第40話、魔獣退治依頼が増える錬金術師。

今日酒場に行って、マスターから魔獣退治の依頼を受けた。

別に今日初めて受けたって訳じゃないけど、依頼書を見て少し困惑している。

その場で判断した訳じゃなくて、普段通り全部持って帰って今部屋で確認しているのだけど。


因みに今回は引き籠り期間が長くてまたライナに叱られた後だったりする。

もうちょっと、引き籠っても、許されると思ったんだけどなぁ・・・。


「・・・何だか、やたら増えてるなぁ、魔獣退治の依頼。指名で来てるのも増えてるし」


最近少し、魔獣討伐の依頼が増えた気がする。

勿論薬の調合依頼も相変わらず有るけど、頻度が少し多い様な気が。

前なら頼まれなかった離れた所の依頼も結構有る。


「まあ、別に良いけど」


依頼を出した人の所に向かい、門番さんに話を聞いて貰って、その情報から現地に向かう。

最近はそんな感じで仕事をしているので、人に怯える事も無くてまだ気楽な仕事だ。


・・・門番さんが居なかったら、絶対気楽になんて出来ないんだけども。

門番さんが話してる間、ずっと彼の後ろに隠れてるし。

こういう人から話を聞かなきゃいけない依頼の時、最近は必ず彼に付いて来て貰っている。

彼は「これも仕事だからな」と言ってくれるけど、それでも本当にありがたい。


しかし門番さんの今の仕事は本当に何なんだろう。

私にこうやって良く付いて来てくれるけど、明確な仕事内容が良く解らない。

まあ、良いか。彼が迷惑じゃないなら素直に頼っちゃおう。知らない人と話すの怖いし。


「えと・・・この辺りは後回しで良いや・・・急ぎは有るかな・・・」


魔獣の討伐依頼も、討伐と言っても内容には色々と種類が有る。

素材が欲しいが為の討伐依頼。害獣が増えた為の対処。街に近づく魔獣の討伐。

他には森を切り開く為に、元々居た魔獣を追いだしたりと、理由は様々だ。


「あ、これ不味いかも・・・」


この中で私が優先するのは人の住処に出没する魔獣の依頼。

私には魔獣程度何の問題も無いけど、闘えない人にとっては危険な生き物だって事は解ってる。

兵士が小さな村にも居れば別だと思うけど、居ないから依頼を出してるんだと思うし。

居たらきっと兵士が倒してて、私が行くまでも無いと思う。


だからこの手の依頼を後回しにすればする程、被害が大きくなる事も想像出来る。

戦闘技術の無い人しかいない村とかだと、下手をすれば大型の獣すら危険だろうし。


余りに緊急な時は街に居る兵士が動く事も有るんだろうけど、全部解決してくれる訳じゃないから、こうやって受けてくれそうな所に依頼が回って来るんだろう。

色々理由は有るんだろうけど、その辺りは私にはどうでも良いや。

人同士のややこしい話は私には関係無いし、関わる気も無ければ解らないもの。


「これ・・・丁度良いって、これの事だったのかも」


酒場に行った時、マスターが良い所に来てくれたと言っていた。

真っ先に出した依頼が確か有った気がするから、もしかしたらそれがこれだったのかも。


場所は辺鄙な所に有る村で、どの大きな街の街道からも逸れた位置に有る。

既に数名怪我人と死者も出ている様だ。

それでもそこで生活していくしかないのか、その村がそこまで大事なのか、魔獣の被害に遭っても村を離れる気は無いらしい。


「・・・結構離れてる・・・門番さんに連絡をお願い。今すぐ出かけたいって」

『キャー』


呟きながら出る準備をしつつ、精霊に門番さんを呼んで来て貰う様に指示。

精霊が一体ピョンと窓から飛び出し、タタタと門番さんを呼びに走った。

最近何時もこうやって連絡を取っていて、暫くすれば彼がやってくる。


この依頼は酒場で直接頼まれた物ではなく、態々別の場所から酒場にも届いた物らしい。

だから依頼が届くまでに幾らかの時間がかかっている。

それを考えると、既に村は全滅してる可能性も有ると思う。

闘えないから助けを求めているのに、その助けが来ないんだから当たり前だ。


だからこの依頼は「村を救う為」ではなく「今後の被害を出さない為」の依頼。

そんな風に門番さんに説明された事がある。


報酬金額も余り高くなく、確実に無傷で倒せなければ受ける人も少ないと。

つまり誰も彼も村を救う気は無い、という事だそうだ。私に頼んだマスター以外は。


『あんたか、丁度良い。今日は来ないならこっちから頼みに行きたいと思ってたんだ。確認して――――ま、何時もの事だし、あんたなら間に合うかもしれねえ。頼むぜ、錬金術師様』


