魔王様と巨大兵器。
「背の小さな女……? それはもしかして少し変な喋り方をする女の事か?」
「そうだね。確かに言葉の発音が不思議な子だったよ。死にたくなければここで大人しくしているね。みたいな感じだったさね」
……どういう事だ?
考え方によっては、ウォンから守るためにわざとリンシャオがおふくろ達を牢屋に入れたって可能性もあるが……。
それだとおふくろを使って俺達を呪術で足止めする意味が分からない。
そもそも何故ただの足止めだったのかも不明だが、もしかしたら俺達を殺す事は不可能だと知っていたんじゃないか?
アルプトラウムからその情報を仕入れてさえいれば、俺達を殺すのではなく閉じ込めておく事を考えるのも分る。
だが、ほんの少し足止めした所で何が変わる?
「ちょっと、まさかリンシャオさんが黒幕だなんて言わないわよね?」
メアは動揺を隠せていない。俺に掴みかかって必死にそれは違うと訴えてくるが……。
「……まだわからん。ただ、何かしら一枚噛んでるのは間違いないぞ。それを確認する為にも俺達はすぐに戻ろう」
「……分かった。さっきの船でいいの?」
「ああ、それでいい。リンシャオに話を聞こう」
その時だった。
俺の通信機にアシュリーから通信が入る。
「やっと繋がった! あんた今どこに居るのよ!! 何してる、早く王都に帰ってこい!!」
「な、なんだ? どうした落ち着いて状況を説明してくれ」
アシュリーの慌て方が尋常ではなくて、背筋がゾクリと震えた。
「バカでかい魔導兵装が王都で暴れてる! もう王都は滅茶苦茶だ!! ナーリアが住民避難してくれてるから人的被害はそこまでじゃないが、このままじゃ本当に王都が落ちるぞ!!」
「なん、だって……?」
そんなでかい魔導兵装なんてどこから出て来た?
俺達を足止めしていたのはその間にそれを使って王都を陥落させる為だったのか?
「メア! 目的地変更だ! ディレクシアに飛んでくれ!!」
「で、でもリンシャオさんが……!」
「その確認も兼ねてなんだよ! その魔導兵装の中にリンシャオが居るかもしれない!」
「そんな……そんなわけ……」
「だからそれを確認しに行くんだよ!! 急げ!!」
メアは現実を受け入れたくないのか、迷っているようでなかなか踏ん切りがつかないようだ。
こいつはこういう時にメンタルの弱さが浮き彫りになる。
こいつにとってそれだけ重要な問題なのはわかっているが……。
「メア、何が起きてるのか私にはわからないけど……それでも、もし知り合いが悪い事してるなら叱ってやらなきゃダメだよ。もしそうじゃなければそれでいいじゃないか。確かめてから考えればいいさね」
「ママ……」
「だからそんなしょぼくれた顔してないでその目で、きちんと確かめてきな」
おふくろの奴……ほんとに俺の母親じゃなくてメアの母親みたいじゃないか。
別に昔に捨ててきた家族だからメアにくれてやったっていいけどな。
……ちょっともやもやするけど。
「うん……! 分かった。ママ、ありがとう。私、確かめてくる……!」
単純な奴だ。おふくろの言葉で一気に目に輝きが戻った。
「さぁ、いくわよ!」
王都……ディレクシアが落ちる……?
いやいや、流石にあれだけの面子が揃っててそんな馬鹿な事が……。
メアに腕を掴まれ、転移した先で目に飛び込んで来たのは、真っ黒で巨大な魔導兵装と、燃え上がるディレクシアだった。
城は障壁のおかげでまだ無事だが、民家はほとんどぐちゃぐちゃに潰され、あちこちから火の手があがり、とてもじゃないが人が生活していける環境ではなくなってしまっている。
まるであの日のロンシャンのようだ。
この黒い巨人、巨大魔導兵装がディレクシアであの日の再現をしようとしている。
「メア、止めるぞ」
「分ってるわ!!」
メアがかなり強力な雷魔法を魔導兵装へ向けて落とすが、直撃する瞬間、雷が表面を滑るように地面へを駆け抜けていき、四方へと霧散した。
魔法を……受け流している?
おそらく直接的に防ぐのではなく、力の方向を別の場所へ流す事に特化させているんだろう。
まったく厄介な物を!
俺は背後から魔導兵装の頭の辺りに思い切り蹴りを入れた。
一撃で粉砕するつもりで。
しかしそれも、当たる直前に強力な障壁に遮られる。
魔法の時とは違って直接防ぐタイプの障壁だった。
しかも、俺の足が当たる一部だけに展開し、その分厚みを増して防御力を増していた。
……なんなんだこいつは……!
その間にも魔導兵装は破壊の限りを尽くす。
俺達の攻撃は受け流されるか、受け止められるか。
まるで誰も居ないかのように好き勝手暴れている。
「ふざけやがって……!」
「リンシャオさん! リンシャオさんなの!? もしそうなら返事をして!!」
メアの悲痛な叫びが響き渡り、魔導兵装の動きが止まる。
そして、ゆっくりとメアの方へ向き直り、ついにその時が来てしまった。
「今更ノコノコと何をしに来たネ。ディレクシアは見ての通り火の海ヨ」
「……っ!! どう、して……? どうしてリンシャオさんが……」
「甘い甘い。甘すぎて反吐がでるわ。……我が名はロンシャン第二皇女、リン・リンロン!! 我が決意はあの日から何も変わらず。今日、この日をもってディレクシアを滅ぼしてみせる!!」
その声には、怒りと……そして深い悲しみが込められているように聞こえた。
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