日本のアニメの海外での人気って実際どうなの?
志水鳴蛙
序論
序論
海外で日本のアニメやゲームなどのポップカルチャーが人気だと言われるようになってだいぶ経ちます。実際のところどうなのか?と思ってしばらく前から調べているんですが、未だによく分かりません。しかし分からないながらも「海外ではこうだ!」とひとことでは言えない多様で複雑な実態が何となく見えてきました。
そんなわけで、ここに調べたことをまとめておくつもりですが、手に入れた情報をただ書き連ねていくだけなのも味気ないし退屈なので、次の三つの点に注意して整理していこうと思います。
(1)メディアと流通
(2)誰が見ているのか
(3)何と関連付けられているのか
(1)メディアと流通
メディアと流通の展開については、とりあえず時系列で歴史的に追いかけていくことができます。アニメで言えば、一番古いのは映画ですが、テレビ、ホームビデオ、インターネットと、技術の進歩によって多様化してきました。また商業的な流通も時代とともに整備されてきました。
ただ、メディアや流通とは、商業的なものに限定しません。
例えば米国では、日本産アニメのファンが集まって大学などでクラブを作ったり、大規模なコンベンションを開いたりしますが、それも広義の「メディア」と捉えます。初期のアニメファンたちは、日本のアニメに自分たちで勝手に字幕を付けたビデオテープを作って頒布していましたが、それも「流通」です。
また、海賊版を売るのはもちろん違法行為ですが、それもやはり「流通」の一形態として扱います。
メディアと流通が重要なのは、「誰が見ているのか」ということと結びついているからでもあります。
子供番組として日本のアニメがテレビ放送されていれば、当然見ているのは子供たちが主体になります。米国で、普及し始めのホームビデオを入手して、わざわざ日本から持ち込んだり、同好の士にダビングしてもらったアニメのビデオを見ていたのはもっと歳が上の、かなりのマニア層です。インターネットでのアニメ配信が一般的になった現在では、(マニア的な傾向はあるにしろ)かつてと比べればかなりライトな層がアニメを見るようになっているでしょう。
日本の漫画などが、マニアックな専門店でしか手に入らないなら消費の主体はオタク層でしょうし、普通の書店などで買えるなら一般層にも普及していると思われます。
さらに、ある国の中での地域差もメディアと流通の問題として扱います。
大まかにに言えば、「場所」というのも「メディア」です。日本で言えば、東京の「霞が関」と「秋葉原」は全然ちがいますよね。いい比喩か分かりませんが、その違いを「官報」と「オタク向け雑誌」の違いのように捉えることができるということです。
正直、外国の地名からその土地の持つメディア的な意味合いを読み取るのはとても難しいのですが、できるだけ注意してみるつもりです。
また、作品自体を伝えるメディアの他に、「作品について」や「ジャンルについて」を伝えるメディアがあります。例えば、日本のアニメについての雑誌だとか、日本の漫画について語り合うネット上のフォーラムなどですね。日本のアニメについて論じる学者や評論家の文章もこれです。
単に作品を楽しむだけでなく「〜について」の情報を求めるような積極的なファン層について、「〜について」型のメディアを通じて知ることができます。
そしてアニメや漫画「について」を求める志向は、後述する「動員力」とも関わってきます。
(2)誰が見ているのか
海外で日本のアニメを観ているのは誰かと言ったら、まずは子供たちでしょう。まず子供たちを突破口に、日本のアニメが普及していくというパターンが多くみられます。
それから、アニメを熱心に観ているのは「オタクっぽい人」というイメージもありますよね。じゃあ海外のアニメオタクってどんな人たちなのでしょうか。日本のオタクと共通点もあるでしょうが、まるっきり同じとは限りません。
アニメファンには男性が多いという情報もありますが、もちろん女性のファンもいますし、無視することはできません。
日本にいると分かりにくいことですが、人種によるファンの偏りはあるのでしょうか。
すでに述べたように、どんなメディアを利用しているかということと、誰が見ているのかということは繋がっています。
