姫魔王のお墨付き。
って、イムライの家どこだっけーっ!?
私結構方向音痴なのかな?
いや、一度しかいった事無い場所だし、あそこを出発してからあちこち回ってたし?
その後魔族退治で走り回ってたんだからどっちの方角にあるかなんてわかんなくなってて当然だよね!
『……』
なんか言えやこら。
『わーい、やったー』
ぶち割るぞこの駄剣が!
『ひ、酷い。そもそも我は今ではこんな姿をしておりますが厳密には剣では……』
うるさいうるさい!
あーもうイムライの家がわかんないよーっ!!
『それでしたら我が案内しましょうか?』
えっ、分かるの?
『肯定』
……だったらなんで今まで私が迷ってるのただ見てたの……?
『わ、わーいやったー』
ぶち割るか。
『申し訳ありません。その際思考スキャンを止めておりましたのでどこを目指しているのか分からなかったのです』
あーもう使えないの極み!
どうでもいい時に思考読んでるくせに大事な時には知りませんでした。だもんね。
『不条理』
いいから早く案内して!
これでもしもの事があったらメディファスのせいだからねっ!?
私はメディファスの案内でイムライの家の方角へひた走る。
と言っても、途中でまだ魔族がいたからそいつぶっ殺したりして余計な時間をくっちゃったけど……。
そして、やっとイムライの家の前まで辿り着いたんだけど……。
「やっべ……完全に手遅れじゃんこれ……」
『わ、我のせいでは……』
責任の所在を考えてる場合じゃない。
私の目の前に広がっているのはただの瓦礫の山。
イムライの家があった場所は見事にぐちゃぐちゃに崩れていた。
「どうしようどうしようどうしよーっ!?」
『主、落ち着いて下さい。まだ死んだと決まった訳では……』
そうだった! とにかく、この中に埋もれてる可能性だってあるんだからなんとかしないと!
瓦礫をがちゃがちゃと押しのけて、中を探ってみるけど人の気配はなさそう……。
だとしたら、既に避難済み……?
「あぁ、あの人を、あの人を助けて下さいっ!!」
瓦礫をほりほりしている私の所へ、綺麗な女性が駆け寄ってきた。
えっと、確か……。
「イルナさん……だったよね? イムライとリーシャは!?」
奥さんが無事って事はやっぱり既に避難してるんだ。
「お願いします! 何でもしますからあの人を……」
「ちょっと、落ち着いて! ここで何があったの!?」
私の身体に縋りついてボロボロと涙を流すイルナさんの肩を掴み、落ち着いて。と繰り返す。
「あ……すいません。私は……ちょうど買い出しに出ていたんです。リーシャと一緒に……」
「だったらリーシャも無事なの?」
「それが……変な化け物たちが街に現れて……リーシャはその時店の外にいて……」
どうやら混乱の最中別の場所に居たため、リーシャに向かって家へ帰るように叫んだらしい。
リーシャは躊躇いながらも家の方角へ走っていくのを見たとイルナさんは語る。
イルナさん自体はどうやらめりにゃんあたりに助けられたようだ。
そして自らも家へ向かう最中、イムライに会えたので、リーシャの事を伝えると、彼もまた慌てて家へと向かった。
そしてイルナさんが遅れて家に到着すると、既に家は崩れていて、イムライは化け物と戦っていた。
イムライに言われて物陰に隠れていたが、急に静かになったので恐る恐る覗き込むと、もうそこには化け物もイムライもいなかった……。
転移に巻き込まれたのかな?
それか、どこかへ逃げたのを追いかけて行った……?
どちらにせよ早く見つけないと大変な事になる。
申し訳ないけどイムライがどれだけ強くたってごく一般の戦士に毛が生えた程度だと思うし。
魔族なんかと一対一で戦ったら遅かれ早かれ死んじゃうよ。
「姫っ! こ、これは……いったい何が!? リーシャは無事なのですか!?」
「リーシャ……? また新たなライバルが……?」
リーシャが心配でここを見に来たナーリアと、隣で物騒な事を呟く少女ステラがとてもタイミングよく現れてくれた。
「ステラ! 貴女が持っていったアーティファクトを返して! すぐに必要なの!」
「えっ、あ……はい」
私の剣幕に押されたのか、割とすぐに返してくれた。
そして私はそれを使い、イムライとリーシャの居場所を調べる。
「……よし、ナーリア! イルナさんをよろしく頼む! 私はイムライ達を連れ戻してくるわ!」
返事も待たずに反応のある場所へ転移。
その先がこの街の地下水路内だったため、転移誤差がめちゃくちゃ心配だったけどそんな事言ってられない。
リーシャとイムライは同じ場所に居る。
二人でこんな所に居るって事はかなりまずい状況かもしれない。
転移は成功とはいえなかったけれど失敗はしてない。
なんとか壁に埋まるような事は無かったけど危うく水路内にぼっちゃん! ってなるところだった。
反応を頼りに水路脇の道を進むと、そこには血だらけで蹲るイムライの姿が……。
カマキリのような姿の魔族が今にもイムライに鋭い鎌を振り下ろそうとしていた。
「イムライっ!!」
メディファスをぶん投げ、魔族の胸元に突き刺さるのを確認したのちそのまま剣を押し込むように飛び蹴り。
すでに虫の息という程弱っていたのでそのまま魔族は動かなくなった。
「あ……あぁ、誰か分からない……が……すまない、けど、この子……を」
彼はリーシャをすべてから守るように、自分を壁にするように、抱き抱えていた。
「パパ……! パパしっかりして……!」
「リーシャ、無事で……よかっ……」
「パパーっ!!」
こいつ……たった一人で魔族と戦っていたのか。普通の人間が誰かを守りながら戦うには相手が悪い。
こんなに傷だらけになっても、娘を守るために必死に戦い、もう少しという所まで追い詰めて力尽きてしまったんだろう……。
彼はリーシャを庇って身体中傷だらけで、とめどなく血が溢れ、身体のまわりに水たまりを作っていく。
意識を失った彼に急いで回復魔法をかけると、傷はきちんと塞がっていくようなので、なんとか息はあったようだ。
そのやたら大きくなった背中に、不思議な安心感さえ感じる。
血塗れで、瀕死の重傷の癖に。
「……俺はさ、お前みたいな奴が本当の意味で勇者なんだと思うぜ」
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