魔王様の妹はオロチ特攻持ち。


「おいメディファス。起きてるか?」


『肯定。我は休息中であろうときちんと状況を把握、認識しておりますので』


「そういう御託は良いんだよ。それより、お前の力であいつの皮膚を切り裂けそうか?」


『否定。先ほどから情報を収集しておりましたがあの強度を切り裂くには純粋な物理では不可能です。……が、方法が無い訳ではありません』


 魔法か……。広範囲魔法などをぶちかます訳にはいかない訳だから、必然的に方法は一つに限られる。


 メディファスに魔法を上乗せした魔法剣。

 ブーストもかけさせれば威力は更に上がるだろう。


『しかしながらそれでも切り裂けるかどうかは微妙です。我の試算ではあの表皮を切り裂ける確率は三割程度かと』


「意味ねぇじゃねぇか三割ってほぼ無理なのと変わんねぇよ! ……まぁゼロよかマシだが……」


『それをどうにか出来るとしたら……やはり彼女なのでは?』


「ふふん、無機物の癖によく分かってる。私に任せとけー」


 そういう頼もしい台詞はもう少し感情を込めて言ってほしいもんだけどな。


『作戦会議は終わったか? そろそろ再開だ』


「安心しろ。びっくりさせてやるさ。……ショコラ、行けるな?」


「おっけおっけ」


 ショコラは礼装の力なのか、ふわりと浮き上がり、ヤマタノオロチの首の周りを物凄い速さで飛び回る。


 勿論相手もただ者ではなく、ショコラの動きを見極めてそれぞれの口から別々のブレスを吐きつつ追いかけていた。


 その一つ一つを俺が個別でぶん殴っていく。


『ぐぬ……ちょこまかと……! 蟻どもが鬱陶しい!!』


 混ざり物、から蟻になったのは昇格か? 降格か?


 それはともかくこの体格差でちょこまか動かれたらあっちはイライラするだろうな。

 それこそ虫が体の周りを飛び回っているようなもんだ。


「お前意外と単細胞」


『なんだと女ぁ……っ!!』


「そうやって熱くなる所がダメ。自分の力を過信するなら最後まで過信した方がいい」


『何を訳の分からぬ事をっ!!』


「はいいっちょあがり」


 ショコラが頭の一つを思い切り蹴飛ばした。

 そして、勢いよく弾かれた頭は、ショコラが全て計算して誘導してきた首の方へ、まるで輪っかに通して結び目を作るように放り込まれた。


「ほれほれかかってこーい」


『小娘がぁっ!! ぐっ、何っ!? うぐぐ……まさか、これを狙って……?』


「首が一杯あって鬱陶しかったらとりあえず縛るでしょ。誰でも思いつくような事だよ? 警戒ゼロとかアホすぎ」


『貴様ぁ!! 許さんぞ……』


 確かに長い首が沢山あったら絡ませるとか縛り上げるなんて誰にでも考え着く事なのかもしれない。

 ただ、それを戦闘中に飛び回りながら実際やってのける事が出来るのは飛びぬけたセンスが必要だろう。


 俺にはこういう細かい作業や頭を使った戦いかたは出来ないからなぁ。

 めりにゃんとかなら得意なのかもしれんが。


「随分動きが遅くなったじゃねえか。お前の敵はあいつだけじゃねえんだぞ?」


 俺はメディファスに雷系の魔法をかけ、電撃による微振動を起こし魔法プラスアルファの切れ味を追加する。


 それをオロチの、絡まっていないフリーの首目掛けてフルスイング。


 ガっぎぃぃぃ……ずぶっ。


「通った!」


『グああっ!!』


「おらメディファス気合入れろっ!」


『了解!! 再ブースト!!』


 そして、俺の手に伝わってきていた重たい感覚が一気に解放される。


 ズバンッ!!


『ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!! お、おのれ……おのれぇぇぇぇっ!!』


「私の事忘れてない?」


 俺を目掛けて他のフリーな首が襲い掛かってきたが、それを背後からショコラが縦に一刀両断した。


 あいつの光る剣はいったいどんな切れ味してやがるんだ?

 メディファスなんかよりよっぽどすげぇじゃねぇか。


『我は……もともと武器ではありませんので……』


 面白いくらい綺麗にすっぱりと二つに分かれていくオロチの頭を見ながら、俺は問いかける。


「なぁ、そろそろいいんじゃないか? 俺達の力は分かっただろう?」


『……許さん! 許さんぞ……!』


 ヤバいな。ちょっと感情を刺激しすぎたかもしれない。このまま殺してしまうのは本意ではないんだが……。


『貴様ぁぁ!! 故その剣を持っている……! いや、それは……なんだ? 我の知っている物では無い』


 ……?

 オロチは物凄い形相でショコラを睨んだが、その剣……光る刀を見て何かと勘違いした……?


『まさか、ふっ、ふはは……なるほど。そういう事か……その女は我にとって天敵のようだ……辞め辞め。もうめんどくさいわ』


「三枚におろして焼き蛇にして食ってやる」


『……おい、この狂った女をどうにかしてくれ』


「ショコラ! その辺にしておけよ」


「はぁい。我慢する」


 オロチにまで狂った女扱いされるショコラすげぇな……。


「しかしどうして急に戦うのやめたんだ? こっちとしては助かるけどよ」


『それについても説明してやる。……が、その前に……』


 オロチの眼がギラリと光る。


 何かする気か……?


 俺は腰を落として身構えた……のだが。


『絡んでるのを早く解いてくれ』


 あ、うん。

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