ある魔法使いの苦悩24 年齢差
私たちは街から北西にある山に立ち入った。
ここは山といってもそれほど大きなものではない。ただ、高さがないだけでかなり広い。傾斜が緩やかなのでサラでも登る分にはそれほど支障はないが、総距離はあるので途中の休憩は必須だ。
若いアメリア君やストーク君はまだしも、こどものサラや年長の私は地味に厳しい。平行距離ならばわりとどこまでも行けるのだが、昇降となるとやせ我慢もしていられない。
サラより先に音を上げたのは……私だ。
「ちょ……ちょっと待ってくれ」
「どうしたんですか?」
呼吸が厳しくなりつつある私に対し、アメリア君は涼しい顔だ。これが若さか。
「思ったよりも登山に体力を奪われてる……遅れがちになっているから、少し休憩を入れてもらいたい」
まだ提案段階なのでなんとか進み続けているが、足の筋肉へのダメージが蓄積されている。
「ファーレンさんって、見た目通り体力はあまりないんですね」
「見た目通り、体力ないんだよ……」
「ストーク! ファーレンさんが休みたいって!」
今回は私たちよりも先行して進んでいたストーク君がアメリア君の声を聞いて戻ってきた。もちろん彼も涼しい顔をしている。
「サラさんもいるので、ここで一度休みましょう」
ストーク君はリュックを背中から降ろすと、中からシートを取り出しサッと広げた。最初にサラに座るように案内し、次にアメリア君、最後に私だ。彼は座らずに立っている。
「ストーク君も座ったらどうだ?」
「俺はまだ大丈夫です。何かあったときにすぐに動けるようにしておきたいというのもありますが」
「……頼りになるね」
頼りにならない私は遠慮せずに休ませてもらうことにした。座った瞬間にどっと疲れが吹き出してきて、汗もじわじわと溢れ出てくる。
ただの登山ではなくドラゴンのこどもがどこかにいないか探しながらの調査となる。しかもいるかどうかはわからない。
ストーク君が先導してくれているから、基本的には彼が先に発見をすることになるだろうけど、ひとりの目では万全ではないので私やアメリア君も周りの様子を探りながらの行程となる。
何かを探しながらの行程は思ったよりも消耗してしまった。
「サラは疲れたかい?」
「ううん、だいじょうぶ」
「そいつはスゴイな」
そういえばサラは初めて出会った洞窟でも平然と私と行動を共にしていたな。街までの移動ではストーク君がサラを気にして休憩を挟んでくれていたが、もしかしてそれすらも必要なかったのかもしれない。
こんなに小さいのに、体力があるんだなぁ。
「今のところは特に変わった場所などはありませんが、奥へ行けば環境が変わってくることもあります。魔物がいれば俺が気づけるとは思いますが、念のためそれぞれ油断なさらないようにお願いします」
「ああ。それくらいはなんとかするよ」
「何もないのが一番なんですけどね」
ストーク君は端正な顔にやさしそうな笑みを浮かべる。男の私が見ても美しいと思うんだから、女性が見たら感動してしまうんじゃないだろうか。
アメリア君は特に気にしている様子はないが、見慣れているというのもあるのかもしれない。
私は持ってきていた水筒から水を補給し、ふぅと大きく息をついた。水分の補充だけでも随分とリフレッシュできるものだ。
サラにも飲ませてあげて、私は再びカバンにしまい込む。
「――お待たせしたね。あまり長い時間休みすぎても進めなくなってしまうから、適度にちょっとずつ休憩をもらえるだけでがんばれそうだよ」
「ちょっとずつで大丈夫なんですか?」
「アメリア君の心配には及ばないよ。長旅には慣れているから急速休息術を身に着けているんだ」
「早口言葉みたいな技術ですね」
「たしかにちょっと言いづらいね」
休み方にもコツがある。身体の伸ばし方や水分や栄養価の補給などで一気に疲れを抜くことができる。疲れやすくて休息が多く必要な場合には、一回あたりを短くして効率化できるなかなか便利なワザだ。
もちろん魔法使い用ではなく、戦闘職や肉体労働とか遠距離移動をするキャンパーなどに必要なスキルなのだが。
「便利そうですね、そのスキル」
「ストーク君は使えない?」
「そうですね。あまり必要としませんから」
若いっていいな!
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