第199話、気になる所は一つだけの錬金術師

先日王子が街に帰って来たと、リュナドさんから連絡が来た。

ただそれは帰って来たと言って正しいのだろうか。また来たって言うのが正しい様な。

まあどっちでも良いか。取り敢えずまたこの街にやって来たらしい。


こんなに早く何しに来たんだろうか。何か有ったのかな。

なんて思いながらそれを聞いていたら、王子が早速訪問したいらしい事を伝えられた。

王子ならそこそこ慣れた相手だし、今の所急ぎの用事は特にない。

なので『じゃあ明日待ってるね』と伝え、当日である今はのんびりと待っている。


「何の用なんだろうね?」

『キャー?』


テーブル座る山精霊の頭を撫でながらの呟きに、特に応える気のない声が返って来た。

首を傾げてはいるけど、多分私が傾げたから同じ様に動いただけだろう。

王子が来る理由と言えば結界石の売買か、彼の国に行く許可が下りたかぐらいだ。

だけど売買に関しては領主に任せているので、やっと許可が下りたという話なのかも。


「ん、来たね」


庭の精霊達の声が騒がしくなった。メイラは今日家に居るので彼女の帰宅ではない。

おそらくリュナドさんが王子を連れて来たのだろうと思い、家精霊と一緒に出迎えに行く。

外に出ると通路から楽し気に山精霊が鳴く声が聞こえ――――――。


「あれ、従士、さん?」


帰ったはずの従士さん達が、リュナドさんと王子の後ろを付いて来ていた。

しかもその後ろに文官達も居るのが目に入り、慌てて仮面を取り出して身に着ける。

王子しか来ないと思っていたから完全に油断してた。あーびっくりした。


あ、最後尾にアスバちゃんが居る。あれ、アスバちゃんが王子と一緒にって初めてな様な。

それにしても従士さん達は何で居るんだろう。もしかしてまた誘に行く様に言われたのかな。

等と疑問と驚きで固まっている間に彼らは庭に入り、家の傍までやって来た。


「やあ錬金術師殿に家精霊殿、お出迎え感激の至りだ」

『『『『『キャー』』』』』

「ああすまない、勿論君達もね」


私が呆けている間に家精霊が恭しく礼をとり、王子がそれに礼を返す。

ただ山精霊達が自分達も居ると声を上げ、それにもにこやかに返す王子。


因みに家精霊の動きが解った理由は、今日は服を着ているからだ。

今日はメイラも居て欲しいと要望が有り、それならばおめかしをと家精霊が張り切った。

結果メイラは可愛らしい服装になったけれど、家精霊も可愛らしい服になっている。

メイラが可愛い服を着る代わりの対価の様な物らしい。


二人が納得の上なら良いのだけど、家精霊はそのフリフリの服で良いのだろうか。

どちらかと言えば女の子寄りの見た目だけど、性別は無いんだよね。精霊だし。


「・・・何で、後ろの彼らも、居るの」


取り敢えず正気に戻った私は、王子に向けて一番の疑問を投げかけた。

彼らは王都に帰ったはずだ。従士さんも街を出る前に態々別れを言いに来たし。


「不味かったかな? 彼らこそが今回の件の当事者故に、話に加わって貰おうと思ったのだが」

「・・・従士さん、何か、有った?」


王子が不安になる事を言って来たので、もしかして従士さんに何か有ったのかと目を向ける。

でも見た所動きも立ち方にも不自然さは無いし、怪我をした気配は無さそうかな。

怪我ではないのであれば、道中で帰れない様な何かが有ったのだろうか。


「あ、いや、この通り無事だ。何の問題も無い。本当に、全て、無事だ・・・ありがとう」

「・・・なら、良かった」


どうやら心配する必要は無かったらしい。なら当事者っていうのは何の事だろう。


「だがもしこの場に私達が邪魔と言うのであれば、今すぐに立ち去ろう。礼は日を改めて」

「・・・ん、邪魔じゃ、ないよ。入って」


彼女を邪魔なんて、そんな失礼な事は流石の私でも言えない。

なので少し焦りつつ玄関の扉を開け、王子達を家へ招いた。

アスバちゃんがさっきから凄く静かなのがとても気になる。


「い、いらっしゃい、ませ」

「ああ弟子殿、お邪魔させて頂く。無理はしない様にね」

「は、はい、ありがとう、ございます」


メイラは緊張気味に王子に挨拶をし、その後ろの皆にも小さく会釈をしてから私の傍に。

