第2話 勇者の俺が何故?
俺は王様(あいつ)の言う通りアリナイの酒場に行くと、まあ冒険の始まりの場所ということもあり、なかなかの弱い者たちが揃っていた。
俺は勇者として屈辱ではあるが仲間募集の登録をするために受付にいる女性に話しかけることにした。
「あら。あなた見ない顔ね。冒険者の登録をしたいの?」
......おかしなセリフだ。俺は生まれてからずっとこの街で暮している。お決まりのセリフのように言っていることが寒いとは思わないのか?
それに酒場から俺の家は目の前だ。壁に風穴をあけて、あの家から来ましたと言ってやろうと思ったが、そんなことを正当化したところで俺の冒険は始まらない。なんとしてもあの勇者(ライト)の仲間にならなければいけないのだから。
今は大人しく、大人しく。
「そうです。登録をお願いします」
「そう、あなた......職業は?」
「勇......」
ノォォォォォォ! 絶対にバカだと思われる! 勇者(ライト)は先ほど街を出て行ったばかりだ。それなのに今ここで勇者などと名乗ったら、頭の弱い子だと思われ登録もさせてもらえない。ここは王様(あいつ)の決めた......
「自勇者(じゆうもの)です」
「自勇者(じゆうもの)? 聞かない職業ね」
「冒険者としては半人前なので、皆さんのような職業になれなかったんです。トホホ」
「それは残念ね。プッ」
我慢だ。今はまだ我慢だ。酒場の奥から笑い声が聞こえる。間違いなく全員が笑っている。総勢30人といったところか。受付の女も我慢をしているな。それを含めても31人。
「余裕だな」
「何が余裕なのかしら?」
しまった! 口に出ていたか! ここはうまく誤魔化(ごまか)すとして。
「いえ、もう少し登録が難しいものかと思いまして。あははは」
「登録は簡単なものよ。半人前さんでもね」
俺は勇者。勇者として【生】を受けたのになんの仕打ちなんだ!
クソ! 全部、王様(あいつ)のせいだ。もう一つくらい壁をぶっ壊しても文句は言われないだろう。登録が終わったら城に一発打ち込むとしようなどと考えていると酒場の女性は俺に登録証をくれた。
「あなたみたいな半人前が勇者様と旅が出来るとは思わないけど、せいぜい夢を見るのね」
......その勇者様は俺だけどな。ステータス確認しとくか? いや待て、ここで精神を削っても意味がない。登録は済んだ。あとは勇者(ライト)が仲間選びに来るだけだが、さすがに出て行ったばかりでは二日、三日は戻ってこないだろう。
焦らずゆっくり待とうとした時、暇を埋めてくれるかのように強靭な肉体をしたスキンヘッドの男性(やろう)が寄ってきてくれた。
「おい、自勇者様よ。俺は武道家だ。よろしくな」
「......へえ」
俺の態度に気に食わなかったらしい。頭から湯気が出ているように分かりやすく怒ってくれる。精神力が5歳レベルだな。二、三回は転生した方がいい。
「おい、俺を誰だと思っている?」
「武道家」
「そうだが、違う!」
「違う? 何が?」
「俺は勇者に迎えてもらう武道家だ」
「......仲間にしねえよ。短気すぎて作戦通りやらねえだろ? そういう奴はイザって時に頼りにならないんだよな。一番最初に棺桶に入っているし。酒場でも守っている方がお似合いだよ」
「おい、何勇者を気取っているんだよ!」
あっそうだ。勇者じゃないんだ。クソ! めんどくさい。設定がめんどくさい!
