カノン
一礼したハノンさんが消えた直後、ハノンさんそっくりな男性が入れ替わるように出現した。
「やっほー」
ひらひらと手を振る。
体つきと声こそ違うが、顔立ちはまさしくハノンさん。
「俺はカノン。ハノンの双子の弟なのだぜ」
「ふ、双子ってそんなにそっくりになるもんですか?」
「……異種族の多胎児は必ずそっくりになるよ?」
まさかそんな。
「でも、悪竜兄弟は別。あれは、神様が手を入れたから全員そっくりなだけだよ」
「サリーさん可愛かったです」
「だよね。カトレア伯母さんは可愛い……ってなんで貴様『サリー』呼びなんだふざけんなよ‼」
「大人げないなあ‼」
瞬間的に沸騰したカノンさんは、俺の胸ぐらをつかみ上げて殺意に近い嫉妬と怒りを向けてくる。
「うるさい黙れ。俺は家族親戚全員大好きなんだ」
「じゃあカノンさんも『サリーさん』って呼べばいいじゃないですか」
「そんな真似したら父さんに殺される。あの人ドシスコンだし」
「……シュレミアさんはなんて呼んでるんです?」
「『カトレア』だよ。『姉の愛称はオウキが名付けたものですから妖精以外が呼ぶわけには』って……くそっ、死ね」
見た目だけなら、気品と優しさに満ちていたハノンさんとそっくりなのに……
「改めて自己紹介。俺はカノン・ローザライマ。種族判定は鬼」
「……種族判定っていうのが、異種族混血の人たちが『結局どっちなの?』っていうことですか?」
頷いて詳しく説明してくれる。
「完璧にどっちつかずな状態の人はかなり珍しくてね。大抵は、両親のどちらかの種族で判定が出る。とはいえ、どちらともの特徴は少しずつ持ち合わせてたりもする」
「より特徴が色濃い方が判定結果……と」
「そうそう。分かってきたね」
彼は『人生は日々勉強だよね』と呟く。
「俺の職業は死神」
「中学二年生――おぶごっ」
一切の躊躇のない目つぶしが入った。
「シュレミアさんにも、おなじこと、されたんですが……‼」
「俺たちに限らず、戦闘に特化した種族はこうだ。人間は攻撃を行動に移すまでストレスがかかる仕様だが、俺らは
なんて恐ろしいんだ戦闘種族。
「リーネアにもない」
「レプラコーンってそんな種族でしたっけ……」
童話のイメージが崩れていく。
「レプラコーンは
「……」
「アリの巣にジョウロで水流し込んだりとか、カマキリの頭もいだりとか。それと同じ。道具を万全に使える分、人間の子どもより悪質な時も」
「…………」
「ってか、妖精に『無邪気で可愛い悪戯っ子。だけど人間の味方だヨ♡』なんてイメージ抱いてたら足元すくわれるぜ? 羽生えた妖精も中身えぐいし」
かつてルピネさんは、俺の中のファンタジーのイメージが壊れることを心配してくれていたが、まさか彼女の実兄から壊されるとまでは想像していなかった。
頭を抱えてうずくまっていると、バツの悪そうな顔をした彼が頭を下げた。
「悪い。……嫉妬と苛立ちで意地悪した」
「いえ……」
俺が茶化さなければ良かった話だ。
「本当に死神なんですか? 鎌持って命を刈り取る……」
「素手でもイケるよ」
バイオレンスな死神だ。
「理不尽に魂を持って行く死神じゃなくて。生命の生き死にを運命クラスの上位で判断する上司の神様が居て、俺はその指示と判断に従って命を刈りに行く。『行くべきところへ魂を導く』役割」
「へえ……凄い仕事ですね。どうやって就職したんですか」
ハローワークにもないだろう、そんな特殊な職場。
「俺の特技が死神と相性が良くて、上司からのスカウト」
「特技」
「何であろうと殺せる」
「…………」
彼はくつくつと笑って『光太にはやらないよ。指示出てない』と呟く。
指示出てたらやるんかい、というツッコミはさておき。
「あの……もしかしてこれから、ご兄弟全員で俺に何か……?」
「そういう術式の魔法だから、そうなんだけどー……正直、俺がキミにできることほぼゼロなんだ。家に取り憑く悪霊をぶち転がすことくらい?」
「えっ?」
悪い幽霊と書いて悪霊?
カノンさんは柔く苦笑する。
「でもまあ、すべきではないよな、そんなこと」
「弟妹たちをよろしく」
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