椅子が少し足りなかったのだけど、文官二人が立っていると言い出したので問題は無かった。

・・・流石にこの人数はちょっと狭く感じるかも。精霊を抜いても10人居るし。


「さて、では先ずは私から報告をさせて頂こう」


席に着いた所で王子がそう口を開き、戻って来るまでに何が有ったかを語りだす。

私はその内容に驚いて絶句してしまい、王子が全部語りきる迄無言で聞いていた。

ただ幾つかは要領を得ない所が有り、その辺りは気にしないでおく事にしたけど。


解っていると思うが、みたいな事を言われたけど、私は知らないから解んない。

多分私以外の人間に向けての言葉だろうから、その部分は措いておくしか出来ないもん。


私にとって重要な部分は一つ。私の友達を殺そうとした。その一点だ。


勿論アスバちゃんの力量なら遅れなんて取らないと、そう思ってはいた。

だけどそれとこれとは別の話だ。明らかな殺意を持って攻撃をした事は許せない。

結界石の結界を壊せる威力の魔法を放たれたのなら、それは確実に殺しに来ている。


それにその場に従士さんも居たとなれば尚の事だ。

彼女はアスバちゃんと違って弱い。本当に、無事で、良かった。

王子がその場に居て守る様に動いたらしいので、彼には感謝しないといけない。


・・・あれ、でも何か説明聞いている内に、何かおかしい気がしてくるんだけど。

国王が攻撃した理由って、王子が城に行ったからって言っている。

なら二人が王宮魔導士に攻撃されたのって、王子のせいじゃないの?


「・・・彼女を危険な目に遭わせたの、王子、だよね」

「待って欲しい。ちょっと待って欲しい。確かにそうかもしれないが、これしか彼女の家族を安全に助ける手段が無かったのだから、無茶を言わないでくれ。私の身も危なかったのだから」

「・・・それは・・・仕方ない、か」


従士さんの家族は人質に取られていて、だから彼女は王都に帰らないといけなかったらしい。

王子はその為に身の危険を晒したというのなら、彼を責めるのも確かに悪いよね。


「・・・無事で、良かった」

「ああ、この通りだ。本当に、ありがとう。貴女のおかげだ」

「・・・? 私は、何も、してないよ」

「そう、だな。そうなんだろうが、それでもだ。ありがとう」


従士さんに目を向けて、心からの安堵の言葉が口から漏れる。

すると何故か従士さんに礼を言われた。何でだろう。私何にもしてないんだけどな。


「さしあたって、この恩を少しでも返す為に、戦争では私も前線に向かわせて頂きたい」

「・・・へ?」

「あ、いや、私の力が彼らに劣るのは、勿論解っている。だが、少しでも戦力になれればと」

「・・・戦争って、何の、話し?」

「・・・は?」


従士さんの突拍子もない言葉に私が驚いて返すと、彼女も同じ様に驚いた顔を向けて来た。

その様子を見て王子がクッと楽しそうに笑い、アスバちゃんも大声で笑いを上げている。

二人の笑いに全員が目を向けてしまい、それに気が付いた二人は笑いを収めた。


「セレスの言う通り、連中が戦争を吹っかけるのは不可能よ。少なくとも今すぐにはね」

「ああ、確実に今は来ない。来ればどうなるか解っているだろうからね」

「ど、どういう事ですか、アスバ殿、殿下」


本当にどういう事だろう。言う通りも何も、戦争って事自体初耳なんだけど。


「簡単な話よ。私も殿下の護衛も、誰一人殺していない。だから義憤に燃える連中も居ない」

「人間というのは不思議な物でね。仲間が殺されれば絶対に勝てない相手にも挑むが、犠牲者が居なければ戦う意思が湧き難い。それに今頃は事情を知らなかった貴族の対応で手一杯だろう。この地に正義の有る戦争を吹っかける所か、面倒臭い王族に下手な手を出したのだから」


二人は楽しそうに笑いながらそう語り、従士さん達は目を見開いて驚いた後に納得していた。

私も良く解らないなりに、取り敢えず戦争は無いんだねと納得して頷いて返す。

その様子を見てから二人は更に説明を続ける。


「それにあれだけ派手にやったんだ。本気でやればアスバ殿一人を相手にどれだけの犠牲が出るか、そこが解らん連中ばかりではないだろう。特に実働部隊は攻める意味を見出せないだろうね。何せ手加減をされているというのは、誰よりも戦った彼らが一番解っている筈だ」

