らいごす君の大冒険。


 なぜである? なぜなのである!?


「どうして我はまたぬいぐるみになっているのであるかぁぁぁっ!!」


 確かにメディファス殿に一度完全に形状変化は解いてもらったはずなのである!


 だというのに、我は気が付いたらまた小さなぬいぐるみ状態の姿で転がっていた。


 そして今絶賛魔物に追いかけまわされているところである。


 しかし、どうも襲われているというのとは違うようで、このもふもふふわふわした小型の魔物は我をおもちゃか何かだと勘違いしているようだった。


「こらっ! やめろ! やめんか!! 離すのである!!」


 必死に逃げたが何度も追いつかれ転がされ咥えられては放り投げられまた逃亡し追い付かれ噛みつかれ……。


 やがてこのもふもふ魔物は我を咥えたままどこかへ運んで行こうとしている。


 ……おそらく、以前と同じように一時的にならば力を開放する事も可能であろう。


 であるならば、このようなもふもふすぐに撃退してしまう事も可能であろう。


 で、あろうが……。


 どうにも相手に敵意を感じない物でどうしようか迷う部分があるのだ。


「おいお主も魔物であれば我がなんなのかなんとなくは分かるであろう? そろそろ離してくれてもいいのではないか?」


「くぅん?」


 くぅんではなくてであるな。


 ……ダメだ。このもふもふには我の声が届いておらぬ。

 聞こえてはいるのであろうが通じておらぬ。


 困った。


 そうしている間にもこのまっしろふわふわもふもふは我を咥えてとてとてとどこかへ向かおうとしている。


 しかしここは何処なのであろう?


 少なくとも見覚えは無い。

 もふもふに咥えられながら辺りを見渡しているのだが、来た事は無い場所であろう。


 我は確かあの時メアと名乗る魔王と戦い、魔法攻撃をくらって意識を失っていた。


 その後いったい何がどうなってこうなったのであるか?


 そもそもあの新たな魔王は、我が知っている姿とは違っていた。

 おそらく姿を変化させる魔法か、あるいは見た目、身体自体を弄ってしまったのか。


 それは我が考えても分かる事ではあるまい。

 今重要なのはメアに敗れた事と、セスティ殿が取り込まれてしまった事。


 セスティ殿が敵わなかったのならばもう誰にも止める事はできまい。

 ヒルダ様はいったいどうなってしまったのであろう。


 せめて無事であればいいのであるが。


 あの性悪魔王の事だから再びヒルダ様を捕らえて牢獄に放り込んでいるやもしれぬ。


 その可能性は割とあるのではないだろうか?


 だとしたら我はきちんと力を取り戻し、魔王城へ乗り込んでヒルダ様を助け出さなければ。



 ……いや、元の力を取り戻した所で我一人乗り込んだ程度ではどうにもなるまい。


 ならばどうする?

 むしろこの姿を利用するというのはどうだろう?


 魔物に見つからないように忍び込み、牢獄へ向かう。

 鍵をどうにかして奪い、中にいるヒルダ様に渡す。


 さすればヒルダ様は鉄格子から手を出して自ら鍵を開ける事も可能であろう。


 勿論ヒルダ様が生きていて、捕らえられているという状況ならば、という仮定ではあるのだがそういう可能性も考慮しておくべきだろう。


 しかしどうやってそれを確認する?

 生きているかどうかも分からぬ、捕らえられているかどうかも分からぬ状況で魔王の居城へ乗り込む事が得策とは思えぬ。


 しかし確認方法がそれしか無いと判断した場合、最早玉砕覚悟で作戦実行するしかないのではないか?


 うーん。


 我としては生きていると信じたい所ではあるのだが、セスティ殿が負けてしまった以上ヒルダ様だけではただの子供と変わらぬ。


 メアが殺そうとすればすぐにでも殺されてしまうだろうし、魔王の手にかからずとも魔物に襲われただけでひとたまりもない。


 そう、まさにこのもふもふ程度にいいようにされているぬいぐるみの我のように。


 そして我が何故こんな所にいる理由も分らぬ。

 我がこうして生き延びている以上、ヒルダ様も生きている。


 その可能性も大いにある。

 何がどうなったのかはまるで分らぬが、生きていると信じなければ我はもうどうしていいか分からぬのだ。


 ぬいぐるみとして一生を終える事になってしまうかもしれぬ。


 いや、ぬいぐるみの一生ってなんであるか?


 少し頭が整理しきれていないのか考えがまとまらぬ。


 そしてこのもふもふがあまりに我を揺らすものだからなおさらであろう。


 とにかく、だ。


 まずはこの状況をなんとかせねば……!



「おい白いもふもふよ。もういいであろう? そろそろ気がすんだであろう? ならば我を離すのだ。そうでなければお主に危害を加えなければならぬ。我はそんな事をしたくはないのだ。同じ魔物として、無駄な殺生は……」


「あー! もうどこ行ってたの? 探したのよー?」


 その時、知らぬ声が響き、もふもふが突如加速する。


 今の声はかなり幼い人間の物のようだった。

 まさかこの魔物、少女を襲って食うつもりでは……!?


 まずい。それはさすがに看過できぬ!


 ……我も進んで人間を助けようなどと、随分変わったものであるな。


 なんて考えているうちにもふもふが大きく飛び跳ねた。


 揺れる視界に少女の姿。


 まずい! 余計な事を考えていたら……これでは間に合わぬ!!


「きゃははっ♪ もうシロったら~。やっと帰ってきたと思ったら急に飛びついてきて……甘えんぼさんね?」


「わふっわふっ!」


 ……なんぞこれ。


 どういう状況であるか?


 この少女……このような幼い人間の癖に……。



 まさか魔物を使役しているのであるか!?


 これは、まずい事になってしまったのである。


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