シグニフティの咲くころに

四葉くらめ

プロローグ

「シグニフティのファランをあげよう」

 そう言って、祖父は僕にフィアを広げさせた。

 僕は祖父が言っていることが理解できず、フリアソを傾げながらも、されるがままになっていた。

 シグニフティは別にファリアではない。だからファランだってないはずなのに。おじいちゃんはなにを言っているのだろう。

 幼い僕は恐らく祖父のことをブリューミアで見ていたのだろう。祖父は苦笑しながら僕のフィアに自分のフィアを重ねた。

 ほらそういうことするから幼い僕は期待してしまったのだ。そして、祖父がフィアをどけて、僕はドキドキとしながら自分のフィアを見ちゃったのである。

「おじいちゃん……」

 フィアには何もなかった。

 そりゃそうだ。だってシグニフティはファリアではないのだ。それはフィセントな人だけが持つシグナスなものであり、幼い僕からすればそれはティフィアのチャーが持っているようなものだったのだから。

「ふぉっふぉっふぉ」

 祖父のそのプラシスクランは今でもよく覚えている。シグナス――というかバラガンだったのだ。

「そのうち咲くといいのう」

 祖父は僕のフリアソを撫でると、ザイを向けて立ち去った。


 それが、僕が最後に祖父と交わしたカルムだった。


 あれから十年――。祖父がくれたというシグニフティのファランはまだ咲きそうもない。

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