い迫力で出かけて行った。

 街を避けた軌道を取っているから、多分向かう先はリュナドさんの所だろう。

 もしかしたらそのまま通過して、別の所に行くのかもしれないけど。


「家精霊さん、何があったのか、聞いても大丈夫?」

『アスバ様から主様へ、転移で直接ここへ、リュナド様への報告書が送られて来ました。ただその中に主様宛の手紙が有り・・・アスバ様が大変怒っている様でして』


 ・・・転移で手紙。良いのかな、そんな事さらっと私に教えちゃって。

 勿論アスバさんが転移魔法を使える事は知ってるけど、内緒にしたい感じだったし。


『魔法石で転移魔法は再現出来るけど、人に言っちゃ駄目だからね』


 魔法石の授業の時も、セレスさんはそう言っていた。

 だから山精霊達は口が軽いから仕方ないとしても、家精霊は言葉を濁しそうな気がする。

 いや、家精霊の事だから、私が山精霊達に話を聞いていると知ってるのかも。


「怒ってるって、向こうで何かあった、って事なの?」

『いえ、その、何と言いますか・・・』


 取り敢えず内容を優先しようとすると、家精霊は口ごもる様子を見せた。

 どう告げれば良いのか困っているという感じだ。聞いちゃいけなかったのかもしれない。


「あ、ご、ごめんね。良いんだよ、言えない事だったら、言わなくて」

『いえ、言えない事ではないんです。ただその、アスバ様はまた主様の策にはめられた、と思っておりますので、その怒りを告げるお手紙だったのです。誤解なのですが・・・』

「誤解、なの?」


 今までの事を考えると、絶対誤解じゃないと思うけど。

 だってセレスさん大体作戦の内容を深くは伝えないもん。

 でも結局それが上手く事を運ぶ為の策なんだと思うけど。


『はい。ですが、事実がどう在ろうとアスバ様の性格上確実に八つ当たりはされるでしょうし、その相談をしに出て行かれたのだと思います。勿論報告書の提出も在るのでしょうが』

「報告書・・・そっちは流石に内容聞いちゃ不味いよね」

『そちらはリュナド様宛になっておりましたので、主様も中の確認をしておりません。なので私も内容は存じておりません』


 セレスさんは内容を把握していない報告書。けれどアスバさんは罠に嵌めたと言う。

 ならそれは『読むまでもなく内容を知っている』って事じゃないのかな。

 そうか、だから報告書を山精霊に任せず、今後の話をしに行ったんだ。


 セレスさんは何時もなら、リュナドさんへの届け物は山精霊に任せるもんね。

 直接自分の足で向かうのは、基本的に大事な用事がある時だけだもん。


 偶にそうじゃない時も在るみたいだけど、それはほら、二人の事だから。

 それにそういう時は、何も問題が無いのんびりしてる時だけの話だし。

 大前提として、ただ会う為だけの時はニコニコしながら向かうもん。

 セレスさんって本当にリュナドさんの事が好きだなぁって感じる笑顔で。


 でも今日は違った。かなり威圧感の有る表情だった。

 アレは戦闘の時の顔だ。戦闘時の威圧感だった。

 私達の実戦を監督している時のセレスさんだったと思う。


「メイラ様、大丈夫ですか? 家精霊は何と?」

「あ、えとですね」


 私が黙った事で心配したのか、パック君が訊ねて来た。

 なので慌ててさっきの話をすると、彼も少し考える仕草を見せる。


「今回の騒動の締めの相談か、相手が打って来る次の手の相談と言った所でしょうか。少なくとも精霊に任せなかったという事は、直接向かう理由があると考えるべきでしょう」

「ですよね。セレスさん、手紙とかは大体精霊さんに任せますもんね」


 パック君の考えは私とあまり差が無く、その事にホッとしながら応える。

 とはいえ安心も出来ないかな。それはまだ未解決って事だから。

 セレスさんが警戒をする必要の有る事が、まだこの後起こるという事だもん。


『主様はただアスバ様の八つ当たりが怖いだけだと思いますよ・・・』

「そう、かな。でも前に二人が魔法を撃ちあってた時は、セレスさん冷静だったよね?」

『アレは単に、怖くて表情が固まってただけです・・・』

「んー、怖がってる人があんなに的確な行動出来ないと思うけど。私を盾にしてたし」

『確かにああすればアスバ様が攻撃出来ないと思っての事でしょうが・・・』


 家精霊は時々セレスさんを怖がりな人にしたがるけど、それは少し無理が有ると思う。

 何より怖がってるにしては威圧感が凄い。むしろこっちが怖いもん。

 最近はもう大分慣れちゃったけど、笑顔からいきなり変わった時はびくっとなるし。


 勿論すこーしだけ、ちょっとぐーたらな所がある、っていうのは最近解ってきたけど。

 後多分身近な人間に対しては色々と緩いのも。パック君にあの格好は駄目だと思う。

 流石のパック君もセレスさんに対して苦言を口にしたぐらいだもんなぁ。


『はぁ・・・事実をちゃんと伝えているはずなのですが。何故こうなるのでしょう』


 私達の結論が不服なのか、家精霊はそんな事を呟いていた。

 家精霊は強過ぎるから、力が有るのに叩き伏せない事が臆病に見えるのかもしれない。

 普段が普通に話せているから忘れがちだけど、家精霊も精霊という特別な存在だ。

 山精霊と一緒で、普通の人間とは視点と感性が違うのかも。


「どちらにせよ、先生が何も告げなかった以上、聞かない方が良いのでしょうね」

「そうですね。必要が有るならきっと指示はくれると思いますし」

「なら先生に告げた通り、作業をしながら帰りを待ちましょうか」

「はい、頑張りましょう!」


 私達は私達で結論を出し、気合を入れて作業部屋に向かう事に。

 因みに帰ってきた後のセレスさんはやけにご機嫌だった。

 良い作戦でも思いついたのかな。それともリュナドさんと会えたからかな?


 ただ新しい指示は無かったから、ちょこっとだけ残念だったけど。

 今回は役に立てる事は無さそうなのかな。でも私から口を出せる様な事もないしなぁ

 ただ国絡みだし、パック君には最後に何か有ると思うけど。羨ましい。

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