ぼっち姫、VS遺跡の番人。

「せ、セスティ! あれはなんじゃ!? 」


「めりにゃん、ちょっと危ないから下がってて。少し本気出すから」


 今までとは違う真剣な声にめりにゃんも何かを察したのか、言う通りに壁際まで下がる。

 本当はここから出ていてほしいくらいだけど閉まってしまったのだから仕方がない。



 俺は以前にもこいつを見た事がある。

 まだリュミアやアシュリー、ジービルと共に旅をしていて、まだまともな体だった頃。


 もしこいつがあの時と同じものだとしたら。

 あの時の、あの輝く球体はアーティファクトだったっていうのか?


 いや、考えるのは後だ。とにかく今はこいつをどうにかしないと。


 この番人、当時は勝手にゴーレムだと思っていたが、本来ゴーレムはこんなに強大な力を持っていない。

 アーティファクトを守る番人だから特別な力を持っているのだろうか?

 それとも、たかがゴーレムでもアーティファクトの力でここまで強大になってしまうのだろうか?


 どちらにせよ宝の番人という意味であればガーディアンという方がしっくりくる。


 目の前で、その巨大な体を完成させたガーディアンが俺に向かってその太い腕を振り下ろす。


 ここではまだめりにゃんと距離が近いので安易にかわすわけにはいかない。


 ダメージ覚悟でその腕を受け止める。


 ドゴッ!!


 結構な高レベルの防御魔法をかけて受け止めたというのに腕がビリビリと痺れ、その腕力で俺の体は膝くらいまで地面にめり込む。

 俺を中心に地面がクレーターのように抉れ、遺跡内が振動に震えた。


「くっそがぁっ!」


 俺は奴の攻撃を受け切り、その腕を思い切り殴り返した。


 例えばこれが普通の魔物ならば。

 例えばこれがあのガシャドとかいうガイコツだったならば。


 一瞬で粉々にできると断言できる力でぶん殴った。


「……ちっ、やっぱりあの時と同じかよめんどくせぇな」


 俺の拳は間違いなく奴の腕に当たり、バリン!と音を立ててその腕に大量の細かいヒビが入る。そして


 ぶにゃりと、液状に姿を変え、またすぐに元通りの腕が再生した。


 物理攻撃が通らない。

 それで当時の俺はかなり苦戦する事になった。


 当時俺が生き延びる事が出来たのはただ単に運が良かっただけ。

 勝ち負けで言えば一度こいつに負けているのだ。


 しかし、俺はあの頃の弱っちい俺じゃない。

 勿論その後手に入れた力も今はかなり弱体化してしまっているが、その代わり手に入れた物がある。

 そして、俺が新しく手に入れたこの力は……。



「お前と戦うにはおあつらえ向きなんだよ!」


 俺はガーディアンの攻撃を潜り抜け、懐に潜り込むと、その足に思い切り拳を叩きつけた。


 先ほどと全く同じのただの物理攻撃である。

 すると、ガーディアンの足にヒビが入り、またあの液体状に変化する。


「くらいやがれぇっ!」


 俺は剣を抜き、その刀身に炎の魔法を纏わせ、液体状になっている奴の足を切り裂く。

 一瞬。


 その一瞬で切口から一斉に沸騰、蒸発し、切り離された足は粉々になって消える。


 片足を失いバランスを崩したガーディアンはその場に崩れ落ちた。


 俺はその隙に奴の頭まで飛び上がり、頭部を思い切り蹴り飛ばした。

 その頭はまるでボールのように胴体から切り離され飛んで行くが、不自然に空中で停止したかと思うと再び液状になり胴体へ戻ろうとする。


 結局のところ切り離す事ができても物理攻撃では倒す事ができないという事だろう。


 その頭部が胴体に戻る前に俺は再び炎の魔法を纏わせた剣で切りつける。


 ガキィィン!


「なっ!?」


 今度は弾かれてしまった。

 よく見ると奴の頭はマグマのように燃え滾る液体に変化している。


 以前と同じだった。ガーディアンは、あの一撃で俺の攻撃への対処を学習したのだ。


 しかし、それならそれでやりようがある。


「凍っちまいなぁーっ!」


 すでに胴体と融合しかけているその頭部を、今度は氷の魔法剣で切り離す。


 すると切り口から一斉に凍り付き、その頭部も粉々に砕けて消えた。


 足と頭を失い、胴体と腕、片足だけになったガーディアンが俺めがけてめちゃくちゃに腕を振り回してくる。


 それを冷静にかわし、腕を殴って粉砕すると、今度は中から液体じゃなくて氷の塊が現れる。


 炎の魔法剣で溶かそうとするがうっすら溶けた程度で切り落とす事ができない。

 魔法を雷に切り替え、超高速の振動を纏わせた剣でその腕を切り落とす。


 腕が粉々に砕けて消滅した。



 もう片方の腕も同じく粉砕すると、中から電撃がほとばしる。


「いい加減くたばりやがれぇぇぇぇぇっ!!」


 魔法を風に切り替えその稲妻を大気中へ吹き飛ばし、散らすとそのまま腕は跡形もなく消えうせた。


 残るは胴体と片足のみだが、片足だけでは立つこともできずこちらに攻撃すらする事はできない。


 俺の剣が、限界を、こえたらしくボロボロと塵になって崩れていく。


 もう立つなよ……?


 ガーディアンはそれでもしばらくの間俺をどうにかしようとジタバタもがいていたが、やがて動きを止め、静かになる。


「お、終わったのかのう?」


 俺の戦いをじっと見ていためりにゃんが、恐る恐る声をかけてきた。


 その声を聴いて、俺の緊張は解ける。


「うん。もう、大丈夫そうだよ」


 ぶぅぅぅぅうん。

 突然この空間に妙な音が響き渡る。


「な、なんじゃなんじゃっ!?」


 ガーディアンの胴体が、小刻みに震えだし、その振動音が響いていたようだ。


 頼むからガーディアンンが負けたら遺跡が崩落、なんて古典的な罠やめてくれよ?


 ぶぅぅぅぅぅぅん。


 振動がさらに強くなる。


「せ、セスティ……大丈夫、じゃよな?」


「ど、どうしようめりにゃん」


「せぇすてぃぃぃ!!」


 めりにゃんが「うわぁぁぁん!」とめっちゃ可愛く号泣しながら俺の体に飛びついてくる。


 その頭をよしよししながら、考える。


 マジ、どうしよう?

 大丈夫だよね?


 誰か、大丈夫だって言ってくれ!!




『大丈夫です』

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