魔王様とクセの強い妹。
「お前演技下手くそ」
「「なんだって……?」」
「なんだって?」
ガーゴゴイルとほぼ同時に同じ言葉を吐いてしまった俺にショコラの呆れた目と無言の憐れみが飛んでくる。
やめろ、そんな目で見るな。俺は考えるより感じる派なんだよ。
「おにぃちゃんはもう少し頭いいと思ってたけど……魔王になってばかになったんじゃない?」
「うっさい! こっちは毎日いろいろやらなきゃならない事も考えなきゃならない事もあって頭パンクしそうなんだよ!」
「ほとんどそういうのめりにゃんに任せてる癖に……」
「……すいません」
まさに的を得過ぎていて何も言い返せない。
「じゃあちょっと見ててよ」
ショコラはそう言うと例の光る剣でガーゴゴイルの身体を切り裂き、その体の中心辺りで剣を留める。勿論剣は体をすり抜けていた。
勿論奴からの反撃もあるが、それをショコラは何事も無かったかのように空いている方の手で叩き落とし、「ていっ」と気の抜けた掛け声を発した。
「「ぎゃっ!?」」
剣の光る刀身が奴の身体の中心部で破裂。
「なるほど……中から攻撃するって訳か」
「でもこれも避けられちゃうんだよ。こいつ大げさにくらってる振りしてるだけ」
……なんだと?
「クナイが刺さるくらいだったら痛がって修復されてるように見せかければ騙せたかもしれないけど、これが直撃してるならお前吹き飛んでるよ?」
確かにガーゴゴイルは痛がっていたが、特に身体が欠損している訳でもなく、ダメージを負っている感じはしなかった。
「「ふはははっ!! よくぞ見抜いた! だがそれが分かった所で俺に攻撃が通じないのは変わらないぞ」」
こいつの言う通りで、これでは攻撃が通用しないという事が分かっただけだ。
「はぁ……。見え透いた演技って寒いよね」
「「何が言いたい……?」」
「お前さ、一瞬でも視界に入った事のある武器の攻撃なら自動で避けるように出来てるでしょ」
「「……」」
今までウザい程笑顔だったガーゴゴイルの表情がスッと消える。
俺が何度切りつけても当たらなかったのは、全部を目で追っていたんじゃなくて最初に俺の剣を読み取り、それが当たらないように設定されていた、という事だろうか?
「おにぃちゃんでも流石に理解出来た?」
「……あぁ、それは分ったが……だとしたらどうやって倒す?」
こんな万能な力を持ったアーティファクトがあるというのは認めたくないな……。
俺に同化しているアーティファクトの力も大概どうかしてると思うが、どんな強い力だとしても当たらなければどうという事はない。
こいつは無敵という事になってしまう。
「おにぃちゃんは本当にバカだなぁ」
そう言ってショコラはわざわざ俺よりも高い位置に浮かび上がってから露骨に見下ろしてくる。
「どうでもいいけどその位置だと服の中身が見えるぞ」
ショコラが身に纏っている神器礼装は巫女服のような形で、下半身の部分は下に向かって広がっている。
下から見たら中身が見えるほどに。
「見せてるんだよ」
「なんでだよっ!!」
本当にこいつのやる事と考える事は理解しかねる。
ショコラは俺と同じ位置まで降りてきて続けた。
「だからね、こいつは私だとちょっと相性が悪いんだよ」
「……それで?」
「はぁ……」
ショコラは再び上に上がって行って見下してくる。
「なんでわざわざ上に行くんだよ! それに中身が……」
「見せてるんだってば」
「これは何の時間だ!?」
緊張感が無いにも程がある。
ガーゴゴイルだって目の前で何が繰り広げられてるのか分からず困惑してるじゃないか!
再びショコラが俺の隣に降りてきて、耳元でガーゴゴイルの対処法を教えてくれた。ついでに息を吹きかけられた。
背筋は思いっきりぞわぞわしたけど、確かにそれならこいつの性質を発動させずに攻撃を当てる事が出来る。
「よっし、じゃあいっちょ試してみるか!」
「言っておくけど、出来るだけ一回で済ませてね。どんどん面倒になるから」
確かにショコラの言う通り、俺が失敗すればするほどこいつは俺の攻撃を避けるようになるだろう。
「「作戦会議は終わったか? 俺達は無敵だ! 確かに戦力だけならばお前らは強い。だが、当たらない! そして俺達の攻撃はまだまだ見せていないものが……」」
相変わらず魔族ってのはお喋りだ。
「残念だけどそれはこっちも同じなんだよっ!」
俺はガーゴゴイルに突進しながら、一度こいつに繰り出している炎魔法を放つ。
再びガーゴゴイルの身体が氷に包まれるが、俺はそれを確認する前に、出来る限り慎重に、正確に転移を行ない背後に回った。
そして、今までに繰り出していない氷魔法と光属性魔法を駆使して、氷の刀身に聖なる力を纏わせ一刀両断にする。
今回は確実に手ごたえが……って、あれ?
「……またすり抜けちゃったんだけど」
「……あれー?」
ショコラは首を傾げてほっぺたに人差し指をあて、可愛い顔してごまかそうとしてくる。
「「さすがに焦ったが……これで分かっただろう? 俺達は無敵だとな!」」
そう言って振り向き様にガーゴゴイルが腕を振るう。
その掌は鋭利な刃物のようになっており、氷の剣はあっさりへし折られてしまった。
おいおいおい……こんな所で手こずってる暇はないんだが……。
予想以上にめんどくさい敵にげんなりした。
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