確か、こんな感じだった。最近の彼は急ぎの依頼が無い時は基本的に喋らない。

仕事を始めて長くなったのも理由だと思うけど、元々余り喋らない人だったんじゃないかなと、最近は思う。


鞄を渡して、お酒を出されて、飲んでる間にお金と依頼を用意され、それを持って帰る。

会話なんて二言三言で、何か気を付ける事が無い限り無駄口は叩かない。

その彼が態々向こうから私を見つけ、私に会いに来ようとしていた。


だから私なら間に合うかもしれない。多分そう思っていたんだと思うんだけど・・・。

だってマスターから私に連絡とりに来る時って、絶対「急ぎ」って言われるし。

それに助けてあげられるなら、助けてあげた方が良いよね。


「呼ばれたから来たぞー」


準備が終わった所で扉にノックの音が響き、外から門番さんの声が聞こえる。

相変わらず精霊の発見速度は速い。本当にすぐ見つけてくれる。

扉を開いて事情を告げようと思ったら、どうやら内容も既に伝えていたらしい。


なので手早く終わらせる為に鞄は持たず、絨毯だけを持って外に出る。

鞄を持ってると捜索途中で素材収集したくなるから、こういう時は我慢だ。

・・・本当は持って行きたいけど、我慢しよう。


「・・・地図確認、お願い。間違ってたら教えて」

「お、おう」


一応間違えない自信は有るけど、急ぎなのに間違えるとか目も当てられない。

門番さんはちゃんと地図を読めるので、お願いしておいた方が良い。


「やっぱり他の領地の依頼だったか。何時も通りうちの領主が受けて支援したって形で処理するよう、もう連絡は入れてるから。終わったら依頼書貰っていくな。マスターからも連絡入ってると思うし、気にせずやってくれて構わない」

「・・・ん」


私にはその辺りの決まり事は良く解らないけど、そういう事らしいので頷いておく。

前に門番さんとかなり遠くの所で仕事をした後、今後はそういう事になったと言われた。

もう気にする事は何も無いので、絨毯に魔力を通して現地に全力で飛ぶ。


「・・・飛ばすよ?」

「飛ばしてから言うの止めて欲しいなぁ・・・もうそういうのも慣れたから良いけどさ・・・」


門番さんは私にしっかりと捕まり、地図を見て細かに方向修正をしてくれる。

それに素直に従って飛び続けると、それらしき村が見えて来た。


「あれか―――――あれだ・・・!」


同時に大きな蛇の魔獣が村で暴れているのも目に入り、家屋に攻撃している様子を確認する。

多分あの中に村人が逃げ込んでいるんだろう。

近くに倒壊した家屋が有るが、破壊跡からしてこの魔獣の仕業で間違いない。

つまり以前破壊出来たから、同じ方法で破壊している最中という事だろう。


無事な家屋が複数有る辺りは、餌が取れなかった時に食べに来ている、という感じだろうか。

半端に頭が良さそうで、性質が悪い生き物だ。今回はそのおかげで間に合ったけど。


「任せるね」

『キャー』


絨毯の操縦を精霊に任せ、私は靴に魔力を通して飛び降りる。

着地前に衝撃を消し、そのまままっすぐに魔獣の攻撃範囲に飛び込む。


魔獣は突然来襲した私に反応し、家屋の破壊を止めてこちらに振り向いた。

大きな口を開けて噛みつこうとして来たけど、噛みつかれる直前で結界石を発動させる。

魔獣は結界石を噛み砕けず、だけど結界ごと私を飲み込もうとし始めた。

蛇のこういう所は凄いな。明らかに無理そうなのに飲み込むんだから。


「私にとっては隙だらけだけど」


そのままポイポイと魔獣の口の中に爆弾を投げ込んでいく。

念の為結界石を重ねて発動させておき、暫くすると魔獣の中で爆発音が鳴り響いた。

結界を噛む力が無くなったのか、そのままずるりと崩れ落ちる魔獣。


「・・・んー、念の為止めを刺しておこう」


爆弾の攻撃で外皮が弾けていない辺り、気絶しただけでまだ生きてる可能性が有る。

目の隙間にナイフを差し込んで隙間を大きくし、中に爆弾を投げ入れた。

図体が大きいとこういう倒し方も出来るなぁ、などと考えているうちに爆発。


「流石にこれで死なない、って事は無いと思うけど・・・」


しかし頑丈な蛇皮だ。これは良い素材になる。

後これだけ大きければお肉としても十分だし、良いお土産になるなー。

・・・いや、解体どうしよう。これ多分普通の刃物が通らないから面倒臭いな。


「鱗の隙間から刃を通せば行けるかな・・・?」


でも爆弾で破壊出来ない外皮だからなぁ・・・まあやるだけやってみよう。


「持って帰る方法に悩んでる、んだろうな、あれ。相変わらず容赦無いしえげつねえ・・・まあ良いか。お前はあいつに付いててくれ。俺は村人に説明してくるから・・・はぁ」

『キャー』


ゆっくりと降りて来た門番さんは村人への説明に向かい、私はその間蛇の解体に大格闘を繰り広げるのだった。

結果は大勝利だったので満足。美味しい蛇肉手に入ったぞー。ライナにお土産だー!


