魔王様のお友達大作戦。
「ではどうぞごゆっくりと……」
私を浴場へ案内してペンギンが下がっていく。
あ、結局名前聞きそびれちゃったな。
……まぁ後で聞けばいっか。
浴場の入り口はスライド式の木製ドアが付いていて、その扉の前には結構広い部屋が一つある。
一応ここで服を脱いで入るって感じなのだろうか? ここが脱衣所? そもそも魔物さん達に脱衣っていう概念があるのかな……?
……まぁ、魔物さんだって服くらい着てるか。そういえばさっきのペンギンだって妙にピシっとしたタキシードみたいの着てたわ。
うんうん。魔物も服を着るし脱ぐ……っと。
私はとりあえず血液塗れで気持ち悪い服を脱ぐ。
血が固まっていて、ぺりぺりと服が身体からはがれていくような感覚が尚更気持ち悪い。
籠とか気の利いた物は何もなかったので入り口のすみっこの方に畳んで置いた。
扉の横に楕円形で綺麗な装飾が施されている大きな鏡があった。
ふとそこに映った自分を見る。
おーめっちゃ可愛いじゃん!
あぁ、確かに自分がこんな顔だったっていう記憶があるようなないような。
だけど、この顔が自分だっていう確たる自信みたいな感覚がある。
顔は変な色の血がかかっちゃっててグロいけど、パーツはとても整っているし、髪の毛は綺麗な銀髪。だけど艶々っていうよりどっちかっていうと艶無しな感じ。
……え、もしかして傷んでるのかな?
ふと不安になって手櫛で髪を触ってみるけど、そんな事はなさそう。
こういう色なんだね。
体形はちょっと細すぎるくらいだけど整ってるし、出るところはしっかり出てる。
かんぺきなぷろぽーしょんだ!
しっかし私はなんでこんな綺麗なのに魔王なんかやってたんだろう。
上手くやれば一生ちやほやされて生きていけそうな感じするのに。
私はしばらく鏡の前ですっぱだかでいろんなポーズを取って自分の身体の完璧さを確かめた。
……あ、お風呂入んなきゃ。
ガラララっとドアを開けると、まるで露天風呂にでも来たかのような大きな湯舟。
ワイルドな感じに大きめの岩がごろごろあって、歪な円形の浴槽……浴槽って言っていいのかこれ?
とにかく、室内なのにそこだけ天然露天風呂みたいな景色だったのだ。
これなら屋外に作ったっていい感じだと思うけど……いや、雨ふったらやだからこの方がいいな。うん。
湯気がもくもくと上がっていて、浴場は全体的に白いもやに包まれていたが、誰か一人先客がいるようで青っぽい肌が見えた。
一瞬男かと思ってヒヤっとしたけど、ちゃんと胸もぼんっ! って感じだし大丈夫そうだ。
「おじゃましま~す」
一応礼儀として声をかけて、その辺の岩の一つに腰かけた。
どうやら椅子替わりになっていて、中央のお風呂の周りにはぐるっと川みたいにお湯が流れている。
桶が置いてあったので、おそらく岩を椅子替わりに座ってこの流れてるお湯を桶でくんで頭や身体を洗うんだろう。
よく見るとなんだか白い塊もちらほら置いてあった。
手に取るとぬるぬるする……これを泡だてて洗えって事だよね……?
「適当に洗ってこっち入っておいでな~とってもいいお湯やで~♪」
女の人が天井を仰ぐようにぐで~っと両手を広げて風呂の淵に寄り掛かっている。
その額というか目の所にはタオルみたいなのが乗ってた。
そういえば私タオルとかなんももってないじゃん。あのペンギン気が利かないなぁ。
「はぁ~い♪ すぐそっち行きますね☆」
なんかいい人そうでよかった。私が知ってる魔物なんていきなり私に血液ぶちまけて死んだジャなんとかとペンギンだけだから、女の人が居る事が嬉しい。
わしゃわしゃっと頭や顔を洗う。
これ一つで全身洗えるとか万能だなぁ。しかもざばっと流してみると、肌はつやつや髪の毛もキシキシしない。
これすっご! 何で出来てるんだろう?
私は最後にもう一度頭からざっぱーんとお湯を被ってから、お風呂で鼻歌を歌ってるお姉さんの隣にちゃぷんっと入った。
「おじゃましま~す。ここ広くていい場所ですね♪ 温度もちょうどいいし気持ちいいなぁ~♪」
自然と声も弾む。
こんな素敵なお風呂に入れるとは思って無かったよ。
「だしょだしょ~? ここは野郎共は入ってこれない特別な場所なんよ。普段はあたしたちもあまり使えないんだけどほら、今魔王様が眠っちまったままでしょ? だからいつでも使い放題ってやつなんよなぁ~」
そう言いながら青い肌の女の人が顔にかかったタオルを取る。
びっくり。
頭にはこう、うにっと曲がった短めの角が両脇に生えていて、その顔には目が一つしかなかった。
でっかい目が一つ。
単眼ってやつかな??
「お姉さん綺麗だね」
「おやおや~? どこの野郎に吹き込まれたのか知らないけれど私にそんな事言う奴ぁいないってもんよなぁ~」
「ううん。本当に綺麗だと思う。肌は蒼く艶々してるし、目もおっきくて綺麗だし睫毛すっごく長い!」
「うへへっ、やめぇや。普段褒められ慣れてないもんでそんなおべっか言われたら照れるって……う、え、……あ??」
お姉さんが照れながら私の方をチラっと見て、完全に固まった。
「ま、ままままっ、まッ!!」
「……ま?」
「まおうさまぁぁぁぁ!?」
「えーっと……うん、魔王だよ?」
「し、しつ、失礼しましたぁ!! ど、どうか命だけはっ! 命だけはぁぁぁぁっ!! ぐぼぼぼっ」
お姉さんが大きな瞳からぼろぼろ涙を流しながら命乞いをして、お湯の中で頭を下げるもんだから溺れそうになってる。
うーん。ちょっとこんな感じになるんじゃないかなーって予感はしてたけど、やっぱりダメだったかー。
私はお湯に沈んでいくお姉さんの腕を掴んで水面にその顔を引き上げた。
「お、お願いですっ! 謝りますからっ!! だから、だからっ!」
「あのね、よく聞いて」
「ハイっ! なんなりと!!」
「私と、お友達になってくれる?」
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