ネコは液体です

夢崎かの

出会いは突然に

 2016年、夏。我が家にネコが来ました。スコティッシュフォールドの子猫です。

 白地に少し茶色い毛が混じっているので、名前は「きなこ」になりました。きな粉餅をイメージしたのです。


 出会いは、ペットショップでした。買い物に行ったついでに、いつものようにペットショップを覗いたのです。そこに、きなこがいました。一目惚れでした。

 ペットショップの店員さんは、子猫の前で目をハートにしている客を見逃してはくれませんでした。


「抱っこしてみませんか?」


 悪魔のささやきです。

 抱っこをしたら、終わりだ。心の声が叫んでいます。

 抱っこするくらい、イイじゃないか。再び悪魔がささやいてきます。


 逡巡しているうちに、店員さんが子猫を連れてきました。両手に乗るくらいの小さな子猫。心なしか、プルプル震えているように見えます。

 店員さんに促されるままに、手を消毒し、子猫が手渡されました。

 重さを感じないほどに軽い。力を入れると壊れてしまいそうでした。椅子に腰かけて、膝の上に乗せてみました。慣れない場所なので、ニオイをかいで確認しています。


 連れて帰ろうかな……

 心が揺れます。

 でも、うちには老いた先住犬がいます。引きこもりのチワワです。彼のことを最優先で考えてやらなければいけません。


「おとなしい子ですよ。性格がすごくイイです」


 店員さんは、まるで心を見透かしたかのように説明してきました。


「犬がいるんですよ。黒チワワなんですけど……」

「この子なら、大丈夫ですよ。これほど、性格のイイ子は、なかなかいません。ワンちゃんとも仲良くできると思います」


 購入が決まった瞬間でした。

 契約をして、購入が決定しました。子猫が入っていたケージに、「売約済み」の札が掲げられました。

 しかし、ワクチンの関係などもあって、今日は連れて帰れないそうです。後日、迎えに来ることとなりました。


 子猫が来るまでの間に、ケージを組み立て、トイレを用意しました。

 先住犬の「ゆず」は、何事かと興味津々で見守っています。


「お前に、妹ができるんだよ。仲良くするんだぞ」

「わかったワン」


 忠犬のゆずが答えたような気がします。


 そして我が家に子猫が来る日。家族でお迎えをしました。

 はじめての我が家。ニオイを嗅ぎながら、慎重に動き回るきなこ。そこに、先住犬のゆずがやってきました。


「フゥゥッ」


 背中の毛を逆立てて、威嚇するきなこ。そして、ゆずの顔面に強烈なネコパンチがさく裂したのです。


「性格がすごくイイです」


 そう言った店員さんの言葉が、ガラガラと崩れ落ちていくのを感じました。 

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