魔王様と独身王族。


「物は相談なのだが……」


 ぶっ倒れたレオナを見ながらディレクシア王が何かを言おうとしている。

 正直言うと大体想像がついているのだが。


「当面の間彼女を魔物フレンズ王国で預かってもらえないだろうか?」


「……まぁ、それが一番安全かもしれないな。ただ、俺もいつも王国に居る訳じゃないから絶対の保証はしかねるぞ」


「それでも、だ。今のディレクシアに置いておくよりは余程安全だろう」


「でもいいのか? 俺や元から俺の仲間だった奴等はともかく、あの国は魔物の国なんだぞ? 随分信用してくれるじゃないか」


 王は意外そうに目を丸くして笑った。


「ははは。何を今さら。私は安心だと思ったから同盟を結んだのだ。魔物が人を襲わなくなって大分経っているし人々への周知も初めている。今後はもっと魔物と人間との連携をきっちり取って行けるようになるだろう」


「そりゃありがたいがそう簡単にいくもんかね。……勿論それをどうにかする為に俺達もあちこち回って下地を作ってきた訳だけどな」



「実は既に各地にて定期的に説明会を開催しているのだ。そして概ね住民の了承は得られている。それはひとえに君らの活動のたまものだろう」


 人間ってのはそう簡単に今まで敵だった相手を受け入れられるとも思えないんだけどな。

 それが意外とスムーズに行ってるって事は、潜在的にもっと恐ろしい奴等の存在に気付いているからだろう。


 最近は古都の民のせいでバタついていたが、依然として魔族の脅威は去っていないし。


 それを重点的にみんなが説明してくれた結果だろう。ありがたい話だ。


「俺達だけの力じゃない。こんな言い方すると犠牲になった人たちには申し訳ないが、いいタイミングで魔族が出てきた事もプラスに作用したんだろうな」


「それだけ今の時世が協力関係を求めているという事だよ。ロンシャンはあれからまだ音沙汰がないがね。あちらも大変なのだろうから仕方ない」


「そういえばリンシャオさんはどうしてるのかしら?」


 そう言いだしたのはメア。そういえばメアはプリンとしてニポポンからロンシャンに渡ってしばらく生活していたんだったか。


「たまに連絡が来ていたんだがね、ここの所ぱったりと連絡がつかない。あちらで何か問題が起きているとかでなければいいのだが」


 リンシャオっていうのが誰かはよく分からないけれど、メアがプリンとして世話になった人だというのなら悪い人間ではないのだろう。



「心配なら一度様子でも見に行くか? 勿論その場合はメアの転移で行く事になるが」


 今はめりにゃんも居るけれど彼女はロンシャンなんて行った事ないだろうからなぁ。


「それもいいわね。一度ロンシャンへ行ってみようかしら」


「それなら一度王国へ戻ろうぜ。いろいろ準備とかもしたいし、この水晶をアシュリーに調べてもらわないと。お前も今更嫌だなんて言わないだろう?」


「嫌よ。……と言いたい所だけど、まぁいいわ。私の負けよ」


 メアは俺から目を逸らし深くため息をつく。


「なんじゃ知らん間にメアの問題も解決しておるとはさすがセスティじゃのう」


 いろいろあったからなぁ。しかしめりにゃんは何かと俺を持ち上げてくれるいい奥さんだぜ。


「あの、私はどうしたらいいでしょうか……?」


 ヒールニントがおずおずと手を上げて質問してくるが、したいようにしたらいい。


「どうしたい? デュクシを追うにしたって今は何も情報がないだろう? お前もしばらく王国に居るか?」


「……そうですね、じゃあそうさせてもらいます。ロンシャンっていうのがどういう場所なのかちょっと興味はありますが」


「だったらヒールニントも来たらいいわ。何かあっても守ってあげるから安心して」


 そうなるとレオナを魔物の王国に置いてくることになるが、目を覚ましたらまたすぐにぶっ倒れそうだなぁ。

 こいつの事はナーリアあたりに任せる事にしよう。


「じゃあ一度国へ戻るか。ディレクシア王、そっちも何かあったらすぐに連絡をくれ。出来る限りすぐに飛んで来るから」


「ああ、何事も無い事を願うがね」


 そうと決まればすぐに行こう、とまくし立てるメアにヒールニントは「ちょっと待って下さい」と言い、わざわざ前に出て王に丁寧なお辞儀をしてきた。


 こういう至極まともな人間が一人いると安心するような、調子が狂うような不思議な気分だ。


「じゃあ戻るわよ。全く……思ったよりすぐに出戻る事になっちゃったわ……情けないったらありゃしない」


「まぁそう言うな。皆お前が返ってきたら喜ぶさ」


「そういう場所だから出て来たっていうのに……」


 そんな事をぶつぶつ言いながらメアとヒールニントが消えた。


「めりにゃん、俺達も行こうか」


 ぶっ倒れてるレオナを担ぎ上げ、めりにゃんに手を差し出すが、なかなかその手を握り返してくれない。


「どうした?」


「……その女を面倒見るのはいいとしてじゃ、なぜセスティが担いで運ぶ? そして微妙に尻のあたりに手がいっているのが気に入らん」


 ぶーっ! とほっぺたを膨らましてるこの小さな可愛い生き物はなんだろうな。


 俺は空いている方の手でめりにゃんを抱き寄せ、その額に軽くキスをする。


「機嫌を直してくれよ」


「むぅ……ずるい奴め……」


「いや、お前らもはよ帰れ」


 大事な所なのに王様のヤジが飛んでくる。


「独り身だからってカリカリすんなよ」


「なっ……!! おまっ……!!」


 珍しく感情的になった王が視界に入ったので慌ててめりにゃんに転移を発動してもらった。


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