元魔王が苦手な男。


 ……うぅ……。

 なんか、儂めっちゃ気まずいんじゃが……。


「ヒルデガルダ様、どうかされましたか?」


 こいつじゃ。

 アレクセイ・バンドリア。

 こいつが王国騎士団を纏める総騎士団長だったという話じゃが、それは正直どうでもいい。


 そんな事よりも手伝ってくれる事になったはいいのじゃがずっと無表情じゃし堅苦しいし儂息が詰まる。



 儂等は二人でリャナを旅立ち、儂が現在感知する事の出来る大きめの魔力の発生源を目指して進んでいた。


 アーティファクトを探すにはそれっぽい反応を片っ端から潰していくしかない。


「ヒルデガルダ様?」


「あーヒルダでよいヒルダで。時にアレクよ、お主何故以前儂らがリャナに来た時に事態の解決をせなんだ?」


 もし本当に総騎士団長とかいうやつで実力があるのならば、こいつが動けばすぐに解決するような話じゃったろうに。


「ゴギスタさん達の事ですか? 別に人に害をなしていなかった時点で私が動くほどの事ではないと思っていましたからね。それに貴女方のおかげで私が動くよりも余程いい着地をしたと思っています。これでも感謝しているんですよ?」


 片目に付けた妙な物……モノクルというらしいが、それをクイッと持ち上げて位置を直すようにしながらアレクはそう言った。


「本当かのう……。そして何故今になって協力するつもりになったのじゃ? もし平和を危うんでの事ならばあの時に一緒に来てもおかしくないと思うんじゃが……」


「それは私には仕事がありましたし、あの時点ではすぐに魔王と決戦が始まるだなんて思いもよりませんでしたからね」


 ……まぁ、そう言われてみればそうじゃな。

 魔王、メアと戦う事になるのはもっと先じゃと思っておった。


「ん? 仕事がありました、と言ったがまるで今は仕事がないような口ぶりじゃな」


「えぇ、リャナでの業務は終了いたしました。今ではホビットドワーフの方々も事務員として働いて下さっていますし、私も後任に仕事を一通り教えてきたので問題ありません」


 ……そして、アレクは儂らが魔王と戦った後の事を語り出す。


「エルフ達が我々人間に歩み寄りを見せ、貴方方と魔王が戦ってセスティ様が戦死したという話を聞いてから私もいろいろ一人で調べていたのです」


 こやつが言うには、あの戦いの後セスティを失ってしまった事を危うんだアレクは、魔王の生死を含め脅威が残っているのかどうかなどいろいろ調べていたらしい。


 もし状況が悪いようならなんとかしなくてはならない。その為に、出来る事を少しでもしておかなければ……という事らしい。


「それで分かってきた事はあります。まず一つ。魔王の生死についてですが、これについてはおそらく生存しているであろう、という事ですね」


「曖昧じゃのう?」


「それ以上確認のしようが無かったのです。貴女とお会いしなければ死んでいると思ったかもしれませんが、貴方が生存し不自然にこの時期になってから発見された以上、そこには何かしらの意図がある物と推測できますし、ならば魔王が死んでいるとは考えにくい。しかし、それを立証する手立ては今のところありません」


 話が回りくどい……。分かりにくいのじゃ。


「そしてもう一つ。何故か、この世界の魔物が姿を消した……という事です」


 ……? どういう事じゃ?

 魔物が居なくなった??


 儂の怪訝な表情を見てか、アレクは補足説明を始めた。


「正確には完全に居なくなったわけではありません。ただ、目撃情報が極端に減りました。それに魔物がどこかを目指し大移動しているのを見かけたという情報もあります。魔物は現在どこかに集結しているのかもしれませんね」


「それは……今は一時の平和が訪れておるがその後に何が起きるか分からぬという事かのう?」


 アレクは顎に手を当て少し考えてから言葉を続ける。


「それは一理あると思います。もしどこかで何かを企んでいるのであれば、そのうち総攻撃があるかもしれません。でももう一つ不思議な事がありまして、これはプルット氏のところでも少し話しましたが魔物の代わりに魔族の目撃情報がちらほらと」


 それじゃ。


「魔族が何故今頃になってこっちに帰ってきたのじゃ? そもそも本当に魔族なのかのう?」


 アレクはじっと儂を見つめて眉をひそめる。


「以前から思っていたのですが貴女、何者です? 貴女くらいの年齢で魔族の事を知っているというのは不自然です。しかも【帰ってきた】と言いましたね。それはどういう意味ですか? 貴女は魔族に関して何か我々の知らない情報を持っているのでは……?」


 うーん。

 こいつをどこまで信用していいものか。


「アレクよ。お主は儂が何を言っても信じるか? そして、儂その物を信用する事ができるか?」


「……内容にもよります。……と、言いたいところですが信じる事にしましょう。なにせセスティ様のお仲間ですからね。彼が貴女を傍に置いた理由にも関係あるのでしょう?」


 儂は、覚悟を決めて自分が何者なのか、そして現在どういう状況なのかを説明した。

 かなりリスキーだったがこいつしか協力者がいないのだから隠し事は逆に面倒な事態を引き起こしかねない。


「……さすがに、にわかには信じがたいですが……きっと本当なのでしょうね。それが事実なら一時期魔物が大人しかった事も説明が付きますし、セスティ様が傍に置いた理由に関しても納得ができます。それに貴女の説明が正しいのであれば魔族の存在についてもなんとなくわかってきましたね」


 そこで会話は止まる。

 妙な物を見つけてしまったからだ。


 壊れた馬車、街道にまき散らされた血液。

 そして、儂等に背を向けた状態で何かをくちゃくちゃ食っている魔物。


 ……いや、儂はあんな魔物知らぬ。

 見た事が無いタイプだ。


「魔物は居なくなったんじゃなかったのかのう?」


「ほぼ、ですよ。それに……あれはおそらく……」


 魔族、なんじゃろうなぁ。

 その辺歩いてて急に遭遇するとは驚きじゃ。


「任せていいのかのう? やれるか?」


 儂の言葉にアレクは無表情で答える。



「当然です」

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