魔王の嫁は奇妙な偶然とヤバいアレに驚愕する。


「ナーリア殿、どうかしたのであるか?」


 ライオン丸がちょこちょこ足元を歩き回りながらナーリアを見上げる。

 奴なりの心配の仕方なのかもしれんが、サヴィちゃんはそんなライオン丸に興味津々であった。


『なんですかこの不思議生物。これもバイオエクスペリメントの一種ですか?』


 そのバイオなんとか言うのはあの化け物共の事なのじゃろうが……確かに中には愛らしい外見の物も見受けられたな……。


「あの、その科学者の名前、というのはそちらではよくある名前だったのでしょうか?」


 名前……? ナーリアが気にしているのは名前なのじゃろうか?


 聞き覚えがあったとか? まさかな。既にとうの昔に死んでいるような奴の名前を知っている筈がない。


『いえ、彼の家系だけではないでしょうか? 少し調べます……はい、検索結果によると、他に二世帯程D・イルミラ姓はあったようですが楽園プロジェクト以前に家系が途絶えておりますので彼だけですね』


「ナーリアよ。何か気になる事でもあったのか?」


「……いえ、その……私、ナーリア・ゼハールと言うんですけれど……」


「それは知っておるが?」


「お姉ちゃんは父方の姓を名乗っていまして。その名前というのがエアシュレイア・ディ・イルミラと……」


『なんですって?』


 ……いやいや、それは流石に無いであろう。

 ただの偶然の一致じゃ偶然の……。


 待て、この世界の人間を作ったのが神だとしてじゃ、あ奴等は楽園が隔離されてから現れたという事か? こやつは神など存在しないと言っておったしのう。


 そうなると、万が一、もしかして、極僅かな可能性が発生するではないか。


『確かめましょう。先ほどの部屋に戻って下さい!』


 心なしかサヴィちゃんの声色が高くなっているような気がする。


 儂らは言われるがままにサヴィちゃんの後をついて先ほどの部屋に戻る。


『さぁさぁ、この台の……ここですここ。ここに手を置いて下さい』


 ナーリアは困惑しつつも言われた通りテーブルの上、ボタンの隣にある透明な部分に手を置く。


『ではスキャンしますぅ♪』


 ジジーッという微かな音が鳴り、ナーリアの手の下を赤い光が通り過ぎる。


『これは……ふむふむなるほどなるほどー!』


「ど、どうでしたか?」


『どうもこうもありません。この私、ナビゲートシステムインターフェイスverサルヴィア2ndモデル、通称サヴィちゃん及び私が使える機能、設備等の全ての権限を貴女に委ねます。マスター♪』


「ま、待って下さい! それはつまり……」


『はい。間違いなく貴女様はあの変人……じゃなかった。オーラン・ジェット・D・イルミラの子孫です。どうやら彼は異種交配により子孫を残したようですね』


 異種交配? ……そうか、神が作り出した人間はこいつらからしたら異種族か……。


 しかし本当にナーリアがイルミレイア人の血を引いているとは……。


 そう考えるとナーリアは、イルミレイア人と人間とエルフの血を引いているというこの世界でもかなり稀有な存在と言えよう。


『というわけで、なんなりとお申しつけ下さいませマスター♪』


「えっと……まったく状況を飲み込めていないのですけれど……申し付けてと言われてもどうしたら……」


 ナーリアは助けを求めるかのようにこちらをチラチラ見てくるが、すまぬ。してやれる事は無い。

 ナーリアも当事者として大変じゃろうがこっちはこっちで置いて行かれて訳がわからぬ。


「ナーリアの持っていた弓をエネルギーにして起動しておるのじゃからここはクリスタルツリーを失った分の補填をしてもらうのがよかろう。可能なら、じゃがな」


 何が出来るのかは知らんが、外の世界のデータベースとやらは非常に興味深い。

 ナーリアが管理できるというのであれば願ったりかなったりじゃ。


「えっと……その、でしたら弓に変わる何かを用意出来たりしませんか?」


『かしこまりました♪ しかし楽園内では弓などという古典的な方式の武器をまだ採用しているのですか? 弓ではないのですが投擲系の武器という事でしたらこれはいかがでしょう?』


 ガシュゥゥゥン!!

 煙をあげながら小部屋の壁の一部がべりッとめくれ、そこからよく分からん長細い物が出てきた。


「これは……? 見たところ銃の類のようですが……それにしては火薬や弾丸の装填部が見当たらないですね……」


 確かに銃という武器に近い形はしているが……こんな機械的なフォルムなのじゃから何か別の効果があるのであろうか?


『これもある意味では銃、と言えなくもありません。というかこちらにも銃は存在するのですねビックリです』


 人が武器を作っていく過程で、文化が違うのに同じような物に行きつく物なのであろうか?

 或いは……そのオーランなんとかいう科学者がこちらの人間達の文化レベルに合わせた銃を伝えた、という可能性すらある。


「これはどうやって使うんです?」


『待って下さいね。マスター用にカスタム致します。……はい、登録が完了いたしました! 後は構えて照準を合わせ、引き金を引くだけで……』


 ドギャァァァァァァン!!


「きゃぁぁっ!!」


『あぁっ、何やってるんですかもう! こんな所でぶっ放したら私生き埋めになっちゃいますよ! 生きてませんけど! サヴィジョークです♪』


 ナーリアがソレの引き金を引き、けたたましい音と共に大ホールの方へ凄まじいエネルギーの塊が放たれ、壁面にぽっかりと大穴を開けていた。


「な、なな……なんですかこれ……っ!」


『エレクトロメガ粒子砲です♪』



「……はは、これで外へのショートカットが出来たのう? 帰りが楽になったのじゃ」


「それは魔王の嫁ジョークであるか?」


 儂はライオン丸の頭をぺしっと叩いた。

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