ぼっち姫、殺されそうになる。
「姫が応援してくれてるんですから頑張らないとですね」
「かなり暗くなってるから指示は頼むっすよ」
デュクシがもっと炎の魔剣を使いこなせるようになれば自分で最低限の明かりを用意しながら戦う事もできるのだが、今のあいつには経験と知能が足りなすぎる。
俺達の前に現れた魔物は二体。
フォレストバットという大型の蝙蝠だ。
超音波でこちらの攻撃を感知して回避し、素早く飛び回って鉤爪で切り裂く。
厄介といえば厄介な相手なのだが、幸いその爪はそこまで殺傷力が高くない。
数発くらいくらっても致命傷にはならないだろう。
フォレストバットは森の中に生息し、日中は木陰でじっとしている。
日が落ちてから本格的に活動をはじめ、主に二~三体で行動する。
自分たちの殺傷能力の低さを理解していて、サポートをしつつ戦う知性があるのだ。
相手を仕留めるだけならばもっと集団で襲い掛かればいいのだが、獲物は大抵の場合単体なので、仕留めた後の奪い合いに発展してしまう。
それも考えた上で少数のチームに分かれているのだろう。
動物だろうが魔物だろうが皆生きるために必死になっているのだ。
だからこそ、命の奪い合いをするからには本気でやってもらわないと困る。
中途半端に怪我をさせた上でもし逃げられるような事があれば、その魔物はしばらく苦しんだ末に息絶える事になる。
もし一命を取り留めたとしても、魔物にもよるが、足、羽、そういう移動手段を奪われていれば結局その後獲物を仕留める事が出来ずに今度は飢えてじっくりと死に至る事になる。
だから俺は殺意を向けられれば全力でぶち殺すし、それが礼儀だと思っている。
二人にその考えを押し付けるつもりはないが、もし重症を負わせた上で逃げられそうになれば俺が始末しよう。
相手はこちらを殺して食う為に来てるのだから、殺される覚悟はある筈だ。
フォレストバットはそれぞれ木の合間を複雑にすり抜けながら二人に襲い掛かった。
「デュクシ、こいつらを引き付けて下さい。私が弓で落とします! そしたら魔剣で止めを!」
「おっけーっす! オラオラお前らこっち来やがれ!」
デュクシがその辺に転がっている石を拾い、ナーリアに敵の位置を確認してもらいながら投げつける。
勿論超音波で感知され、そんな物は当たらないのだが、相手の意識をデュクシに向けさせるという意味ではこれが正解である。
ただ、問題はここからだ。
そして、俺はこの時ナーリアのスキルについて完全に失念していた。
俺は食べ終えた魚の頭と骨を地面に埋めてやり、手近な岩の上に飛び乗る。
ここから高みの見物といこうじゃないか。
「行きます! とりゃっ」
びゅん
「ん? ってうぉぉぉぉあぁぁぁっ!」
どうやったらそうなるのか理解できないが、ナーリアの放った矢が俺の顔面めがけて飛んで来た。
慌ててかわしたので座っていた岩から転げ落ちてしまった。
「いっててて……こんの馬鹿野郎! 俺を殺す気か!」
さすがに俺も完全に気を抜いてる時に頭に矢が刺さったら死ぬかもしれないだろうが!
そもそも俺から見えていたのはナーリアの背中だぞ!? なんでそれでこっちに矢が飛んでくるんだよ意味がわからん!
「ひ、姫申し訳ありませんっ! おそらく百発九十中が……」
弓使いなんてやめちまえ!
「ひ、ひえぇぇっ! ナーリアなにやってんすか! 助けてー!」
デュクシは既にフォレストバットに二度ほど身体をひっかかれているようで、肘からだらりと血が垂れている。
「こいつら黒いからよく見えないんすよ! 早くちゃんと指示くれっす!」
「す、すいません! もう一度最初から行きますよ。次こそはっ!」
再びデュクシがナーリアの誘導で石を投げつける。
それをひらりとかわして一体が距離を取る。
デュクシの隙を狙ってもう一体が別方向から襲い掛かろうとするが
「せいっ!」
ナーリアの放った矢は見事にフォレストバットの羽の付け根に突き刺さり、「ギャオゥアァァッ」と悲鳴をあげながら一体が落下。
「さっきはよくもやりやがったっすねー!覚悟するっす!」
落下してきたフォレストバットが空中でもがくが、あれじゃあもう飛ぶ事はできないだろう。
きちんと仕留めてやれよ?
デュクシが魔剣を柄から剣先まで手のひらでなぞると、それに対応するように刀身が赤くなる。
こいつ、ちゃんと学習してるな。
外に炎をまき散らすのではなく、内部に熱を溜め込んでヒートソードのような効果が発生している。
デュクシはとても美しいとは言えないめちゃくちゃなフォームでフォレストバットを一刀両断した。
断面が赤く溶け出しシューシューと嫌な音と、湯気を出す。
「ギギッ」
一匹だけになってしまったフォレストバットが、分が悪いとその場を逃げ出したのだが、夜目があるナーリアは遠ざかる背中に向け矢を放とうとする。
「おい、止めておけ!」
俺の言葉は間に合わなかった。
ナーリアは俺の言葉に「えっ?」と振り返ったが、指は矢から既に離れていた。
こういう時にナーリアのスキルは正しく発揮され、フォレストバットの背中に向け一直線に矢が駆け抜けた。
遠くから悲鳴が聞こえたが、落下音は聞こえない。
「ど、どうされたんですか? 私、何かまずい事をしてしまったのでしょうか……?」
「ひ、姫ちゃん?いったいどーしたんすか……?」
二人の声に若干の怯えが含まれているような気がした。
余程、俺が怖い顔をしていたんだろう。
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