ある魔法使いの苦悩78 意気投合

「いや、しかしなかなかおもしろい料理だったな」


 シンクはお腹をさすりながら満足そうに呟いた。


 結局なんだかんだとそれなりの量を食べていたから、シンクにとってバイキングという形式は合っていたようだ。挑戦的な料理には手を付けていなかったが、それでも種類は十二分にあるので満足できたようだ。野菜や魚を中心に食べていたみたいだけど。


「気に入ってもらえたのなら嬉しいわ。あたしはもう癖になっちゃって、定期的に行きたくなっちゃいのよね」


「では次に行くときはまた私のことを誘ってくれないか?」


「ええ、喜んで。シンクさんとももっとたくさん話したいし」


 アメリア君とシンクは食事中にたくさん話をしていたのですっかり意気投合したようだ。女子は一緒に食事をすると仲が良くなりやすいのだろうか? 男同士だと酒を酌み交わすのが早いとは聞くが。


「あたしもバイキングだったらたくさん食べられるからたのしかったよ」


「サラちゃんは本当によく食べるわよねぇ。あたしもバイキングは食べちゃうほうだけど、そのちっちゃい身体のどこに入っていくのかしら?」


「わかんない。でも、たくさん食べられるほうがわたしはうれしいな」


「いいのよ、もっとたくさん食べて。サラちゃんもまた一緒にごはん食べようね」


「うん!」


 すっかりアメリア君に餌付けされてしまったな。サラは食べることが好きだから、いろいろと知っていそうなアメリア君と一緒に食事に行ったら楽しいだろうな。いつか私だけ除外されそうだが、女子同士話したいこともあるだろうし、それはやむを得ないな。


 既にサラとシンクとアメリア君の三人でわいわい話をしている。私は少し後ろを付いて行っているが、意外と話には入りづらい。


「シンクさんが魔法の特訓に興味があったなんて思わなかったわ」


「ああ。使えるものなら使ってみたい。使えないならそれはそれで今までと変わらないからべつに構わない」


「さすがに魔力がゼロだと習得は難しいと思うけど……。向き不向きもあるし魔法が使えればいいってものでもないし、使えないからってダメってわけじゃないから」


「そうだろうな。むしろ選択肢が増えることで緊急時に迷いが起こる可能性すらある。使えれば便利そうではあるがな」


 アメリア君はシンクに対して砕けた口調になっている。最初は初対面だから丁寧な口調だったが、すっかり打ち解けてしまったのだ。シンクは結局アメリア君の魔法修行に参加することになった。アメリア君でもシンクのことを見ただけでは魔法が使えるかどうかまではわからないからだ。


「ファーレンさん、次はいつ頃にします?」


「そうだな……シンクに王都の案内もしておきたいし、明後日でどうかな?」


「明後日ですね。その日なら大丈夫です。じゃあ、あたしが場所を抑えておきますので三人で同じ時間にまた来てください」


「わかった。一度に三人も担当してもらって苦労をかけてすまない」


「苦労だなんて……大丈夫ですよ。それにシンクさんはまだ魔法に適性があるかわからないから、それを見てからになるので」


 シンクからは魔力を感じないので適性がない可能性は高い。その場合は彼女の矢筒のように魔導具を使うことになるだろう。それはそれで便利なものも多いので、適性がないのにわざわざ自分で魔法を習得する苦労を負う必要はない。自力で全部なんとかしなくちゃいけない時代ではないのだ。使えるものは便利に使わせてもらう。それが今を生きる人たちの共通認識だ。


 だからこそ私たちの仕事である魔法の研究開発やカスタマイズがあるのだ。より便利に、より効率的に。そうやってその内魔法使いなんていなくなって、一般人も魔法使いも区別がつかなくなる日が来るのかもしれないな。


「しかし、すっかり暗くなってしまったな。アメリア君の家まで送っていったほうがいいかな?」


「大丈夫ですよ。いつものことですから」


 いつものこと、ということはアメリア君は普段から帰りが遅いということか。上級の研究開発は規模が大きくなることも多いし、時間を気にして仕事をしていないようだから帰りが遅くなる日も多いのだろう。


「心配してくれてありがとうございます。ファーレンさんはあたしじゃなくて、サラちゃんやシンクさんをしっかり守ってあげてくださいね」


 アメリア君はニッコリと微笑んだ。眩しい笑顔だ。


「ああ――」


「ファーレンはわたしが守る」


「私は自分の身くらい自分で守れるぞ」


 私が言う前にサラとシンクが割り込んできた。言いたいことはわかるが、今それを言うタイミングじゃないから。


「あはは。これならファーレンさんも安心ですね」


「…………どうだ、頼りになる相棒だろう?」


 結局アメリア君と別れるまで、サラとシンクはアメリア君と楽しそうにおしゃべりをしていた。

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