ぼっち姫、はじめてのおしごと。
「よっしついたよ♪ 今日からここがプリンの家だっ!」
あんまり綺麗とは言えないけどそれなりに大きな木造建築。
屋根にはうねうねした石みたいなのが一杯のってて、それが屋根になってるみたい。
二階のベランダみたいな所には手すりにでかでかと【万事屋】と書かれた看板がかかっていた。
「おっ、今日は可愛いお嬢ちゃん連れてるね! 新しい依頼主かい?」
「ちっげーよ。新しいメンバーだ。よろしくな!」
通り過ぎていった頭の薄いおじさんがすれ違いざまにサクラコさんとそんな会話を交わしてどっかいった。
「さっきの人は?」
「ん? あぁ、この辺に住んでるハゲだよ。すぐにセクハラしてくるから気をつけな」
セクハラハゲ親父。
その言葉と奴の顔を心に刻んだ。
スケベ野郎は死すべし。
「おーっす帰ったぞー。今日は新入り連れてきたから皆集まれー」
サクラコさんが万事屋の引き戸を開けて中に入ると、あちこちから「お帰りなさいご主人様♪」と場違いな声が聞こえてくる。
「あの……この人達は?」
「勿論うちのメンバーさ。生憎と戦闘可能なメンバーは先日退職しちまったから私とプリンだけだけどな」
おいおい大丈夫かここ……。
パタパタと集まってきたのは全部で四人。
全員ヒラヒラの可愛らしいメイド服を着ている。
「……メイドにしか見えないんだけど」
「何を言ってるんだメイドに決まってるだろう?」
……大丈夫かここ。
「まぁ心配はいらない。少なくともこれだけの面子を養っていくだけの稼ぎと財産があたしにはあるってことさね」
それに関しては確かに本当なのだろう。
建物自体は古めかしいのに内装や装飾品なんかはやたらと高価そうなものが揃っている。
「残ってるのがメイドさんだけだからみんな女子って事でいいのかな?」
「いいや、あたしは女の子しか雇わない。男が嫌いだからな」
そうですか。
そう言えば男嫌いの女好きって言ってた気がする。
「ご主人様、一人ご依頼の方が奥でお待ちですよ♪」
「おお、そうかありがとう。勿論きちんと対応してくれているね?」
「はい。身なりのよさそうな方でしたので出来る限り高級なお茶を出しておきました」
「よしよしいい子だ。これはご褒美だよ」
そう言ってサクラコさんはメイドの一人をぎゅっと抱きしめて首元にキスをした。
「……はぅ……」
メイドはその場で崩れ落ち顔を真っ赤にして俯いた。
そのメイドを他のメイドが取り囲んで「いいなーいいなー」とか言ってる。
大丈夫なのかここ。
私はとんでもない所に来てしまったのではないだろうか。
「さぁ、ちょうどいいからプリンも一緒に来てくれ」
そう言ってサクラコさんはメイド達一人一人の頭を撫でてから奥の部屋へ向かう。
どうやら一階の正面一番奥にある部屋が応接室になっているらしい。
「やあ遅れてすまなかったね。要件は依頼という事でよかったかな?」
部屋に入るなりそう言いながら自分用の机に座る。
椅子じゃなくて机の上に座って足を組んでる。
行儀が悪いなぁ。
それに彼女が来ているのは着物というらしく、しかもかなりアレンジを加えて足の部分には大きなスリットが入っている。
部屋のソファには依頼人が据わっていて、その女の人はサクラコさんの言動にちょっと引いているみたいだった。
「あ、あの……なんでもしてくれると聞いてきたんですが……」
かなり怯えているようなその女性は見た感じ二十代前半くらいだろうか。
髪の毛は肩に付かない程度のボブで明るめの茶色。
「ああ勿論依頼とあればなんでもするさ。ドブ漁りから魔物退治、夜のお供までね。夜の方は女性限定だから君はその点問題無いよ」
こいつ何言ってんだ。そろそろここの運営が大丈夫なのか真剣に心配になってきたぞ。
「えっと、実は調査をお願いしたいんです」
「調査? どこかへ忍び込めとかそういう話かな? とりあえず詳しく聞こうじゃないか」
サクラコさんは机から降りて、依頼主の対面にあるソファに深く腰掛けた。
入り口で突っ立ったままだった私も彼女に呼ばれて隣に座る。
依頼人の話はこうだ。
彼女はこの町から少し離れた場所にある村で生活しているらしいのだが、ここ最近急に魔物が出るようになった。
魔物は村を襲ってくるわけではないが、あまりに周囲で魔物の目撃例があるので村民が不安を感じている。
魔物達はなぜ急に現れたのか、何が原因なのか、そして可能ならば殲滅してほしい。
それが依頼の内容だった。
「ふむ。依頼内容は分かった。別にそれを受ける事も解決する事も問題はないよ」
「それじゃあ!」
依頼主は顔を明るくさせて笑うが、サクラコさんの表情は厳しい。
「しかしだ、君がその依頼の報酬を払えるのかい? 大量の魔物が居る場所の調査、そして殲滅までする可能性を考えるとちょっとやそっとの依頼料ではこちらも動けないぞ? 可能かどうかは関係ない。相場と言う物があるからね」
意外だ。この人は女子からの依頼ならば受けてしまうのだろうと勝手に思っていたのに。
「……私は村の代表として来ています。村の財源には限度がありますが、可能な限りのお礼をするつもりです!」
「ふむ。それでは結果的にどの程度の報酬になるかは分からないね」
「……やっぱり、危険だからダメでしょうか……?」
依頼主が先ほどと打って変わって悲しそうな顔になる。
それを見たサクラコさんは、完全に悪人の顔になって笑った。
……これはろくな事にならないやつだ。
「危険は無いさ。あたしにかかればそんな奴等すぐに始末してやるよ。それと、君の村に女性はどのくらい居る?」
「えっと……女性、ですか? それなら十五人くらいは……」
「よし、もし依頼料が足りない場合はそちらで補填させて頂こうじゃあないか」
サクラコさんはぽんっと膝を打って「契約成立だ!」と叫ぶ。
補填させて頂こうじゃあないか!
じゃないだろ……。
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