同時に、見ているのが誰なのかということと、その人たちがアニメや漫画を「何と関連付けているか」ということも繋がっています。
例えば、米国の古株のアニメファンには、子供のころに日本産のアニメや特撮ものを観ていて好きになり、その両方を似たものとして理解しているタイプがいます。しかし、若いアニメファンには日本の特撮ものなど何の興味もないという人も多いでしょう。
他方で、フランスのジャパンエキスポでコスプレをしている女の子たちは、日本のファッションにも興味を持っていたりします。アニメと特撮ものが結びついている層とアニメとファッションが結びついている層は、アニメファンと言っても相当ちがいますよね(まあ両方に関心があるって人もいるんでしょうが)。
(3)何と関連付けられているのか
海外の人たちが日本のアニメや漫画をどんな風に理解しているのかを知りたいのですが、「どう理解しているのか」という問いはどうも扱いにくいので、ここでは「どんな物、概念、イメージと関連付けているか」という問いに置き換えて考えます。
まず日本のアニメや漫画は、「日本」という国(あるいはアジアという地域)と結びつけて捉えられているのか、いないのかという問題があります。かつて、ローカライズされた日本のアニメを観ていた海外の子供たちは、それが日本のものとまったく気づかずに自分の国のアニメだと思って観ていたという話はよく聞きます。
また「日本」と結びつけて受けとめていたとしても、その「日本」はどのようなイメージなのかということも考えなければなりません。浮世絵だの、歌舞伎だの、茶の湯だのという伝統的なイメージなのか、戦時中の軍国主義的なイメージなのか、戦後の経済発展やハイテクのイメージなのか。観光地としての日本のイメージもありますし、最近ではネット動画などによる「バーチャル観光地」としての日本のイメージもあるかもしれません。そもそも、アニメ・漫画・ゲームこそが「日本」のイメージになっていることもあるでしょう。
また、ここで扱う日本のアニメや漫画が、他のポップカルチャーとどう結びついているのか、いないのかという問題もあります。アニメ、漫画、ゲーム、(実写)映画、テレビドラマ、J-POPといったコンテンツは、決して一様に受け入れられているわけではないからです。任天堂のゲームで遊ぶ人は世界中にたくさんいますが、その人たちがみんな日本のアニメを観ているわけではありません。
時代や地域による差もあります。以前、東アジアの国では、テレビドラマの「東京ラブストーリー」と、その原作漫画がセットで人気になるということがありましたが、欧米ではこういう結びつきはないでしょう。
アニメや漫画は、ただ鑑賞する以上の行動に人を向かわせる作用を持っており、それをここでは「動員力」と呼ぶことにします。人をどんな方向に「動員」しているのかというのも、「何と関連付けられているのか」という問題の一部です。
例えば、アニメのロケ地を訪れるいわゆる「聖地巡礼」もここでいう「動員」のひとつだし、好きな作品のファンアートを描いたり二次創作の同人誌を作ったりというのも「動員」です。
中国では『スラムダンク』の影響でバスケットボールがすごく盛んになったそうですが、これはスポーツへの「動員」です。もともとフランスでサッカーは人気のスポーツでしたが、『キャプテン翼』の影響でさらにその人気が過熱したと言います。ところが米国では、アニメがスポーツへの強い動員力を発揮したという話は聞きません。こんなところにもアニメの受け止め方の多様性が表れています。
なお、作品の「動員力」の向かう先をさらなる「消費」に持っていくのが、関連グッズを販売する「マーチャンダイジング」、あるいは「メディアミックス」とか「マルチメディア展開」と呼ばれるものです。この場合、行く先が別の「メディア」な訳で、最初に述べた「メディアと流通」の問題に繋がっていきます。
「メディアと流通」、「誰が見ているのか」、「何と関連付けられているのか」という相互に影響関係にある三つの視点からは、日本のアニメや漫画の受け止め方の多様性が見えてきます。
「海外ではこうだ!」と単純化するのではなく、地域や時代による差異や変化をできるだけ拾い上げていきたいと思います。
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