大賢者は絶望してみる。


「アシュリー様。これで一通り城の内部は調べ終えましたわ」


 ……シリルの報告を受けるまでもなく、これで全部の部屋を調べた。


 何も無い。


 私の見込み違いか?


 いや、そんな筈はない。

 そういえばメリーならアーティファクト反応の感知も出来たか……。


 別れたのは完全に失敗だな。

 とりあえず皆もそれぞれ調べ終わった頃だろう。合流してアーティファクトの反応を調べてみるか。


 城内に関しては全ての部屋、王室、玉座、そして地下牢に至るまで調べ尽くした。


 それで何も無いのだからそんな分かりやすい場所には無いという事だろう。


 城内探索であった収穫はただ一枚のポートレート。


 全体的に可愛らしい装飾品で囲まれた部屋……かなり荒れてしまっているが、おそらくはロザリアの部屋だったのだろうその場所で、王、そして王妃、ロザリアと思われる少女、そしてもう一人、ロザリアによく似ているが彼女よりももう少し背の高い女性。それらが描かれた絵画が見つかった。


 ボロボロだったが、描かれている人物達の顔はきちんと把握できるレベルの損傷だった。


 そこに描かれていた少女はやはり、どうみても姫だ。

 それをロザリアだとするならば、彼女には両親と、もう一人家族が居る事になる。


 ロザリアよりも少し大人びたその女性は、そう。どちらかといえばメアに近い。


 まさかとは思うがメアの正体はロザリアの姉なのだろうか?


 これは考えていても答えはでないので一応持っていって、メアに見せてみるか……。


 しかし、それは危険性も伴う。

 彼女がもしその絵画を見る事で記憶を想起させ、過去に起きた出来事や自分の悪行を思い出すだけならばまだいい。

 完全に記憶を取り戻し、魔王としてのメアが復活してしまうようであれば全てが台無しだ。


 私としてはどうせ殺すのなら記憶を取り戻させて悪人になってからの方が気分がいいが、今そうなってしまうと姫を救い出す事も、ライゴスの言う少女を助ける事も難しくなってしまうだろう。


 私はこっそりとその絵画を持って一瞬だけ自分の家に戻り、部屋に置いてから再びシリル、ライゴスと合流した。


「お前ら、あの部屋にあった絵画の事はまだ誰にも言うな」


「何か問題があるんですの?」


 事情をしらないシリルは当然疑問に思うだろうが、いちいち説明するのも面倒だ。


「とにかく、だ。アレはいろいろ現状を悪化させる可能性がある。然るべき時がくれば私が皆に知らせるさ」


「……? 分かりましたわ」


「それが賢明であろうな。万が一があると全てが逆効果になってしまいかねないのである」


 ライゴスはちゃんと理解しているようだ。

 こんなライオンぬいぐるみでもきちんと考える頭があるらしい。


「そういう訳だから、頼んだぞ。とりあえずこの城には何もない……外の連中と合流しようか」


 私達が城を出ようと入り口近くのホールまで降りた時だった。


「あ、マスターだぁ♪」


 なんだろう。アーティファクトの所在を調べる為にこいつが必要だったはずなのにその声を聞いた瞬間とてもげんなりした。


 まぁ、今は無事だった事をショコラとアレクとかいう奴に感謝しよう。ついでにナーリアにもな。


「アシュリー殿。城の裏手側……というより両側後方と言うべきでしょうか。そちらに魔物の残党が大量に確認できました」


 なんだと? どこかに隠れていたという事か……?


 アレクが一通り説明してくれたのを聞く限りでは、城の裏はすぐ山へ続いており、その両側に民家が広がっていたらしい。

 城下町よりもすこしばかり上等な身分の奴らが主に住んでいたのだろう。


 そいつらが民家の中にまだ大量に潜んでいたらしいが、ナーリア、ショコラ、アレクがほぼ討伐したそうだ。


 彼の見解としては私と同じく、この国の魔物達は元人間であろうとの事。


 そう考えればやはりこの国の惨状にはメアが関わっている可能性が高くなってきた。


 あの絵画を自宅に置いてきて正解だったかもしれない。


「ショコラさんが持っている短剣に、元々人間だった頃の姿が映っていましたので間違いないでしょう」


 ……? 何を言ってるんだこいつ。


「待て、短剣? 何の話だ」


「……これ」


 突然私の耳元にショコラの声。


「うわぁぁぁぁっ!! お、お前は急に私の後ろに立つな!」


 我ながらトラウマになっているらしく大げさなリアクションをしてしまった。


 それを見てニヤニヤしているナーリアもむかつく!


 ……それはとにかく、だ。


「ちょっと見せてもらっていいか?」


 ショコラは「あいよ」と言って私に短剣を渡してきた。

 綺麗な装飾が施されてはいるがなんの変哲もない短剣……。


 しかし、その刀身にはショコラの姿が映っていた。


「……なんだこれ」


「それには普段私が映ってる」


 全く理解できん。


 詳しく話を聞こうとしたのだがそれをシリルが代わりに説明してくれた。


「それならば私が代わりに説明致しましょう」



 その説明を聞いて私はぶっ飛んだ。


 そんなのほとんどアーティファクト級の代物じゃないか!

 しかもショコラはそれとは違うもう一つの至宝とやらも持っているらしい。

 どんな効果の物かは分からないが、私の天敵がアーティファクト級の代物を二つも所持しているという恐怖。


 自分でも気付かないうちに、私の身体は小刻みに震えていた。

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