第三章:神と勇者と滅びの国。
聖女様は嘆いてる場合じゃない。
私の勇者様は、あの日以来どこかへ消えてしまった。
彼が……ハーミット様が何を考え、何に苦しんでいるのか……私は理解してあげる事が出来なかった。
悔しい。
そしてそれ以上に、悲しい。情けない。
私は彼に何もしてあげられなかった。
ロンザやコーべニアは、自分たちが弱いからハーミット様に捨てられたんだと嘆き、そして今は躍起になって強くなろうと日々訓練に勤しんでいる。
私は二人が少し羨ましい。
それが正しいかどうかはともかく、自分が何をすべきかを見つけて頑張ってる。
だけど私は……。
分からないの。
どうして彼が私の元からいなくなってしまったのか。
ロンザ達が言う様に、力不足だったから……?
確かに私達は彼の仲間として釣り合うだけの力は無かったんだと思う。
だけど、それでも……ハーミット様が何も言わずに突然姿を消すとはとても思えない。
私だけ、何をしていいか分からないままだった。
ロンザやコーべニアも本当は分かってるのかもしれない。
ハーミット様がそんな理由で私達を捨てるなんてありえない。
だけど、その疑問に答えなんて出ないから出来る事をやってるだけなのかも。
そうやって、いつか彼の役に立てるように頑張る事で今のこの悲しみを振り払おうとしてるのかもしれない。
私はどうしたいんだろう?
二人のように訓練にでも打ち込んでいざという時に備える?
だけどそんな日が来るなんて保証はどこにもない。
私は、そんな有るか無いか分からない時を待ち続ける事なんて出来ない。
今すぐにでも彼を抱きしめたい。
出来る事なら抱きしめてほしい。
そして、何よりも……。
会いたい。
会って話がしたい。
欲を言えばどうして私達を置いて行ったのかを聞きたい。
きっと彼は教えてくれないだろう。
会えたとしてもきっと、再び私達の元を去ってしまうだろう。
彼が何も言わずに消えたという事は、そう簡単に元通りになんて戻る事は出来ないという事だ。
分ってる。
分かった上で、もう一度会って私の気持ちを伝えたい。
何も言わないまま忘れるなんて出来る筈がないじゃないか。
私は、何のために存在しているんだろうって沢山考えた。
彼が居なくなってから、今日まで……毎日毎日そればかり考えていた。
今まで私の存在意義は、人々の役に立つ事だった。
どんなに酷い目にあっても、どんなに人に裏切られても……人々の為に、私の力を役に立てる。
それだけが生きる意味で、母の教えだった。
お母さんはこう言ってたよね。
「貴女の力は特別な物なの。だから、その力は大切な人達の為に役に立てるのよ」
……私はそれを、ずっとこの世界の人々の為にっていう意味だと思ってきたし、きっと母もそういう意味で言っていたんだと思う。
だけど、今の私にとって大切な人は、ハーミット様の事だ。
それに、こうも言っていた。
「貴女がいつか人生の岐路に立って、大きな選択を迫られる時がきたら……迷わず自分の生きたいように生きなさい」
今までは母の教えを貫く事だけが私の希望だったから、生き方を変える気になんて全くなれなかったけれど、今の私はもう……。
私は私の気持ちに従って、ハーミット様を探し出して見せる。
そして、出来る限りめんどくさい女になってやろう。
もし彼が私と一緒に居る事を望まなかったとしたら、出来る限り惨めに泣きわめいて迷惑をかけてやるんだから。
そして、ほんの少しでいいから。
私の事を覚えていてほしい。
めんどくさい困った女が居たなって、強く記憶に残るくらい。
私はそうする為に、ここを発つ。
ここから先は私の我がままだし、ロンザとコーべニアを付き合わせる訳にはいかない。
彼等だってハーミット様に会いたいのは分かってるけど、だったらそれは二人が頑張って探して。
私は彼の役に立ちたい訳じゃない。
むしろ迷惑をかけてやりたいの。
女の子をその気にさせて、ここまで惚れさせておいて何も言わずに消えてしまうなんて酷いじゃないか。
絶対に追い詰めて泣きわめいて困らせてやる。
もしかしたら、彼と一緒に居られる可能性が一パーセントくらい残っていて、私の行動でそれがゼロになってしまうかもしれない。
だとしても私は私のこの思いを投げつけてやらないと、もう生きている意味がない。
私はハーミット様に会う為に生きる。
それまで何があっても死なない。死ねない。
私は、私の我がままを叶えるために今までの私を捨てる。
どこまでも追いかけてやるんだからね。
たとえそれが地獄の果てだったとしても、必ず見つけてみせる。
だからロンザ、コーべニア……ごめんなさい。
今まで本当にありがとう。
私が見事に玉砕したら、笑ってくれると嬉しいな。
ハーミット様、待っててください。
必ず見つけ出して私の気持ちを伝えます。
私は、貴方を……。
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