「実働部隊にも貴族は居るし、貴族の子弟も居る。国王と側近のくっだらない企みの為に死なせたくは無いでしょ。むしろ馬鹿やった国王を王座から引きずりおろして、これから王座争いに発展でもするんじゃない? 少なくとも私達に直で喧嘩売った連中は無事じゃ済まないでしょ」


・・・実はさっきから友達に危害を加えた人達に怒っていたのだけど、必要無さそう。

私が態々出向かなくても無事じゃすまないなら、それでもう良いかな。二人とも無事だし。

よく考えたら私その場に居なくて誰が誰か解んないし、関係無い人に攻撃したら不味い。

そうなったら確実にライナに怒られるし、リュナドさん達にも嫌われるかもしれないもん。


「後はこっちの物だ。何せ他国の王族に喧嘩を売ったのだ、出来れば穏便に済ませたい、と思っているだろう。ならば国を亡ぼす様な要求以外は通せる。とはいえ相手は人間だ。突拍子もない事もしてくる可能性は有る。なので十分に気を付けておいて欲しい。弟子殿もだ」

「え、は、はい、わかり、ました・・・」


ああ、それでメイラを一緒にって言ったんだ。メイラも危ないかもしれないのか。

・・・メイラに手を出すとか、やっぱり先に叩き潰しに行くべきじゃないかな。

いや、待って、落ち着こう。まだするとは決まってないんだから、早まったら怒られる。

それで何の問題も無い従士さんを怖がらせたんじゃないか。落ち着け私! 魔法石を握るな!


「・・・精霊達、メイラの事、お願いね」

『『『『『キャー!!』』』』』


取り敢えず怒りを抑えながら、山精霊に今まで以上にガードを固くする様に指示しておく。

もし手におえなくても私に連絡をくれれば、向かいの山ぐらいすぐだし。

山精霊達は今までにないぐらい気合を入れて応えたので、心配ないかもしれないけど。


「ま、今すぐ話を持ち掛けた所で余計に面倒だろうから、暫くは様子見になるけど。王座争いに巻き込まれたくはないのでね。ああでも、勝てそうな陣営に貸しを作るのも有りかなぁ」


王子はのほほんとそんな事を言い、それで今回の話は殆ど終わったらしい。

そんな感じで王子のお茶を飲んで帰って行き、暫く周りを警戒して過ごすという結論になった。

話の中で一つ良かった事は、従士さんが街に住むっぽい事だろうか。ちょっと嬉しい。





・・・取り敢えず、その気持ちに目を向けて、殺意を抑えよう。そうしないと危ない。

国王、か。流石に、手を出すのは、不味い、よね。そう思える程度には、落ち着けてる、かな。


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「私に玉座を降りろだと・・・!」


怒りに任せて手に持った書簡をびりびりに破き、そのまま投げ捨てる。

今回の件で隣国の王子に手を、何の正当性も無いのに手を出した事が知れ渡ってしまった。

あの魔法使いが余りに派手に動き過ぎたせいで、ただの侵入者と誤魔化す事が出来ずに。


「逃走経路もわざとか、あの男・・・!」


何も知らない貴族や兵士達を巻き込む様に、逃走時に態々目立つように逃げている。

おかげで奴の顔を知る高位貴族が今回の件に首を突っ込んで来た。

城の内部構造や貴族共の所属、街での普段の行動すら把握しているとしか思えない。

何て男だ。城の内部に奴の草が居る。何時からだ。何時からどれだけ忍ばせていた!


おかげでその責任を取り王を降りろと、貴族共が連名で書簡を送ってきおった。

しかもあの時私に付いていた連中も何人か寝返っている。ふざけおって!


「このまま私が下りれば王座争いが起こると何故解らん! 国が混乱するぞ!」

「ま、全くです、陛下」

「さ、流石に少し、連中も軽率が過ぎますな」


臣下共が私の言葉に同意はするが、それは言葉だけだ。

目は「どちらにせよ混乱はする」と言っている。それも私のせいでと。

その目が余計に腹立たしく、怒鳴りちらして臣下共を追い出した。


「あの男め・・・いや、錬金術師、貴様だ、貴様のせいだ・・・・!」


貴様が大人しく従っていればこんな事にはならなかったのだ。

それに王子の行動は奴の望みなのだろう。こちらに来る前に態々接触していたのだからな。

王族に喧嘩を売ったのだ。このままで終わらせる物か。絶対に許さんぞ、錬金術師・・・!

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