「いいだろう! 俺の実力を見せてやろう」
武道家は俺に喧嘩を売ってこようとしたので、ここで一発実力の違いを見せつければ大人しくなるだろうと、その喧嘩を買ってやろうとしたがアリナイの酒場に勇者(ライト)と戦士と僧侶が入ってきた。
俺は驚いた。普通に次の村くらいに行っている頃だと思っていたからだ。
「......あまりにも早すぎる」
受付の女性は態度を変え、目を輝かせ、さっきまで俺に殴りかかろうとしていた武道家は猫のように可愛くなった。
俺が本物だなんて誰も信じてはくれないと思うが今すぐに真実を伝えたい。
あれは偽物の勇者だと。
勇者(ライト)は受付の女性に話しかける。
「仲間を探しているんだが」
「どんな仲間をお好みですか?」
受付の女性はリストを見せ、勇者(ライト)がリストを見ている間、全員が息を飲んで勇者(ライト)を見ているが期待するのは間違いだ。
一番必死なのは武道家だった。勇者(ライト)に急接近して、ウインクをしている。いや、ウインクが出来ていない! ただ両目を閉じているだけ。媚びを売って冒険に参加してどうするというんだ。後世に勇者と冒険をしたんだと言いたいだけだろうな。残念な男だ。
更にあわよくばを狙っているのが受付の女性。自分をリストに入れている! お前はない! 冒険に出て何も出来ないだろ!
......俺はこの世が不安になってきた。こんな奴らに任せたら世界は絶対に悪に落ちる。
俺が何とかして勇者(ライト)達のメンバーに入らなければ!
「面白いやつはいないの?」
......勇者(ライト)よ、面白さは必要だろうか?
「それなら遊び人がいいかもね。遊び人だと誰がいるかしら......」
受付の女性は遊び人と思われたくないらしく、通常業務に戻ったが、武道家は、ツッコミの練習をしている。必死過ぎてかわいそうに思えてくる。
「なあ、この自勇者(じゆうもの)ってなんだ?」
嘘だろ。このタイミングで引っかかるのか? 血は争えないな。
「ああ、それでしたら彼ですよ。16歳の冒険者になりたての」
勇者(ライト)がこっちを見ている。ここは是が非でもアピールをしなければ。
「どうも、僕は......」
「勇者様にどうもってなにやねん!」
武道家が変なツッコミをしてきた! こいつ、一回教会送りにしてやろうか?
「よし。採用」
誰が? 何が良かった? 武道家は自分が選ばれたのだと喜んでいたが、受付の女性に伝えた名前は......
「セブンっていう冒険者で」
.....基準が分からない。選ばれたことは嬉しく思う。だが理由が分からない。そもそも面白いことなど一言も言っていない。
一番理解が出来てなかったのは武道家だろう。
「勇者様よ。どうして俺じゃねえんだ? ツッコミもキレッキレだっただろ?」
「えっと......歳が近いから」
「「そんな理由かよ!」」
誰もがツッコんでしまった。ライトは18歳。確かに歳の近さでいうなら俺だが、そんなことで仲間を選ぶとは言語道断! 仲間とは命を預けられる相手かどうかで選ぶものだ! ......というのは俺が勇者だとしたらの意見で......と言うか俺は勇者だ! 今はまだ気持ちを抑えることを優先せねば。
「ありがたくお受けします」
「......お前がいなければ、お前がいなければ」
逆恨みもいいところだ。武道家(おまえ)が選ばれる可能性など0だったぞ。
頭に血が上った武道家は俺に襲ってきてくれた。ストレスが溜まっていたからありがたい。ここでのミッションは達成したので、暴れても問題はないだろう。
俺は武道家を背負い投げで壁にぶつけ、穴を開けた。武道家は衝撃で意識を失った。このくらいで気絶するのなら諦めた方がいい。.....やばい。辻褄(つじつま)を合わせないと。
「フゥ、危なかったです」
「君、強いね」
「そんなことありません。(そんなことあるが)たまたま(確実に)タイミングが合った(合わせた)だけですよ〜」
「そうだよね。君が強いわけないよね」
「そうですよ〜」
勇者(ライト)は分かりやすくて(バカで)良かった。
「じゃあ、この人連れて行くから」
勇者(ライト)は俺を連れて行くことを決めてなんとかなったな。
勇者(ライト)、戦士、僧侶はアリナイの酒場を出て行ったのを確認すると、俺は受付の女性に壁の穴の先を指差し。
「俺、あの家に住んでたんだ。16年もな」
と俺は嫌味たっぷりにアリナイの酒場を後にした。
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