聖女様が肌を晒すのは勇者だけ。


 私達はメアさんに引っ張られて山頂上空へやってきた。

 けど……これって……?


「おいおい……これは、意外とめんどくさいやつかもしれないぞ」


「いいじゃない。相手の規模が大きければ大きいだけぶちのめせる相手が増えるって事よね?」


 いや、それにしたって……。


 今私達が見下ろしているのは山の天辺で、そこは火山のように中心が抉れて穴になっているのだけれど、その穴はどこまでも続いているように見える。


 山の天辺から、山を完全に貫くように縦穴が空いていた 。


 これだけの規模の隠れ家を整備できるような人達っていったい……?


「あの、王国の人達に救援をお願いした方がいいんじゃ……」


「いや、俺とメアが居れば十分だ。むしろ万が一の事があった時に俺達だけの方が思う存分やれるからな」


「そうね。もし本気を出さなきゃいけないような事になったら……ヒールニントはどうなるか知らないけれど」


「ちょっ、え? 私お留守番でもいいんですけど!」


「何ふざけた事言ってんのよ。そもそもヒールニントがあの女を助けた事が原因でこんな事が起きてるんだから責任取りなさい」


 ここで正論!? メアさんに正論を言われた!


「うぅ……私の事ちゃんと守って下さいよ……?」


「任せておきなさいって。もし本当にヤバかったらどこかに送ってあげるわ」


 どこかに送るっていうのは……転移で? それとも私だけを転送?

 いきなりどこかの空高くに転送されたりしたら間違いなく死んじゃうから出来ればそんな事になってほしくないけど……。


「とりあえずいきなり乱戦はまずい。レオナの安全を確保しなきゃならないから、まずは潜入だ」


「潜入って言ったってどうするのよ。私達がここから入っていったらすぐに気付かれるわよ?」


「……一応考えがある」


 セスティ様のアイディアというのは、ここから魔法でこの下の様子を映し出す。

 そこに人が居るようならその人達の姿を模して一時的に変装した上で、ここからギリギリの場所、地面が見えるくらいのところまでゆっくり降りてから地表まで転移。


 転移するのは出入りの管理をしている見張りが居るかもしれないから、変装をするのは見つかった時に人々に紛れる為、そしてそもそも気付かれないようにするため。


 言ってる事は分かるけどこの下の様子がどうなってるか分からないのに……。

 万が一特殊な辺境部族でみんな裸だったりしたらその通りに変装していくの?


 私は絶対に嫌。

 メアさんだけならいいけど、セスティ様はこんな外見でも中身は男なんだから。

 たまに女の子になっちゃうけど。


 私がこの身体を誰かに晒す事があるとしたらそれはハーミット様だけなんだから。


 ……ハッ、私はなんて破廉恥な事を考えてるの!?


「ちょっと、どうしたの? 顔赤いわよ?」


「な、ななんでもないですぅ……」


「とにかく下の様子を見てみようぜ。メア頼むよ」


 セスティ様は、自分がやると細かい座標を探るのが難しいからという理由でメアさんにお願いした。


 どうやらセスティ様は細かい制御が必要な類の魔法は苦手らしい。


「しかたないわね……ほら、これでいいかしら? ……ってこれは……」


 驚いたのは私だけではないだろう。

 メアさんも、セスティ様も吃驚している。


「これは……街なのか? 見た事も無い建物ばかりだが……」


 どう表現したらいいんだろう。

 この山の中はくり抜かれていて、いや……多分山の地下に空洞があるのかもしれない。その中にかなり広い街が広がっている。


 これを街、と呼んでいいのかどうかは分からないけれど。


「……道まで整備されてるわね。建物もなんだかツルツルでピカピカだわ」


「おい、人が住んでるみたいだぞ。こんな街並みにあまり似合わない奴等だな……」


 そこに住んでる人達は、民族風のゆったりした衣装を着ていた。


「……どっかで見た事があるな」


「何よ貴女の知り合い? 変な奴等が周りに集まるのもある意味才能よね」


「ちっげーよ。知り合いじゃなくて……そうだ。ここは……まさか、古都の民の……?」


「古都の民って何よ」


 古都の民……? いにしえの都?

 もしかしてそれって……。


「神の使いが住まう都……ですか?」


「ヒールニントも知ってるの?」


 メアさんは何も知らないみたい。

 勿論私だって詳しくは知らない。神話の中に神の使いが住まう都があった。

 だから、私にはそれしか心当たりが無かっただけど、古都の民、という言葉を聞いてまっさきに思い出したのがそれだった。


「大体合ってるぞ。あいつらとはもう何度かやりあってるんんだが、この大地を取り戻すとかなんとか言ってやがったな……」


「あの人達は本当に神の使いなんですか?」


「分からん。だけど、もし違うとしたらただのヤバい宗教信者で危険思想の持主だからどうにかしなきゃならん。逆に本物の神の使いだとしたらアルプトラウムが絡んでやがるからどっちみち潰さなきゃならん。やる事はかわらねぇよ」


 思ったより大変な事になってきた……。

 あれ、ちょっと待ってよ。


「だったら、その人達とレオナさんにどんな関係があるんでしょうか……?」


 私の言葉にセスティ様は可愛らしく小首をかしげた。

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