ぼっち姫、しゅっぱーつ☆



「今毛玉の声が聞こえたよな?」


「はい。確かに……近くにいるんでしょうか?」


 ナーリアと一緒に毛玉を探すのだがどこにも見当たらない。


 意外にも、その答えを見つけたのはまだデュクシだった。


「あの、姫ちゃん。なんか頭のやつぴこぴこ動いてるんだけど……」


 デュクシは俺の頭を指さして困惑していた。


「頭のってなんだよ。俺の頭の上に……ん?」


 あれ、なんだこれ?


 自分の頭を触ってみると、何やら何かがついている。

 毛玉の感触じゃなくて、布地?


「姫、その可愛らしい赤のリボンが動いてるんですがそれはいったい……?」


 赤いリボン?

 俺はリボンなんてつけた覚えはないぞ。


「きゅっぷぷい♪」


「「「しゃべったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」


 三人とも大声で驚いてしまったものの、よく考えればなんとなく何が起きているのかが分かる。


 要するに毛玉は自分のスキル、変化を使って赤いリボンになり、俺の頭の上に張り付いていたというわけだ。


 しかしいったいいつから居たのだろう?

 俺が着替えていた時にはまだリボンなんてついてなかった。

 あの時点では部屋のどこかに居たのだ。


 しかし、変化というのは何かに化けることができるスキルという事だったのだろうか?便利なようで使いどころが難しい。


 何せ俺が変化できるわけじゃなく毛玉が何かになるという事なので、せいぜい日替わりでリボンの色を変えるくらいにしか役に立たない。


 でも、こうやって知らないうちに私の一部になって一緒にいてくれるなんて本当に可愛い毛玉だなぁ。


 そろそろ名前を付けてあげなきゃいけない。私がとびっきり可愛くていかした名前を付けてあげるわっ♪





「えへへ、ほんとはあのふわふわが触りたいけれどマリスがこの格好が気に入ってるみたいだから仕方ないね♪」


 この子にはマリスという名前を付けた。

 毬みたいなふわふわで愛らしい丸さとリスみたいにちょこちょこ動いて頭の上に乗ってくるところ。

 まりとりすでマリス。


「その赤いリボン姫ちゃんに似合ってるっすよ!」

「姫にはもっと高貴な物が似合うと思いますけど……」


「いいの!私はマリスがいいの!」


「姫がそう言うならそれが一番ですね!」


「それにしても最近姫ちゃんどんどん女の子化が進んでないっすか?」


「はっ!?」


 デュクシの一言で一気に現実に帰ってくる事ができた。


 相変わらず恐ろしい。

 奴が言うように最近どんどん症状が酷くなっている。

 近いうちにアシュリーか呪いに詳しい人に会って打開策を考えないとまずいな。


「それにしてもこの王都ともしばらくおさらばっすねー」

「私はここに来てそんなに経ってないのであまり気にならないですけどね」


 二人の話ぶりからすると、デュクシは王都暮らしが長く、ナーリアは最近ここに流れてきたばかりなのだろう。


 王都ディレクシア。

 それがこの都の名前だ。初代ディレクシア王というのはいろいろな噂や伝説の残る人物で、なんでも魔物の巣窟だった地域を、騎士団を率いて掃討し、少しずつ民衆を集めて都を作ったのだとか。

 これはまだ本当の話かもしれないと思うのだが、その伝説の中には人間じゃなかったとか、神の使いだったとか怪しげな話も多い。


 きっと後世に記録として残す際、初代の王をできる限り人間離れした崇拝対象にでもしようとしたのだろう。

 そうする事で信仰が集まり、国を統治しやすくなるという訳だ。


 しかし今となってはそんな風に初代を神聖視する風潮もほとんどなくなってしまったようだ。


 何故かと言えば、純粋に今のディレクシア王が優秀だからに他ならない。

 今の王は確か二十五代目だったか。先代、先々代と無能王なんてあだ名が付くくらい酷くて都が大いに荒れたらしいが、今の王になってからそれをすべて持ち直した。

 貧富の差を可能な限りなくし、スラム化していた場所をすべて真っさらにした。

 ほぼ新しく王都を作り直したと言っていいだろう。


 それがもう何十年も前の話らしい。

 俺も知識として知っているだけで実際のところどうなのか分からないが、少なくともこの王都の人々が信頼し信仰するとしたら初代などではなく今のディレクシア王なのだ。


 今までの王が貯めこんだ財を王都再建につぎ込んで、商業的な交流を盛んにし、国益を出してそれを国民に還元していく。


 もう結構な年らしいが、こんなに暮らしやすい街はそうないだろうから次の世代の王様もまともであっていただきたいものだ。


 俺もデュクシに倣って王都を見渡してみる。昔ここに住んでいた時から変わってない場所も、逆に面影すらない場所もある。

 探せば仲介所のおやじ以外にも知り合いが住んでいるかもしれない。

 だからと言って俺は昔一度捨てた街に今更何かを思うような事もない。

 最低限の聞き込みはしてあるし、酒場の店主にリュミアが来るような事があれば、俺がどうにかして連絡を取りたがっている、と伝えて貰うように言伝を頼んだ。


 王都は空振りだったから……次は、


「次の目的地はここから一日くらい歩いた場所にあるニーラクってとこなんだけど、馬車使う?それとも歩く?」


「俺は剣とかも試したいし歩いてもいいかなって思うんすけど」

「私もまだこの弓をバカにしか撃ってないので実践をしておきたいですね」


「おっけー。じゃあ歩いて行こう♪しゅっぱーつ☆」


 あそこに行くのも何年ぶりかな?

 懐かしいな。


「ニーラクはね、私がリュミアに初めて出会った場所なんだよ」


 何故かその言葉を聞いた二人が、少し嫌そうな顔をした。


 なんでだろ?

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