魔王様と謎の姫君。


 私達は見事に負けてしまった。私とヒルダさん、そしてアシュリーの三人がかりの結界すらあいつには通用しなくて……。


 気が付けば逆に結界に閉じ込められていた。

 三人で作ったのとまったく同じ結界の中に。


 ほどなくして地下の遺跡の中に残してきたシリルも放り込まれてきて、私達は打つ手が無くなってしまった。


 幸いにも結界内は結構な広さがあり、窮屈で辛いなんて事はなかったけれど……。


 それにしたってここにこの人数は密度高め。


「さて……どうしたもんかのう? 一応儂の方でこの結界自体を無効化できるか試してみたんじゃが、少し時間がかかりそうじゃ」


「そういえばヒルダさん、本来の姿に戻る事が出来たのですね。以前の姿とは見違えるような……いや、そこまで変わらないでしょうか」


 アレクが眼鏡をクイっとやりながら俯いてしまい、その態度にヒルダさんが「なんじゃとー!?」と腕を振り回し猛抗議。


「まったく貴様という人間は愛しのヒルダちゃんになんと無礼な発言……ヒルダちゃんはこれが完成形なのだ。この完璧なバランスがわからんのか」


「である」


「せいちゃんとらいおん丸ちょっと黙るのじゃ」


 聖竜さんとライゴスさんまで論争に加わり、なんだか微笑ましい雰囲気なんだけど、ちょっと待ってよ。

 確かに身長はさほど伸びてないけど、羽根や角は立派な物になったし、何よりその……胸部がね。

 随分成長したなぁ……。


「お主もいったいどこ見とるんじゃ!」


 気付かれた!


「ごめんごめん。なんだか局所的にかなり大きくなってるなって思って」


「お主……そういうところはセスティに似ておるのう……あやつを取り込んだのが原因でおかしくなっておらんか?」


 なんだかヒルダさんの目がふっと寂しそうな、それでいて優しい物になる。そのセスティさんって人と彼女はどういう関係だったんだろう。


 どちらにしても大切な存在だった事は間違いなさそうだ。


「畜生。あの野郎絶対許さねぇ……ナーリアが無事だったからいいようなものの……」


 そう、ここに放り込まれてすぐナーリアちゃんは意識を取り戻した。

 傷も回復魔法がきっちり効いているようで何事もないくらいピンピンしている。


「しかしすいませんでした。私がちゃんとメリーを守れれば……」


「馬鹿言うな。私達全員で勝てないような相手にナーリアだけでどうにか出来た訳ないだろう。生きてただけ感謝しとけ」


「お姉ちゃん……」


 かくも素晴らしきかな姉妹愛。というやつである。


 しかしアシュリーはメリーの事が心配で仕方ないみたい。

 結構冷たくあしらってた雰囲気あったけれど、なんだかんだで優しいところあるじゃん。



「あいつ……何してるの? まだ外にいるんでしょ?」


 ショコラが不思議そうに結界に耳を当て外の様子を伺う。


「ご褒美を用意するとかなんとか言ってましたわお姉様」


 この結界の中から外の様子は見えない。

 が、声や物音はちゃんと聞こえる。まだあの神様は外に居るらしい。

 私達にご褒美を、と言ってたけれどどうする

 つもりなのか……。


 もしかしたらこのまま閉じ込めてどっかいっちゃうかと思ったけど、そういう訳じゃないらしい。


「ここ、どこよ?」


 ふと、外から女の人の声がした。


 その声に、結界内の数人が過剰すぎるほどの反応を示す。


 具体的に言うと、ヒルダさん、ショコラ、アシュリー、ライゴスさん。

 そして一番取り乱したのがナーリアちゃん。


 そして一斉に私の方を見る。とても不思議そうな顔で。


 いったいなんだって言うのよ。

 外に居るの誰?



『やぁ久しぶりだね』


 神様とその女性が話し出した。


「姫!! 姫!! 私ですナーリアです!! ここに居ます! 姫!!」


 ナーリアちゃんが結界の内壁を突然ドカドカと叩き始めた。

 あまりに突然の事ですっごく驚いたし、何よりその必死の形相は私が見た事のない顔。

 しかしこちらからの音や声は向こう側には届かないらしい。ナーリアちゃんの声に反応する者は居なかった。


「今の姫の声ですよね!? 皆も聞いたでしょう!?」


「……確かに、そう聞こえたが……」


「しかしセスティは魔王の体内にいるはずじゃろう?」


 興奮するナーリアちゃんとは対照的に、アシュリーとヒルダさんはどちらかというと困惑している感じだ。


 チラチラと私の方を見てくる。

 私だってわからないよ。この体の中に取り込んだって言われていたその姫って人がなんで今外にいるの? 私の中には居ないの?


「……あれはおにいちゃんの声だった。間違いないよ」


「ほら! ショコラもそう言っています! お姉ちゃん! 早くこの結界を壊して下さい! 魔法でもなんでもいいから!」


「馬鹿野郎。この狭い空間で魔法なんか使ってみろ。それで本当に壊せればいいが、跳ね返されたら全滅だってあり得るぞ。焦るのは分かるが状況を考えられない状態の脳みそならうるさいだけだから少し黙ってろ」


「しかし……っ!! 姫っ、姫が……すぐそこに居るのに……!」


 今ヒルダさんが必死に結界を無効化しようと頑張ってくれている。

 今はそれを待つしかないと思うんだけど……。なんだこの違和感。


 私は、どうにもこの状況に不思議な違和感を感じていた。


 そして、気付いた。


 ショコラが手持ちの至宝を眺めて顔をしかめているのを。

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