魔王様とヤバい蟲。
「そ、その得体のしれない物体は何なのであるか……?」
「……蟲だよ」
私はライゴスさんの疑問に対しそう返したものの、何故自分がこんな物を知っているのかが分からない。
でも記憶のどこかにはある気がするんだよね。
「これはな、アーナっていう蟲で、主に動物に寄生してその内臓を食い荒らすタイプの寄生虫だ」
アシュリーが詳しく解説してくれたので私にとっても勉強になる。
「な、何故そのような蟲がリナリーの身体の中にいたのであるか……?」
「可能性としての話ならいろいろあるぞ。これは主に動物に寄生すると言っただろ? 例えば動物の肉を食べる時、加熱処理が甘ければこいつが生き残って体内に入る可能性もある。運が悪ければ川の水を飲んだだけでこの蟲の幼体を体内に取り込む可能性だってある」
「そんな恐ろしい物がこの辺に蔓延ってるって事?」
それはちょっと問題があるんじゃないか? 森の生態系大丈夫なのかな?
人間はあまり住んでないみたいだからそこまで被害はないとは思うけれど。
「いや、普通この手の寄生虫は一生宿主から出る事も無いからな。動物達からしたら寿命が少し短くなる程度だろうぜ。人間に寄生した場合も同じく一度寄生されたら死ぬまで一緒だ。その毒素の影響でじわじわ殺されていく。リナリーの場合は幼いから毒素の影響をモロに受けてあと数年、というところまで命を削られたんだろう……しかし……」
「……何という事だ。重ね重ねお二人には感謝するのである」
いや、こっちとしても女の子の命が助かったならそれがいい結末だし、あの笑顔見せられたらそれで充分な報酬だよね。
「しかしそう事は単純でもないぞ」
アシュリーの一言は、なんだか苦虫でも噛み潰してうっかり飲み込んじゃったみたいな声だった。
「どういう事である?」
「こいつ、私が知ってるのは種類が違う。というよりこんなえげつないのは見た事が無い」
アシュリーはその蟲についての私見を私達にも説明してくれたのだが……。
どうやらアーナという寄生虫と同じタイプではあるのだが、サイズ、毒素共に普通では考えられないレベルなのだそうだ。
私が視たリナリーの身体はもうボロボロだった。それの原因がこの蟲である事は間違いないし、普通にアーナだったらここまで宿主に被害を出すような事は無い。アシュリーはそう語る。
「それもそうだろう? 自分が寄生してる宿主がさっさと死んだら困るのは誰だ? てめぇ自身だろう。やっぱり何かがおかしいぜこいつは」
「そういう事であればこの近くに我の知り合いが住んでいるので話を聞いてみてはどうであろう? 何かを知ってる可能性は低いと思うが……」
「ライゴスの知り合い……? そいつ魔物か?」
「である。ライノラスという魔物であるが、この付近で畑を耕し隠居しているのである」
「あーライノさんね! 久しぶりだし私も会いたいな!」
そうと決まれば話は早い。
私達はライゴスさんにある程度の場所を聞いて、飛行魔法でふわーっと向かった。
目的地の場所が曖昧だと転移しても自分の居場所がよく分からなくなってしまうので直接行った方が確実だというアシュリーの知恵袋だった。
転移を繰り返せば場所も絞り込めるだろうけど、無駄な魔力を使いたくなかったらしい。
だったらまとめて私が転移させてあげてもよっかったんだけど、ここは素直に従う事にした。
アシュリーの言う事に口答えするのは得策ではないと私の中の本能が告げている。
やがて開けた場所に出た。
そこは以前にも見た事がある光景だったけれど、前に来た時よりも敷地が広がっていて、畑で育つ野菜たちも種類が増えているように見える。
その畑の隅の方で、麦わら帽子を被ってクワを振っている巨体が目に入った。
「おーいライノさーん!」
私は手を振ってライノさんを呼んでみるが、本人はこちらに気付いて一瞬固まったものの元の作業に戻ってしまう。
「あいつがお前らの言うライノラスって奴なのか? 随分平和ボケした魔物も居るもんだな……」
「そう? 今の魔物フレンズ王国にはああいう人いっぱいいるよ?」
「マジかよ……魔物の国どうなってやがる……」
「我も魔物の国には興味あるのでこの一件が落ち着いたら行ってもいいであろうか?」
「勿論♪ しっかり案内するから任せといて☆ ……とりあえずライノさんのとこまで行ってみようよ」
私達はそんなやり取りをしながら、畑の上をふわーっと浮遊してライノさんの元へ。
「ちょっとライノさん? なんで無視するのー?」
ライノさんは今度こそ作業を中断し、こちらに向き直る。
「いや、俺今作業中だし……てかライゴスもいるじゃねぇか。その様子だと無事に王国にはたどり着いたみたいだな」
「いや、実は訳あってまだ王国へは行っておらぬ」
「なんだ? どういう事だよ……ちっ、あともうちょいだから終わらせたかったんだが……まぁいいや。お前らちょっとこっちこい。お茶くらい出してやるぜ」
ライノさんはそう言うと肩からかけたタオルで顔を拭き、クワを担いで近くの小屋の方へ向かう。
「ほら、何してんだ。茶でも飲みながら詳しい話聞かせろ」
「……私は今世界が滅茶苦茶平和になったんじゃないかと錯覚しちまったよ」
呆れたような声でアシュリーが言った。
そうするのが目的なのさね。
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