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「金になりそうな討伐依頼ならこの辺りか。ま、見ての通りだ」


依頼が無いかと仕事の斡旋所に向かったら、最近お決まりの言葉を告げられた。

出された討伐依頼を見ると、明らかに最近は数が減っている。


「またなの!?」

「また、だなぁ・・・向こうに流れてるみたいだな、依頼。お前より迅速に終わらせてくれるとなると、致し方ないんじゃないか? まあこちら側の依頼は来るんだし、良いじゃないか」

「良くないわよ! 食い扶持盗られた上に、あっちが優秀って言われてんのよ!?」


この街に来る討伐依頼の危険な物は、私が頼られる事が多かった。

別に私一人がやってた訳じゃないけど、それでも危険度の高い依頼は私の仕事だ。

だから私に頼もうと遠くの地から依頼が来る事だって少なくなかった。

なのに、なのに・・・!


「何なのよ、その錬金術師! 錬金術師とか名乗ってるなら大人しく王都か山奥にでも引っ込んでなさいよ! なんで魔獣討伐何かしてんのよ! それも他の領地にまで手を出してさぁ!」


カウンターをバンバンと叩きながら職員に叫ぶ。

八つ当たりだと理解しているけど、それでも当たらずにはいられない。

最近噂をやたら聞く様になったぽっとでの錬金術師とやらに、仕事の大半を取られたんだから。


「知らん。俺に怒鳴られても解る訳ないだろう。まあお人好しなんじゃないのか? 危険度は完全度外視、報酬は格安、緊急性の高い依頼は即座に解決。そりゃあ頼むに決まってる」

「ぐぬぬ・・・!」


職員の言う通り、件の錬金術師の仕事は依頼をする側にとってはありがた過ぎる相手だ。

危険度が依頼書より上がっていても報酬の吊り上げはしない。

報酬と依頼内容が明らかに釣り合ってなくても、平然とその依頼を受ける。

緊急性のある依頼は驚くぐらいの速さで解決してしまう。


「ま、良い噂ばかりじゃねえけどな。愛想が悪いとか、話しかけたら睨まれたとか、何が気に食わないのか殺されるかと思う声音で話しかけられたとか、獲物を切り刻む時は楽しそうだとか」

「ふん、その辺りはどうでも良いわ。戦闘能力が高いと良く有る噂だもの」


私だって似たような噂をされた時期が有るからね。


「まあ気にせず護衛依頼とか受ければ良いじゃねえか。お前の実力なら簡単な仕事だろ」

「嫌よ! 自分のペースでやれるから討伐依頼が好きなのよ!」

「まあ、お前そういう性格してるもんな・・・」

「ぎぐぐ・・・ああもう、気に食わないわね!!」


ダンとテーブルを叩き、優秀過ぎて腹の立つ錬金術師に恨み言を吐く。

あいつが居なければ私の懐がもっと温まっていたはずなのに。


「気に食わなくても仕方ないだろ。良いじゃないか、まだ頼られてるだけ」

「良くないわね! いい、このまま引き下がるって事は、私が下だって言われてるって事なのよ! そんなの認められないわね!」

「認められないって言ってもなぁ・・・どうする気だ?」

「決まってるじゃない・・・どっちが上か白黒つけに行ってやるのよ・・・!」


錬金術師の居る街は知っている。ならこっちから出向いてどっちが上か思い知らせてやるわ。

それにその錬金術師とやらは、最近大きくなっている街の領主お抱えという話だ。

打ち倒せるだけの実力を見せれば、今より金になる仕事が手に入るかもしれない・・・!


「・・・まあ、俺は止めないが、気をつけてな」

「誰に言ってるのかしらね! この大魔法使いアスバ様に障害なんて無いのよ!」


これでも勝算が有るから言ってるのよ。勝算無しで挑むなんて馬鹿のやる事だわ。

その女が売りに出しているという話の結界石という道具。


確かにあれは優秀だわ。高い金を払ってでも買う価値が有る。

一般人でもそれなりに優秀な魔法使いと同等の結界が張れるんだもの。

だけど残念、私にはあの程度の結界通用しないのよ!


「今普通に仕事取られてるって、それは障害じゃないのか?」

「うぐぅ・・・!」


ち、違うもん。周りが私の実力に気が付いてないせいだもん! 私が問題な訳じゃないもん!

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